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「確かに、晶は七海さんのホットケーキを気に入ってますよ。でも、それだけじゃないです。今までのバイトに来ていた人とは明らかに態度が違うんです。本当に七海さんには感謝します!」
明らかに態度が違うって……、今までのバイトの人にはどんな態度で接していたんだろうか、と七海は考えた。
あの晶のことだから、多分、気に入らない人間にはあからさまにイヤそうな態度を取っていたんだろうな、と七海は思った。
「あっ、ありがとうございます。――でも、堀之内さん、私の作ったホットケーキ以外、まともなもの食べてないような感じなんですけど、大丈夫なんですか?」
「晶のこと、心配ですか?」
「いえ! そんなことはないです。ただ、ちょっと気になっただけです!」
七海が慌てて晶を心配していることを否定すると、信彦はニッコリと笑ったが、その後、小さなため息を吐いた。
「晶、かなり偏食なんですよ。基本、ホットケーキとかパウンドケーキとかそういうものか、もしくは僕の作った料理か母親の作った料理しか食べないんです。飲み物だって、ドクターペッパーかビールとかですし。母親も亡くなってしまったので、僕の料理しか受け付けないんですけどね」
七海は「母親も亡くなってしまった」という信彦の発言を聞いて、前に信彦が「晶の両親はかなり前にどちらも亡くなりましたから」と言っていたことを思い出した。
「――あの、前にノブさん、堀之内さんの両親はどちらも亡くなっているって言ってましたよね?」
「はい、どっちも亡くなっています。――晶の両親は、どちらも僕の友達だったんです。中学・高校の同級生でした。で、晶の父親が晶と同じ魔法使いでした」
そう言えば、七海が初めてこの「Tanaka Books」に来た時、信彦は「僕だって、お前の父親から魔法使いだって告白された時は、いくら親友の言葉とは言えまったく信じられなかったし」と言ってたな、と七海は思い出した。
晶も中退したとはいえ、普通に地元の高校に通っていたようだし、晶の父親も信彦の中学・高校の同級生だったと言うことは、普通に学校に通っていたようだ。
やっぱり、現実の魔法使いは普通の中学や高校へ行って、「魔法学校」みたいなところには行かないんだな、と七海は改めて思った。
「堀之内さんのお父さんも魔法使いだったんですね」
「そうです。僕も最初は信じられなかったんですけど、晶の父親――聡と言う名前なんですけど――の魔法を見て、最初は腰が抜けるほど驚きましたよ、懐かしいな。優しいけど男気があって、良いヤツでした」
「優しい?」
七海は思わず訊き返してしまった。
あの晶の父親だから、晶と同じようなふてぶてしい男なんじゃないかと思っていたら、「優しい」とか「男気がある」とか「良いヤツ」とか、到底信じられないような言葉が並んで出てきて、七海は驚いた。
「そうです。晶の父親は良いヤツだったんですよ。――晶だって、今はちょっとふてぶてしいところがありますけど、本当は父親に似て良いヤツなんです。晶は父親似で、見た目も父親の若い頃にそっくりなんです」
「あっ、そうなんですね……」
晶のあのいかにも「美青年」と言いたくなるような見た目で、性格も「良いヤツ」だったら、本当に最強なのにな……と七海は思った。
それこそ、放浪癖こそあるが、七海の好きな「魔法使いジョニー」シリーズの主人公のジョニーのようではないか……。




