(22)
晶はビー玉のような瞳で七海の方をジッと見つめたまま、言った。
――お前の姉ちゃん、本当にその男と付き合っていたのかよ?
「えっ?」
七海は晶の言葉に対して、思わず訊き返してしまった。
一瞬、晶が何を言っているのか理解できなかった。
晶は確か、「お前の姉ちゃん、本当にその男と付き合っていたのかよ?」と言っていたような気がするけど……。
(――何? 一体、何を言っているの? この人)
「――晶」
黙って話を聞いていた信彦が、いつにない真剣な表情で晶の方に歩み寄ったが、晶は信彦のことを手で制した。
「いや、ノブさんだって、こいつの話聞いて何かヘンな感じしたんじゃないの? 俺はこいつの話とさっきのあの男の話を聞いて、『本当にその男と付き合っていたのかよ?』って思ったけどさ」
七海は(そんなことはない……)と思いながら信彦の方を見たが、信彦は言葉を詰まらせて顔を俯かせてしまった。
信彦のあの表情。
もしかして、晶の言う通り自分の話を聞いて「何かヘンな感じ」がしたというのだろうか。
その「ヘンな感じ」は晶がさっき言った、「お前の姉ちゃん、本当にその男と付き合っていたのかよ?」という言葉を聞いて納得できるものだった、ということなのだろうか。
「なっ、何を言っているんですか?」
七海は思わずいつもよりも大きな声を出してしまった。「いきなり何を言うかと思えば、そんなこと言うなんて。『本当にその男と付き合っていたのか』って、そんなの付き合ってたに決まっているじゃない、ですか……」
七海は言いながら、自分の言葉にどんどん勢いがなくなっていくのを感じていた。
最後の方では、ほぼ消えかかったような声になってしまった。
(――そんなこと、ない。絶対にない)
七海は晶が言った言葉を心の中で否定しながら、姉の六華と自分の会話を思い出してみた。
だって、六華は自分が「じゃあ、(あの金子さんは)やっぱり彼氏なの?」と言った時に、頷いていたじゃないか。
――いや、確かに六華は頷いたが、「金子が彼氏だ」と言ったことは一度もなかった。
もしかすると、自分が「彼氏なの?」としつこく訊いてきたから、引っ込みがつかなくなって頷いたのだろうか。
でも、六華は金子と「出かけた」とか「一緒に食事をした」とか言っていたじゃないか。
――確かに六華は金子と出かけたとか一緒に食事をしたとは言っていたが、二人きりで出かけたとは一度も言っていない。
もしかすると、他の友達とグループで出かけたり食事をした可能性だってある。
そう言えば……と七海は思い出した。
金子が自分のアルバイトしているファーストフード店を訪れた時に「(六華に)飲み会のセッティングとかいつもやってもらっているし」と言っていた。
もし六華と金子が付き合っているのであれば、「飲み会のセッティング」と言うのには違和感がある。
そう言えば、六華は「お父さんとお母さんには金子さんのことは内緒にしておいて」と言っていた。
そう言えば、六華のスマホに入っていた金子の写真は、どれも金子を遠くの方から撮ったような写真ばかりで、金子と六華が一緒に写っている写真はなかった……。
そう言えば……と七海はいくつか思い当たる節を挙げてみたが、考えてみれば考えてみるほど、晶の「お前の姉ちゃん、本当にその男と付き合っていたのかよ?」という言葉を肯定するようなことがたくさん挙がってくる。
――そんな。
七海はその場に呆然と立ち竦んでしまった。
(――じゃあ、お姉ちゃんはあの金子さんと付き合っていた、と言うわけではなかったの?)
じゃあ、どうしてお姉ちゃんは病気になって死んでしまったのだろうか、と七海は思った。
あんなに暗い表情をしながら、世間から忘れ去られて……。




