(6)
しばらく海岸沿いの道路を信彦の車で走っていると、信彦が「あれっ?」と声を上げた。
七海も前方に広がって来た景色を見て「あっ」と声を上げた。
前方に「通行止め」の標識とバリケードが見えてきたからだ。
「通行止めか……。仕方ない、七海さん、遠回りになりますけど、別の道で行きましょうか」
「はい」
「でも、通行止めなんて、どうしてだろう? 特に工事をやっているとかそういう感じでもないのに……」
信彦は独り言のように呟きながら、通行止めの目の前の十字路を左折した。
さっきの海岸沿いの道路とは違う、住宅街の中の道を車で走っていると、今度は踏切の手前で大渋滞が起きている。
踏切が閉まったまま、ずっと「カンカン」と言っているから、もしかすると事故か何かなのだろうか。
「今度は渋滞ですね」
七海が(今日はどうしてこんなにトラブルばっかりなんだろうか?)と首を傾げながら言うと、信彦も不思議そうな表情をした。
「今日はおかしいですね。何だか、行く手を阻まれているかのようです」
「そう、ですよね……」
信彦は全く進まない踏切の前の道路をまた左折すると、もう一つ細い道へと入って行った。
「確か、ここを真っすぐ走っても行けたはずです」
信彦が言った通り、その細い道をどんどん走って行くと、七海が先週見たワイナリー付近の風景が広がって来た。
細い道に入ってから順調にワイナリーへ近付いている。
(――今度こそ、無事に着けそう)
七海が胸をなで下ろした瞬間、目の前に信じられない光景が広がって来た。
「えっ?!」
「何てことだ!」
七海と信彦は驚きの余り、思わず大きな声を出した。
七海と信彦の行く手を塞ぐように、道路に大きな木が倒れていたのだ。
これでは、車で行くことは不可能だ。
信彦は車を停めると、木の近くへと歩いて行った。
七海も車を降りると、信彦の後に続いた。
大きな木は見事に根元からポッキリと折れ、道路を横断するかのように倒れている。
「おかしいですよね?」
七海は道路に倒れている木の端から端まで見ながら言った。「今日、風も強くないし、特に近くで木を切っている人とかもいないのに、この木、どうして倒れたりしたんですか?」
七海が不思議そうに首を傾げると、信彦は妙に真剣な表情をした。
「――あいつの仕業ですよ」
「あいつって……?」
「晶の仕業ですよ、間違いありません」
「堀之内さんの? でも、どうしてですか?」
確かに風も伐採のための器具もないのに、こんなに大きな木を根元からポキリと折ることが出来るとしたら、それは魔法使いの晶くらいなのかもしれない。
七海は前に晶が自分を助けてくれようとして、この木と同じように街灯の根元を朽ちらせて倒したことを思い出した。
でも、どうして、晶がこんな信彦の邪魔をするようなことをするのだろうか。
「多分、晶が僕に魔法をかけているんだろうと思います」
「ノブさんに、魔法をですか?」
「そうです。僕があのワイナリーに行けないように、七海さんが会ったあの『あかねさん』という女性に会えないように魔法をかけているんだと思います」
信彦は七海の方を振り返ると、ハッキリとした声で言った。「やっぱり、あの『あかねさん』という女性は、晶の母親みたいですね」




