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057  作者: Nora_
5/9

05

 リョウカちゃんと珍しく二人きりになった。

 母が休日のため朝から父は一緒に行動している。

 ナホは他の友達と約束があるとかで先程出ていった。

 ソファの上に置かれたクッションを抱きしめてのんびりしている彼女。

 なんとなく撫でたくなって頭を撫でたら手をがしぃ! と掴まれてしまった。


「ホトリには撫でさせない」

「えぇ……」

「だって変な遠慮するし、心を開いてくれてないから」


 逆になにをどうしたら心を開いているという証拠になるんだろうか。

 特別撫でなられないと困るというわけでもないからソファに座り直す。 


「今日はゲームやらないの?」

「……ナホがいなくてつまらない」

「お昼頃には帰ってくるって」

「つまらない……」


 イライラをぶつけられても困るから部屋へと戻る。

 平日なのにゴロゴロとしていても怒られない新鮮な時間だ、わざわざ気分を悪くしたくはない。

 一緒に行けば良かったのに、だってその子とも喋っていたところを見たことあるし。

 ナホだって彼女のことが――いや、たまには離れたい時もあるか。


「つまらないっ」

「わぁっ、な、なんで来たの!」

「一人じゃ寂しい……」


 わからなくもないけどなにもしてあげられない。

 共通の趣味とかもないからどうしようもないわけ。

 それに彼女がナホ以外お断りモードなのが困ってしまう。


「頭撫でて」

「私はナホじゃないけど」

「いいから!」

「わかったから……」


 ああ、とことんナホに甘えてきたんだなって私は思った。

 そこに父も現れたことで、余計に拍車をかけたというか。

 この先、ずっとこのような感じでいいのかな。

 頼まれているからナホが強くは言えないなら、私が言うのも悪くないかな。

 だけど彼女に嫌われたらナホにも嫌われてしまう……かな。

 なんかそれだけは嫌だ、だけどこのまま放置するのも友達のためにならないと思う。


「……なんかさ、最近また依存してきてない?」

「ナホに?」

「うん、甘えすぎって言うかさ」

「……そんなこと、ないと思うけど」


 まあそりゃ大して仲良くもない人間に指摘されたらすぐには納得できないか。


「私、このままはだめだと思う、お互いのためにならないよ」

「ふーん、嫉妬してるの?」


 嫉妬、もあるから即答できず。

 そのまま黙っていたら部屋から喋らないまま出ていった。

 いやいや、ナホの負担を減らすためでもあったんだ、対応が間違っているとは思えない。

 恐らく父もいてくれてるということで安心しているんだろう、だから戻した形になるのかな?


「はぁ……」


 これが悪いところの一つだ。

 私がナホと仲良くしていたりすると攻撃を仕掛けてきたりする。

 取るなって言いたいんだろうけど、物理攻撃だから勘弁してほしい。


「余計に悪化している気がするなあ」


 でもまあ、きちんと言えたからこれ以上いいか。




「リョウカ、いまは洗い物をしているから向こうで遊んでて」

「ホトリがいるからやだ、嫌いだもん」

「はぁ……ここはホトリの家なんですけど?」

「ホトリのお母さんが払って住めているだけでしょ」


 これはまた随分と嫌われたものだ。

 だけど逆にこの方が対応しやすいこともある。

 逆にリビングに居座ってやったりね、なんならテレビゲームだってやっちゃうよ。

 ――なんて意地悪はしないで暇だから外に出て他人の家の塀でも眺めておくことにした。

 もう夕方だから暗いし寒いし結構くるけど、家にいるよりは気楽でいいから。

 ちなみに父は連休の母に付き合って食事に行っている。

 たまにはそういうこともないとね、せっかくの夫婦なんだから。


「はぁ」


 ため息が増えているなと思って止めようとしたけど出てしまった。

 なんか本当にあの子の家みたいになってしまったみたい。

 結局余計にナホに甘えるようになってしまっただけ、それで嫌われるって最悪な流れだけど。


「ただいまー」

「あ、おかえり」

「ん? なんで外にいるの?」

「なんかこういう時間に外にいると落ち着くからさ」


 父も車から降りてきて母と似たようなことを聞いてきたから同様の説明をする。

 せっかく食事に行った後なんだから気分を悪くさせたくないからね。

 あまり役に立てない以外はいい娘だと思う。


「なら俺も眺めるかな」

「空とか綺麗でいいよね」

「ならお母さんも付き合っちゃう」

「なかなか一緒にいられないから嬉しいよ」

 

 17時から18時ぐらいには帰って来られるから大袈裟だけど。

 それでも二人とばかり盛り上がっている時もあるから寂しいと思う時もあるわけで。

 二人がいない内に母に抱きついて甘えておくことにする。


「ホトリ、俺にはしないのか?」

「この歳でお父さんを抱きしめるとか……恥ずかしいでしょ」

「一緒に寝ようとしたお前が言うな」

「なんですって!?」

「ね、寝てないからなっ? それに実の娘と寝たところでなにも問題は――ぐはぁ!?」


 南無三、私はなにも悪くない、父が墓穴を掘っただけだ。

 それでも近所迷惑になるからと、母は父を連れて中へと入っていった。

 ずっと一緒にいて仲良しで羨ましい。

 1ヶ月すら一緒にいない子とあんなのだからその差に苦笑い。

 なんか、ナホを連れて出ていくとか言い出しかねない感じ。


「出ていくっ」

「待ちなって、そこまで勝手なことは許さないよ」

「ホトリが嫌いだから!」


 想像が現実になりそうな気が。

 ナホに任せて私は家の中に、寒いから仕方がない。

 両親が仲良くしているところを見ていると堪えるので部屋へと退散しましたが。




 結果的に言えば出ていくことはありませんでした。

 ナホが必死に説得したことにより、さすがのあの子も留まることを選んだらしい。

 逆に負担をかけてしまったことになる、寧ろ私が出た方がいいのでは? 行くところないけど。

 だから気を使って近くにいないことにした。

 教室ではあの子が横の席だからどうしようもないけど、放課後とかは一人で帰ったりとかしてね。

 そういう対策のおかげで直接嫌いだとぶつけてくることはなくなった。

 あと、ちょっとは気にしてナホに甘えすぎないようにしているみたいだ。

 で、私はなぜか樽井くんの姉と一緒に帰っているという謎。


「へえ、結構距離あるんだな」

「そうなんですよ、だからお父さんが迎えに来てくれていたんですけど」

「白花が文句を言ったから、だろ?」

「はい、誰だって嫌いな人間とはいたくないじゃないですか」

「それであの二人は車で帰って、お前は徒歩かよ」


 父は迎えに来るのをやめないから乗ってもらうしかない。

 ナホは積極的に家事をしていて父から特に気に入られているからいいだろう。

 まあ、たまには娘の相手もしてくれれば私はそれでいいわけだから? 気にしなくていい。


「それよりあなたは私のことが嫌いなんだと思っていましたけど」

「嫌いとか以前に知らないからな」

「すみません、やっぱり弟さんといるのは……」

「無理しなくていい、合う合わないはあるからな」


 向こうが来ることがなくなったから助かっている。

 近くにいるとまた一人で盛り上がって喧嘩を売ってしまうことがあるから。


「あの、なんて名前でしたっけ?」

「名字呼びでいい」

「なら樽井先輩と呼ばせていただきます」


 嫌だと感じていたはずなのにあっさりとこちらを責めることなく引いたせいで評価が曖昧なままだ。

 無闇矢鱈に人を恨めばいいというわけでもなし、とりあえずは現状維持を続けておくけれども。


「もしかして家に来ようとしています?」

「ああ、栗平と白花が気にいる理由を探りたくてな」

「ま、いいですよ、ゲームもありますので自由にやってください」


 ナホの方とは接点があるわけだから負担軽減になるかもしれない。

 あの子だって先輩がいればもっと遠慮しなければならないってなるかもしれないし?


「ただいまー」

「お邪魔します」


 最初のあれはなんだったのかってぐらい常識的な人だった。

 父に紹介して、私は部屋に行って制服から着替える。

 そのままベッドにではなく床に寝転んで、また天井を見上げた。

 私の存在がナホにとって余計な問題にしかならないのなら、こもっておくのが1番だろう。


「ホトリ」


 この子の謎ムーブには本当に困惑しかない。


「どこにいるの?」

「ここだよー」


 入り口から見えないように寝転んでいたのに意味が失くなってしまった。


「……反省した、ごめんなさい」

「大丈夫だよ」


 回り込むのではなくベッドに乗って上から覗き込むのだけはやめていただきたいが。


「手、貸して」

「はい」


 握ってくれたけど、これはどういう意味でしてくれてるのかねえ。

 嫌いとぶつけてきた時と違って言葉がないからわからないままだ。

 すぐに離そうとしないのは一応仲良くしたいって思ってくれているのかな?


「私もホトリが作ったお弁当が食べたい」

「お父さんが作ってくれた方が美味しいよ」

「……ナホが特別?」

「いや……そんなことはないけど」


 あんまり家事を代わりにやったりすると怒る。

 で、俺の存在価値がなくなるって悲しそうな顔をするわけだ。

 あの顔を見ていると任せるしかなくなってしまうという展開に毎回なってしまうわけで。


「……しょうがないからナホといられる権利をあげる」

「あたしはあんたのじゃないよ」

「「ナホ」」


 なんとも言えない表情を浮かべたナホが現れた。

 ベッドの上に乗っている彼女を下ろし、ナホはこちらへとやって来て頬を掴んでくる。


「ホトリはお客さんを放置して部屋にこもらない」

「す、みましぇん……」


 父やナホたちがいればいいと考えてのことだったのにみんな来てしまったら意味がない。

 それでもナホの言っていることは酷く正しいから1階へ向かったら父とゲームをしている先輩が。


「む、なかなかやりますね」

「俺はゲームが好きだからな、これに関しては誰にも負けないぞ」


 先輩が敬語を使えることに驚いた。

 そして娘の同級生の姉に本気で勝とうとしている父に驚いた。

 しかも負けないぞとか言っておきながら敗北、それで涙目になっているところが面白い。

 あれ、おかしい、調子悪い、言い訳の言葉がたくさん父の口から出てくる。

 ナホもリョウカちゃんもそれに笑って、益々父の慌てようがやばい領域に。

 結果、


「今日は送るからもう帰ってくれないか」


 と、メチャクチャ情けない言葉が父の口から放たれ終了。

 先輩だけじゃあれだろうからとたまには付いていくことにして車に乗り込む。


「なんか久しぶり」

「お前が変な遠慮するからだろ」

「リョウカちゃんに嫌いだって言われてたからさ」


 勝負で疲れたのか先輩はぐーぐーと寝ていた。

 それをなんとも言えない気持ちで眺めて、あれ家の場所は? となり慌てて起こす。

 聞いてみたら結構家から近い場所にあるらしい、父はここら辺に詳しいので間違えずに着いた。


「はーい――って、空島さんか」

「うわ……」


 このヘラヘラ軽薄そうなところが嫌なんだよなあ。

 なにがそんなに楽しいのかがわからない、真顔すぎても嫌だけどさ。


「そんなに露骨に嫌そうな顔をしないでよ。あ、姉さん寝ちゃったの?」

「うん、だから運んであげてほしいなって」

「わかった、じゃあ上がってて」

「は?」

「いいからいいから。あ、お父さんは車で待っていてください」

「了解」


 嫌だーっ、絶対に二人きりで話すのとか嫌だー!

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! でも、家の中に連れ込まれて終了。

 ああ、もしかしたらもう2度と外に出られないかもしれない。

 あの時、お父さんを恥ずかしがらずに抱きしめておけば良かったなあ。


「ちょ、なんで泣いてるの?」

「どうせ乱暴するんでしょ」

「しないよ、ソファに座って」


 逆らったら殺られる! いやだって本当にしそうだもの!


「そ、そそ、それで?」

「落ち着きなって、なにが飲みたい?」

「……100パーセントのオレンジジュース」

「了解」


 あっさり提供されましたけど、これ飲んで大丈夫なのかな……?

 ええいままよ! 一応この建物内には先輩もいるんだし大丈夫だと信じよう!


「ごくごくごくごくごく――うっ!?」

「そういうのいいから」

「いや、美味しいなって」

「うん、結構高いやつだからね。それで話なんだけどさ」


 大人しくソファに座り直して彼を見た。

 先程と違って真面目な顔をしていらっしゃる、それでも簡単に評価を変えたりはしないけど。


「ナホのこと、よろしく頼むよ」

「え?」

「あの子さ、君のこと気に入っているようだから」

「ふーん、それで自分はリョウカちゃんを狙うって?」

「いや、僕は見守る方が好きだからね、自分が間に入るなんてとんでもない」


 ふんっ、多少は謙虚でならなければならないのは人としての常識。

 さすがにメチャクチャクズさんというわけではなかったようだ、嫌わないでやってくれと言った先輩の気持ちが多少、少し、1ミリぐらいはわかった。


「ならあんなこと言わなければ良かったのに」

「化粧はいらない! ナホは十分可愛いよ!」

「わかる! 家ではすっぴんになるから余計に!」


 自分たちだけには信用して見せてくれているのが嬉しい。

 まああの空間で見せないで過ごすという方が無理だけど。


「でも、なんか事情があるのかもねえ」

「どうだろうね、ちょっと幼い感じだから恥ずかしいのかも」

「可愛いは正義だから、馬鹿にする人間がいたらふっ飛ばすよ僕が」

「馬鹿にしている人間があなたでしたけどね」


 オレンジジュースを全て飲んで立ち上がる。


「ま……この前はごめん」

「驚いた、空島さんって謝れるんだ?」

「なんだとごらあ! ――あははっ、それじゃあね!」

「うん、また明日」


 家を出て思った。


「やっぱり樽井くんはだめだな」


 と。

 あそこでからかったりしなければ少しは変えてあげたのになあと呟いて車に乗り込んだのだった。

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