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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
6. Stand by Me(スタンド・バイ・ミー)
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(1)

 一週間前に訪れたワイナリーのジェラート売り場。

 七海がジェラート売り場に近付いてみると、ショーケースの後ろにいたあかねが気付いて、笑顔を見せた。

「あら、この間来ていた千絵ちゃんのお友達の、七海ちゃんじゃない」

 まるで子供のように嬉しそうな屈託ない笑顔を向けたあかねに向かって、七海も笑顔を返したが、自分の笑顔が何となくぎこちないことがわかる。

(――このあかねさん、ノブさんの言う通りに本当に堀之内さんのお母さんなのかな?)



 今から十五分程前。

 行く手をはばむかのように大きな木が倒れている道路の前で、七海と信彦は「どうしようか?」と悩んでいた。

 七海は車をどこかに停めて徒歩でワイナリーに行けばいいのではないか、と提案した。

 多分、ここからワイナリーまでは10分も歩けば着けそうな距離である。

「いや、歩いても同じかもしれません」

 信彦はそう言うと、ため息を吐いた。「歩いてワイナリーに向かったとして、この木みたいな邪魔が入るでしょう。晶の魔法は強力ですからね」

 七海は初めて会った時に晶が雪を降らせたり、この間は自分を助けるために街灯を倒したことを思い出した。

 見た目には「強力な魔法が使える魔法使い」には到底見えないが、晶が強力な魔法を使える魔法使いだということは十分過ぎるほどよくわかる。

「だったら、私一人で行ってみます。あのあかねさんが堀之内さんの本当のお母さんかどうか、私が確かめてきます」


 そして、七海は一人で歩いてワイナリーまでやって来た。

 信彦は近くのスーパーの駐車場に車を停めて、七海が戻って来るのを待っているはずだ。



「こんにちは、あかねさん」

 七海はあかねに軽く会釈をした。

「もしかして、千絵ちゃんに会いに来たの? ごめんなさいね、実は今日は千絵ちゃんお休みなのよ」

「いえ、違うんです。実は、その……、あっ、あかねさんに用事があって」

 七海が少し戸惑いながら言うと、あかねは不思議そうな表情をした。

「私に?」

「はい、少し訊きたいことがあるんです」

「そうなの」

 あかねはまた笑顔になると、ジェラート売り場のカウンターの奥にある掛け時計をチラリと見た。「私、もう少しで休憩時間だから、もしならその時にどうかしら?」

「ありがとうございます! すみません、休憩時間なのに……」

「いえ、いいのよ。じゃあ、少し待っててね」



 七海はジェラート売り場でイチゴ味とラムレーズン味のジェラートを買うと、テラスの席で食べながらあかねのことを待った。

 口の中に広がるジェラートの味に感嘆しながらも、七海の心の中は晶とあかねのことでいっぱいだ。


 果たして、あかねは死んだ晶の母親なのだろうか。


 信彦が月命日に毎回墓参りに行っているから、晶の母親が亡くなったのは本当だろう。

 でも、顔が似ているだけならともかく、左の手の甲のやけどの痕まで同じと言うのは、さすがに偶然にしては出過ぎている。



「――七海ちゃん、お待たせ」

 声を掛けられて七海が振り返ると、あかねが左手にジェラートを持ちながらやってくるところだった。

 七海は思わず、ジェラートを持っているあかねの左手のやけどの痕に注目してしまい、慌てて視線を逸らした。

「本当にすみません、休憩中なのに……」

「いいのよ。じゃあ、どこで話しましょうか?」

「じゃあ、あそこで」

 七海はひと気のないテラスの隅の方を指さした。

 人に聞かれても聞いた人は何の話かわからないかもしれないが、やはり人に聞かれない方が良いだろう、と七海は思った。

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