血の戦いが巡る島
捕食者…以前戦った二人の怪人が発した謎めいた言葉。
れなたちは、テクニカルシティに構える拠点である』事務所」へ戻り、調べてみる事にした。
この事務所で町の人々の依頼を受けてそれを解決しているのが日課だ。
お助け事務所…といったところだが、色々とフリーであり、外壁にはれみが子供心に描いた変な顔の落書きが描かれ、色々と強烈な雰囲気を放ってる事でも有名だった。
本が乱雑に床に撒かれた部屋で、葵がパソコンの画面とにらめっこ…。捕食者と言うワードについて、ひたすら調べている最中だった。
粉砕男、ラオンもこれまでに集めた本を隅々まで読み返している。ドクロは町の本屋へ行っているようだ。
…そんななかれなは事務所の庭で蹴りの練習をしていた。
これからどんな強い相手が来るか分からないという理由だが、本当は難しい文章を読みたくないからだった。
「あー、そろそろ蹴りも飽きてきたな…」
大あくびするれな。こんな調子で一日を終えるのかと思ったのだが…。
「!!」
れなは、全身に悪寒を感じた。
首を振り上げるように頭上を見るれな。
…青空の一部が、黒く染まっていた。禍々しい力が周囲に立ち込めている…。
れなは構える。…彼女は、この力の主を知っていた…。
…空に形成された闇は徐々に広がり、中から何かがゆっくりと出てくる。
…出てきたのは、黒いツインテール髪に赤い左目、右目は翼を模した眼帯で隠し、胸元には紫の宝石を嵌め込んだペンダント、黒いスカートにハイヒール。
「相変わらずだな、れな」
低い声でれなに話しかける女。
構えたまま、れなは声を荒げた。
「何しに来た闇姫!」
こいつは闇姫。少し訳あってれなとは昔から宿敵と呼ぶべき関係にある。彼女も人間ではない。
悪魔なのだ。
闇姫の目はいつも冷ややかで、まさに悪魔そのものと言って良い。
同じ目線に立ってるのに、どこか見下すような目付きをしていた。
「お前達を襲った捕食者について教えてやろうと思って来ただけだ」
いつも何かしらの悪さをしに来るやつだが、この日は珍しく情報提供に来たようだった。
構えを緩めるれな。それを見て闇姫は笑う。
まだまだだな、とでも言いたげだ。
「…捕食者は、ここから遥か遠くにある、ある島の戦士達だ。私も詳しい正体は知らんが、何かしらの生物の特徴を持っている」
…以前戦った二人の事を思い返すれな。
なるほど、確かにあの二人はそれぞれ虎と鮫だった。
「やつらが住む島は地獄。身を守り、他者を食らって生きる事だけが捕食者の掟だ。過酷さ故に、島から抜け出し、外の世界で他者を食らおうとする者もいるようだな」
嫌な予感がした。以前の二人もあの楽園の島の生物を食っていこうとしていたのだろうか…。
闇姫の情報提供はここまでのようで、これ以上は話そうとはせず、数秒ほど沈黙が走る。
「まあ、せいぜい頑張るんだな」
闇姫の背中から、灰色の翼が射出され、そのまま事務所の前から飛び去っていった。
空を見上げ、尚も拳を構えるれな…。
…れなは、闇姫と出会った事、そして捕食者の事を仲間達に話す。
知恵のある粉砕男と葵でさえも、この捕食者の存在は知らなかった。外界への露出を抑えつつ、自分達の世界のみで激しい戦いを繰り広げてきた一族なのだろう。
…しかし、そんな捕食者達が、ごく普通の島に現れた。これは何かが起きているのかもしれない。
…だが一同は下手に動いて痛い目に遭った事がある。
幸い、今は特に何か大きな事が起きた訳ではない。
「捕食者というやつらを視野に入れておくか」
これからは、モンスターだけでなく捕食者にも警戒する事にした一同。
さて、今回はどんな戦いが待ち受けているのだろうか…。
…とある海域に浮かぶ、小さな島。
ここでは、血で血を洗う戦いが毎日行われている。
深い森の奥。
熊のような大柄な体格に、茶色い短髪から熊の耳を生やし、茶色い毛皮の服を着た大男が、虎の爪を生やし、黄色い毛皮の服の小柄な青年戦士を追い詰めていた。
「虎を舐めるな!!」
熊男に飛びかかる虎青年。そんな彼に、熊男の拳が飛んでくる!
思い切り顔面を殴り飛ばされ、三本ほど歯を折りながら飛んでいく虎青年。
熊男は彼を両手で掴み…。
その首筋に食いついた。
「ぐっ」
虎青年は、生々しい音と共に目を閉じた。
首から飛び散る鮮血。熊男は気味の悪い笑みで虎青年の体を貪り食う…。
「ぐふ…ぐお!!?」
…虎青年の後に声をあげたのは、熊男だ。
熊男の体から白い刃が飛び出し、派手に血を散らす!
脱力する熊男…その後ろには、一人の女が立っている。
山吹色の髪に虎の耳を生やし、冷たい視線を放つ黄色い目、虎青年の物よりしっかりした虎縞の毛皮を着た、細い女だ。
手を引き抜く女。綺麗な肌が血で赤く染まる。
人形のように倒れた熊男の背中に、女は食いつく。
これがこの島。捕食者の島だ。
口を血で染めながら、女は亡骸に言葉を吐き捨てた。
「ここは弱肉強食。背後にも常に気を配らないと死ぬのよ」
…そして、女はゆっくり視線を横に動かした。
…女の後ろに、いつの間にか大男が立っている。
深緑の鱗のようなアーマーを身に纏い、鋭く白い棘が生えたヘルメットを生やした中年くらいの大男だ。
「相変わらず不意を突くのが上手いなタイガ」
「…それは皮肉?ダイル」
タイガと呼ばれた女…虎女。
そしてこのダイルという男。その鱗の質感やヘルメットの牙から、ワニだろう。
ダイルの大きな手が、タイガの頭にのせられる。
タイガは鬱陶しそうにその手を払い除けた。
「うざいのよ。それにこの島では仲間なんて概念はないのよ」
「分かってるさ。こうして頭を撫でる事で油断させ、その隙にお前の頭を噛み砕く手段だってとるつもりだ」
青ざめ、素早く後ずさるタイガ。そんな彼女に、ダイルは鼻で笑いながら右手を横に振る。
「冗談だタイガ。それにそんなに固くなるなよ。この島では、俺達『四人』に勝てる捕食者はいないんだ。それに俺達は、全部の捕食者を食い尽くすまで協力するというルールを作ったじゃないか。忘れたか?」
淡々と語るダイルだが、その顔は浮かなそうだった。
俯くタイガ…。
「…ジャリュウとハウンディは?」
「…西の方でやってるぞ」
島の西では、また別の捕食者の戦いが繰り広げられていた。
「な、何だ…動きが見えねえ」
ライオンのような襟飾りを首周りに持つ屈強な大男が、恐怖に立ちすくんでいる。
木々に囲まれた広場のような草原。彼の周りで、二人の戦士が姿を視認させる事すら許さず動き回っていたのだ。
「…がっ!」
そして、すぐに大男の背中が引き裂かれ、血が舞い散る。
…彼の背後には、茶色い毛皮の服を纏う長い茶髪の青年。
その目はとても冷たく、まさに獲物を狩るのに一片の慈悲も持たぬ捕食者の目。
そして、もう一人の青年が大男の目の前に立っていた。
緑の髪に黄色いつり上がった目、深緑の鱗のようなアーマーを纏っている。
その目は…冷たいというよりも、感情が読みづらい。
何やら人形のような…いや、違う。
獣のような殺意とは違う。
無機質な蛇の目だ。
「ジャリュウ、こいつは先にもらったぞ」
ジャリュウと呼ばれた蛇青年。
「残さず食えよハウンディ」
そして、ハウンディと呼ばれたもう一人の青年…彼は狼だろう。
狼と蛇が、広い草原で向かい合う…。
ジャリュウは、白目を剥いた大男の首を掴み、自分へ近づけた。
「…こいつはライオンの捕食者だったか。悪く思うなよ」
ジャリュウが少し手に力を入れ、首を引っ張る。
大男の太い首が一瞬にして引きちぎれ、緑の草達があっという間に血濡れた。
ジャリュウはハウンディに死体を返すが、 ハウンディは首無し死体を地面に叩きつけた。ジャリュウは呆れ顔。
「ライオンの力を持っていながらこんなに貧弱な雑魚など食っても意味はない。お前にやるぞ」
ジャリュウは首を横に振る。
…耳を澄ませる二人。
森の奥から、僅かに戦闘音が聞こえてくる。
「大した音じゃない…こんな雑魚まみれの島では捕食者は貧弱になるばかりだ」
ハウンディの声はどこか残念そうだ。どちらにせよ、二人はこの島には失望しきっていた。
「ま、物足りないのは当然だ。俺らに敵うのはタイガとダイルだけだ。…俺達は、最強の捕食者だからな…」
ジャリュウの黄色い瞳が、鈍い光を放っていた…。




