06
リョウカちゃんが寝ている時にナホを無理やり連れて行って正直なところをぶつけた。
「可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、さすがにすっぴんを見せるのはちょっとね」
彼女はそう言って複雑そうな笑みを浮かべている。
これじゃあ樽井くんにキレた意味がないけど、踏み込むと決めている私は止まらない。
「ちょちょ、落ち着いてよ……そんなに褒めたって学校ではやめないから……」
が、彼女はとにかく手強かった。
これ以上言っても不仲になるだけだろうからとあっさり意見を変えて教室へ帰還。
「ホトリ、えと……学校でも見たいの?」
「実は私たちだけ特別に見られているみたいで嬉しいんだよね」
「え、じゃあなんでやめろって……」
「自然な可愛さをみんなに知ってもらいたいなって。でもいいや、やっぱり私たちだけに見せて?」
隠したいような隠したくないような。
彼女の化粧が濃いとか言って馬鹿にする子たちもいる。
だからそういう子たちをぎゃふんと言わせたいけど、大事なのは本人の気持ちだろう。
それに私だけが見られる彼女の一面と考えればどんどんそれが良く見えてくるわけで。
あれだあれ、独占欲がやはり強いんだということだと思う。
「……家ですぐ素を見せているのは信用しているからだよ」
「うん! だからやっぱり私たちだけにしてほしい!」
なぜか私の席に座って寝るのが習慣になっているリョウカちゃん。
代わりにリョウカちゃんの席に座っておくのが正しい対応だ。
起こすと怒る、起こさないと拗ねる、つまりどちらにしても詰みみたいなもの。
「リョウカがごめん」
「ナホが謝らないでよ、それともリョウカちゃんのナホだったの?」
「違うよ」
あれからお弁当も作ったことによって嫌われている状態からは回復できたと思う。
ナホも喜んで食べてくれているし、私の分は父が作ってくれたりナホが作ってくれたりして美味しい。
「ホトリ、今度の日曜日なんだけどさ」
「うん?」
「二人でどっかに行かない?」
眠り姫が怒りそうだ。
でもよく考えたら二人でだけ仲良くされていたのだからいいか。
了承して商業施設へ行くことにした。
あそこなら色々見るだけで楽しめるからいいだろうという考えで。
日曜日。
父が送るとしつこかったけど断って歩いて向かった。
12月に近づいているからなのか寒くて仕方がなかったけど、遊びに行くために車移動というのも味気がないと思ったからだ。
そして、施設内にはたくさんの人がいた。
日曜日なのに制服を着た若い学生さんがいたりなんかりして不思議な感じ。
ちなみに、リョウカちゃんの対応は全て父に任せてある。
ゲームでもなんでもしてあげてと言ったら、「お、俺に務まるか……?」と不安そうにしていた。
大丈夫だろうか。
「どこ行こっか?」
「フードコートかな」
「そうだね、それじゃあ行こう」
アイス、うどん、ラーメン、肉丼、チキンとか色々食べられる。
ただ、下があんな感じだったから予想していたけどメチャクチャ人が利用していた。
それでも私たちは窓際のあまり目立たないところを確保して着席。
「なにが食べたい? あたしが行ってくるけど」
「ならうどん」
「わかった」
これは利用しているわけではなく荷物を見ておかなければならないからだ。
うん、向こうにはたくさんの人たちがいるのにこちらには全然いないから落ち着くなあ。
色々複雑だったけどいまでは慣れたし、二人と上手くやれていると思う。
仲間外れて的な感じにしてしまったことは素直に申し訳ないと考えているけれど。
「はい、シンプルなきつねうどんね」
「ありがとう」
ナホは塩ラーメンを選択したみたいだ。
二つセットで持ってきたことがすごい。
しばらくは麺を啜る音だけが私たちの間に響く。
変に会話を挟まずに食べるところが最大限に味わうコツ。
「「ふぅ、ごちそうさまでした」」
ああ、美味しかった。
先程まで寒い外にいたというのも大きい。
温かさが沁みてやばかった、冗談でもなんでもなくあと1杯は食べられる。
「なんか動きたくないね……」
「わかる……ナホといるだけで落ち着くし……このままここで過ごすのもいいかも」
ちょっと賑やかなのもいいところかも。
突っ伏していたり、頬杖をついて前を眺めているだけでいい。
横にナホがいてくれているというだけで十分だ。
だっていつも見ることしかできなかった彼女を独占できてるんだよ? 嬉しいに決まっている。
「リョウカがワガママ言ってなければいいけど」
「どうだろ、お父さんが甘いからどうなっているのかはわからないね」
あの子は特に父のことを気に入っていた。
ナホもゲームは好きだし付き合うけど、家事もやるからどうしたってずっとは無理になる。
でも、父はとことん付き合ってあげるからそういう点では大きな存在なんだろう。
そう、送り迎え以外ではほとんど私たちが基本的な家事を担当するようになっていた。
父はあの子専属のゲームプレイヤーだ、平日とかはさすがに父も家事などを優先するけどね。
「ワガママ言ってほしい子がいるんだよね」
「え、誰? まさか樽井くんじゃないよね?」
まだ評価は変わっていない。
大事なところで他人をからかってしまうところはだめ。
こんなに他人思いなナホの幼馴染として相応しくない!
……オレンジジュースをくれたことは感謝しているけど。
「ホトリだよ」
「ほとり……あ、私か。こうして二人きりで来ている時点で私のワガママでしょ」
「二人きりでって言ったのはあたしでしょうが」
わかっていない。
彼女が考えている以上に彼女と二人きりでいたいと考えていたのだ。
それが今回は相手の希望で叶ったことになる、どれだけありがたいことなのかを彼女は知らないだけ。
「ナホさんはわかっていないわっ、あなたといられることだけで私がどれだけ幸せなのかを!」
「誰の真似? というか、あたしといるだけで幸せって言ってくれても実感が湧かないしね」
「ほら、二人だけで仲良くしていたじゃない、だからいまはこうして私といてくれて嬉しいのよ?」
メリットばかりじゃないとか言っていた人間がこんなことを言っているのだから笑える。
私は単純なんだ、ちょっとでもそういう機会があればコロコロ意見変えちゃうみたいな。
樽井先輩のことだってあっという間に信用しちゃったし、まあ意固地になるよりはいいはず。
「大体、あたしとホトリって仲いいの?」
「え……そ、そりゃ、対リョウカちゃんと比べたら……仲良くないかもね」
嫉妬して部屋に引きこもっていただけだった。
毎回あの子やナホがく来ることによってすぐにその状態は解除されていたけれど。
……改めて聞かれると仲がいいなんて冗談でも言えない。
「調子に乗ってごめん、置いてくるから貸して」
トレーを片付けて席に戻ることはしなかった。
単純にトイレに行きたかったというのもあるけど、父とあの子を見つけたから大丈夫だと考えて。
なんでいるのかなんて考える必要もない、ナホと一緒にいたいからだろう。
「はぁ」
もうね、ため息ばかりしか出なくて困る。
最近は母も面倒くさい絡みをしてこなくなって減っていたはずなんだけどな。
実の娘みたいに二人と会話をして、一緒にお風呂に入ったりして楽しそうで。
実の娘がいらない的な? ……二人が友達になってくれてからネガティブさがすごい。
一人だった時はもっと上手く色々なことを付き合えていた気がするのに。
それでもトイレにこもってたって仕方がないから席にはすぐに戻った。
女子高生二人と楽しそうに会話している父を見たらなんとも言えない気持ちに。
「お。おかえり」
「うん、ただいま」
おかしなものだ、ここは家というわけじゃないのにさ。
そして、頻度を下げたと言ってもリョウカちゃんがナホに甘えることには変わらない。
そして、それを拒まずに受け入れるのも変わらない。
呆れたような顔をしながらも頭を撫でたりして甘やかすのだ。
私、されたことないよ? そりゃ仲がいいのかって聞くわ。
ここで抜けたりすると意味深すぎるからなるべく邪魔しない場所に座ったよ。
意味もなく普段滅多に利用しないスマホをいじったりして時間をつぶしたよ。
父とリョウカちゃんはどうやら新作ゲームをチェックしに来ていたみたいだ。
車で帰れるだろうからと付き合ったよね、もちろんナホとも一緒にさ。
だけどだめだった、いたくない度が上がっていくだけで消えたくてしょうがなくて。
帰るってなったタイミングで自分だけ歩くことを選択――はあからさますぎてできなかったから乗らせてもらって家で引きこもることにした。
いまはただただ最後まで耐えた私を褒めてほしい。
「ホトリ、今日は楽しかった?」
そこに来ちゃうのが白花リョウカという女の子だ。
楽しかったと説明してベッドに寝っ転がる。
特に被害に遭ったとかではなけどさ、随分と残酷な行為をしてくれるじゃないか。
「新作、面白そうなのがなくてがっかりだった」
「リョウカちゃんにとってはゲームが優先だもんね」
「でも、ナホやホトリのお父さんといられるだけでいいけど」
そうかい……。
もう彼女が契約している家が残っているのならそこに行きたい。
もちろんこんなこと出さないけどさ、空気の読めない人間だけにはなりたくないし。
「そこに私は入ってないんだ?」
「うん」
「残念だなー、悲しいなあー」
メチャクチャ寂しい。
これまでにないぐらいネガティブだからどうしても堪える。
一つだけいい点はすぐに出ていってくれるようになったことだろう。
反省したって言っていたのもナホから怒られたとかそういうのがきっかけかもしれない。
ま、悪口を言われたとか喧嘩になったとかでないなら構わないか。
「おいおい、ナホと全然一緒にいてくれないじゃん」
適当に居残っていたら面倒くさい人に絡まれた。
だってしょうがない、ナホがそれを望んでいないのだから。
「リョウカちゃんが邪魔か」
「邪魔なんかじゃないよ、これまでのことを考えたら自然でしょ」
なんにも進展してなかったんだよこっちは。
そりゃそうだよなという話、だって積極的に引きこもっていたもの。
二人が来てすぐに1階とかへ行っていたのだとしても、あの子がナホを独占していたし。
「うーん、あの子ワガママだからなあ」
「その点、リョウカちゃんはいいよね、なんて言っていたあなたはどこにいったの?」
「いや、最近ちょっと調子に乗ってない? わざと君に見せつけているようなところもあるし」
確かにあのような報告は煽りと捉えることだってできる。
だけどそれで嫉妬なんかしたら惨めな存在として片付けられるだけ。
「余計なことしなくていいから」
「大丈夫、僕に任せて」
――約30分後、空島家リビングには私の知り合い全員がいた。
「リョウカ、私とやろうぜ」
「いいよ、あなたにだって負けないから」
と、先輩はあの子を誘ってプレイ開始。
ナホは飲み物とかお菓子の準備をしている。
最初はぎこちなかったがいまでは気にせず冷蔵庫とかだって平気で開けられるようになっていた。
「ナホ、一緒にホトリの部屋に行かない?」
「「は? なに名前で呼んでんの?」」
「まあまあ、いいから早く行こうよ」
余計なことをするなと言ったのに……私がナホといたくないんだってば。
どうせ仲良くないことがわかったんだからなにも変わりようがないんだからさ。
「へえ、ここがホトリの部屋か」
「まあね、つまらない場所でしょ」
なんかお客さんって感じがしないから気にしないでベッドに寝転ぶ。
「というかさ、リョウカちゃんはまだホトリと一緒に寝ているわけ?」
「いや、最近は寝てないよ、あの子はあたしのところに来るからね」
「へえ、それでホトリに見せつけているというわけか、住ませてもらっているのに酷いことするんだね」
ナホは1度こちらを見てから「そんなことないよ」と口にした。
これでは彼を使って言いたいことを言ってもらっているみたいじゃないか。
彼が帰ったら私たちの間にある距離は余計に酷いものになる。
なによりあの子にとっては面白くないことだから今度こそ出ていくとかありそう。
というかそれがいいのでは? いいことばかりではないのは事実なのだから。
「ま、どこに暮らしていようがそんなの勝手だけどね。でも、いまのままなら家に帰ったらどうかな?」
「ホトリはどう思ってるの?」
「……樽井くんが言うように仲良くするのは自由だけどさ」
どうせ仲良くないんだから家にいてもいてくれなくても変わらないかなって。
言おうとしてできなかった、ネガティブなくせにまだ願ってらしい。
それでもまだこちらを見てくれるんじゃないかって浅ましくね。




