捕食者に迫る闇
…闇の世界の漆黒の城にて、闇姫は妹達と共にある遊びをしていた。
ババ抜きだ。今は闇姫が黒姫のカードを引く番だ。
闇姫とそっくりな黒姫の顔…。手元のカードに闇姫の手が添えられ、黒姫はその顔に満面の笑みを浮かべた。
「それババだろ」
「え!?何で分かったの!?」
それを聞いた闇姫は、片方のカードを素早く引き抜く。黒姫は涙目だ。
「私と同じ面であまり表情を変えるな。私が変なイメージ持たれるだろうが」
「闇姫様。計画の準備が整いました」
三人がワイワイしているところへ、部屋に一人の兵士が入る。
紫の鎧を身に包んだ兵士だ。高めの男声だった。
闇姫は立ち上がり、兵士の案内に従ってついていく。
「え、計画って何!?」
闇姫とそっくりな顔にまたもや満面の笑みを浮かべてバタバタと立ち上がる黒姫。
影姫は着物を軽くはたきながらゆっくり立ち上がる。
赤黒いカーペットが続く廊下を歩いていく。
黒姫が、壁にかけられた豪華な絵を興味津々に見つめ、影姫は見向きもせず姉の背中だけを見つめていた。
そして、ある一室へ辿り着く。
「おお!お待ちしてました闇姫様!」
兵士が扉を開けると同時に、高い声が響く。
とても広く、輝く白い壁と天井が広がる部屋。
その部屋の壁に設置されたリフトに、白衣を着た蛙型の怪人がのり、闇姫を出迎えていた。
…そして部屋には、大きなミサイルが配置されていた。
「これぞ闇式ミサイル兵器DRE-707!ダークロケット・エンドの略称で707は単に707番目に製造されたから…」
「説明は良いガンデル。早く捕食者の島の着弾地点を特定しろ」
敬礼する怪人、ガンデル。黒姫は真面目に説明を聞こうとしていたようで、残念そうな顔をしていた。
「お前、ご苦労だった。配置へ戻れ」
案内を務めた兵士が敬礼し、言われた通り部屋から出ていった。
閉められる扉。
…兵士は独り言を呟きながら、廊下を歩いていく。
「あんなミサイルを用意してたとは。悪喰様にお伝えしなければ」
…兵士は僅かに膝を曲げ、何かのエネルギーを遠くへ送った。
テレパシーのようなものだった。
テレパシーは城を抜け、闇の世界から人間界の海へと飛んでいった。
行き着いた先は、捕食者の島だ。
島の地底世界にて、捕食者の王、悪喰の赤い目が、闇のなかで輝いていた。
テレパシーを受けた悪喰は、闇姫の城の兵士…スパイ捕食者が持ち込んだ重大な情報を知る。
捕食者の島に、ミサイルが放たれようとしている事だった。
「悪喰様。やつらはこの島にミサイルを撃ち込むようです。恐らく闇姫や闇姫軍四天王とやらが直接島を破壊しに来れば、強大な魔力で悪喰様に見つかってしまうと考えているのでしょう」
悪喰はそれを聞いても動じなかった。
…目の前にいる紫色の鱗の悪魔を見下ろしながら、悪喰はテレパシーで返事をした。
「こっちには捕虜がいる。やつらも仲間もろとも島を破壊する程非情ではあるまい。今からワシの観念動力でこの悪魔を島の上空に浮かべて盾にする。それに万が一ミサイルが着弾しても、この島はワシの魔力で包み込まれてる。ミサイルの被害は、せいぜい捕食者が二、三人死ぬくらいだ」
「流石は悪喰様!もう対策を練っておられたのですね!では私は更なる情報収集を…」
スパイ捕食者が何気なく振り替える。
…背筋がゾッと凍りついた。
スパイ捕食者のすぐ後ろには、闇姫が立っていた。
物凄い勢いで後ずさるスパイ捕食者。
…テレパシーだから大丈夫、聞かれていない。スパイ捕食者は大きな焦りの中で、何とか希望を灯そうと必死だった。
「お前らの主はどうだ。元気か」
「え、そ、その。えっと、何の事でしょうか。間違えた、何事でしょうか。いや間違えてないか、何の事でしょうか」
バレてない、バレてないと粘り続けるスパイ捕食者。
紫の兜の向こう側の表情は、間違いなく焦りに焦ってる事だろう。
「お前がスパイである事は入軍式の頃から分かっていた。普通ならスパイは直ぐ様特定して追い詰めるだろう。だが私は逆に踊らせる。もし軍に関わる危険が出ようものなら即座に始末するが、お前のような分かりやすいやつは踊らせる事で逆に敵の情報を得られるからな」
「バ、バカでえ!ミサイルの事はもう伝えたぞ。踊らせた結果、計画は台無しだな!」
スパイ捕食者はもう隠す事なく、堂々と伝えてみせた。自分を踊らせた事で闇姫軍の計画は水の泡。
そう思ったのだろう。可笑しくて下品に笑いだすスパイ捕食者だが…。
「あのミサイルは偽物だ」
「…は?」
スパイ捕食者は口を開けたまま止まる。
闇姫はスパイ捕食者を掴んで引きずり、先程の部屋へ戻す。
そしてミサイルに向かって、指先からビー玉にも満たない大きさの小さな紫の魔力の塊を発射した。
ミサイルに当たった魔力は炎となって広がり、数秒でミサイルを燃やしてしまう。
部屋の上部でそれを見たガンデルは、右手から魔力水を発射し、火をゆっくりと消していく。
…残ったのは、黒焦げになった巨大な段ボールだった。
「頭の弱い捕食者でも理解できたか。私の軍の手にかかれば段ボールで疑似ミサイルを作れるのだ」
少し自慢気な闇姫。その横では、同じく騙されていた黒姫が、黒焦げの段ボールを見上げていた。
影姫は分かっていたようで、大した反応はない。
「敵地でむやみにテレパシーを使わない事だな。捕虜の情報がだだ漏れだ」
あまりにも手の平で踊らされているスパイ捕食者。踊りすぎてもう動けなくなったようで、スパイ捕食者が反論する事はもうなかった。
「さて、捕虜となった事で失踪しても軍で大した騒ぎが起きていないという事は恐らく下級兵か。だが一つでも戦力を失うのは惜しい。一人の新兵が投げた石ころで、戦況が変わったなんて話もあるしな」
ゆっくり歩きだす闇姫。
はっ、と意識を取り戻したように、スパイ捕食者が彼女の前に立ち塞がる。
「ま、待て!島へは行かせ」
スパイ捕食者の右頬に衝撃が走り、意識がすっ飛ばされた。
また島へと向かうのだ。
黒姫がついていこうとしたが、影姫が彼女を掴んで止めた。
「あなたが行くとお姉様のイメージがおかしくなるでしょう。私達はお留守番ですよ」
闇姫は、今回ばかりは一人でも余裕と見たようだ。
一人で捕食者の島を制圧。
闇姫の暇潰しが始まる。




