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七海はこの「Tanaka Books」に初めて来て、晶に「3ヶ月ここで働いたら、魔法で願い事が一つ、何でも叶う」と言われた時、最初は「姉を生き返らせてほしい」という願い事を叶えてほしいと思った。
でも、晶に「誰かを死なせたりとか生き返らせたりとかはナシな」と言われた七海は、だったら、せめて姉の死の原因になった金子の妻を不幸にしたい、と思ったのだった。
あんなに優しくて完璧だった姉を奪った金子の妻が、幸せそうに生きているのが許せなかった。
七海は晶と信彦に自分と金子との関係、そして自分がなぜ「不幸にしたい」と言う願い事を叶えたいのかを説明し終わると、フーッと長いため息を吐いた。
七海がため息を吐き終わると、まるで世界中の音が無くなったかのような長い静寂が訪れた。
随分、長く話してしまったな、と七海は思った。
本当は手短に説明するはずだったのに、話している内にどんどん話が長くなってしまった。
七海は金子と姉の六華の話をしながら、自分が泣き叫んだり取り乱したりしないかと心配したが、思ったよりも冷静に話している自分に驚いた。
もちろん、話しながら何度も涙ぐんだ。今だって、涙で目の前が滲んで仕方がない。でも、自分でも驚くくらい冷静に晶と信彦に自分の過去を話すことが出来た。
そして、話し終えた後の、まるで「重荷」を肩から下ろしたかのようなこの感覚は何なのだろうか。
良く考えてみると、ここまで誰かに詳細に姉の六華のことや金子のこと、そして、自分が恨んでいる金子の妻のことを話したことはなかったな、と七海は思った。
もしかすると自分は、ずっと前から六華の死のことについて誰かに話したいと思っていたのだろうか。
話したいというと語弊があるかもしれないが、誰かに六華が亡くなって自分が悲しい思いをしたことを話して、この悲しみをわかってほしいと思っていたのだろうか。
六華の彼氏を奪って、六華を不幸にした金子の妻を憎んでいることを、誰かにわかってほしいと思っていたのだろうか……。
「――そんなことが、あったんですね」
最初に沈黙を破ったのは信彦だった。
信彦は「Tanaka Books」のエプロンのポケットからハンカチを取り出すと目元を拭った。
「すみません、ノブさん、いきなりこんな話をしてしまって」
「いいんですよ。七海さんこそ、ツラいのにこんな話をして下さって……」
「いえ、こちらこそ長い話に付き合ってもらって、ありがとうございました」
七海は言いながら、信彦と同じようにずっと自分の話を聞いていてくれていた晶にもお礼を言わなくてはいけないなと思い、晶の方を見た。
晶は七海と目が合った瞬間、クルッと顔の向きを変えて、七海から顔が見えないようにしてしまった。
(――えっ?!)
七海は思わず心の中で声を上げた。
晶が顔の向きを変える前、一瞬だけ晶のビー玉のような瞳が見えたが、その瞳が潤んでいるようにも見えた。
(――まさか、堀之内さん、私の話を聞いて泣いていたとか?!)
「お前、さあ」
七海が驚いて目を見開きながら晶の後ろ姿を見つめていると、晶がまたこっちの方に顔を向けた。
こっちに顔を向けた晶は、いつも通りの晶だった。
ビー玉のような瞳も、いつも通り静かに輝いている。
「はい?」
「お前さあ、一つ訊いてもいいか?」
「えっ? 何ですか?」
いつもの晶だが、やっぱりいつもの晶らしくないな、と七海は思った。
自分に対して「訊いていいか?」なんて断りの言葉を言って来るとは、いつも通りのふてぶてしい口調ではあるが、いつもの晶なら断らずにずけずけと言ってくるはずだ。




