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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
3.
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(3)

「晶は本当にかわいい子どもでした。見た目はもちろん、性格も素直で純粋で……。でも、いろいろとゴタゴタがあって、あんな感じに少々ひねくれてしまったんです」

「ゴタゴタ、ですか?」

「はい。僕もそこまで詳しくないのですが、魔法使いというのは世襲制で、一族で本当の『魔法使い』になれるのは一人だけらしいんです。一族の他の人間も一応は魔法使いで魔法を使えることは使えるんですが、世襲で受け継いだ魔法使いに比べれば、強力な魔法は使えないそうなんです。

 晶の父親は世襲で魔法使いになったけど、自分の息子の晶ではなく、別の人間に魔法の力を受け継ぐようにと親戚中に言われていたらしいんですよ。でも、親戚が魔法を良いことに使っていなかったので、父親は勝手に晶に魔法を受け継がせたんです。それで、親戚中からものすごい批判を受けて……。

 晶に魔法を受け継がせて父親はすぐに亡くなってしまったし、親戚からはやっかみを受けるし、残った母親は守らなくちゃいけないし、魔法の勉強はしなくちゃいけないしで、多分、晶は自分を守るためにあんな性格になってしまったんだと思います。

 晶が魔法の使えないビルの外に出ないのは、親戚が狙っているからなんですよ。晶の魔法の継承を狙っているんです。

 親戚がそんなことしなければ、晶も自由にビルの外に出かけられると言うのに……」

 信彦はそこまで話すと、またため息を吐いた。


 なるほど……、と七海は思った。

 晶の性格にはかなりの問題点があるが、確かにあんな性格になるには何かしらの理由もありそうな気がする。

 せっかく父親から魔法を受け継いだのに、魔法を良く使わない親戚中からいろいろと言われて、隙あらば魔法の継承を奪い取ろうとされているなんて、確かに性格も多少はひねくれそうだな、と七海は思った。


「でも、どうして、堀之内さんはこのビルの中だけでしか魔法が使えないんですか? 堀之内さんのお父さんもそうだったんですか?」

「いえ、違いますよ。晶の父親はどこででも魔法が使えましたし、晶だって、前はビルの中以外でも普通に魔法が使えました」

「そうなんですか?」

「はい」

「でも、どうして、ビルの中以外では魔法が使えなくなったんですか?」

 七海は一番気になっていたことを、とうとう信彦に訊いてみた。


「それが、僕にわからないんです。ただ、晶がビルの中でしか魔法が使えなくなったのは、晶の母親が亡くなってからなんです」

「お母さんが亡くなってから?」

「そうです。晶の母親は父親が亡くなってから、このビルに晶と一緒に住んでいました。ビルの上の階にある行政書士の事務所で働いていたんです。父親と同じように優しくてステキで頭も良い女性でしたよ。で、数年前に大きな地震があって……。七海さん、あの地震、覚えてますか?」

「はい」

 確かに数年前、大きな地震が起こった。七海はまだ学生だったが、クラスみんなで机の下に潜って、ガタガタ震えながら地震が過ぎ去るのを待っていた記憶がある。

「あの地震が起こった時、晶の母親はこのビルの中の階段を降りようとしていたんです。で、地震でビルが揺れた拍子に階段を踏み外して、そのまま下まで落ちてしまって……」

「あっ……」

 七海は思わず声を上げた。

 この間、自分が階段を降りようとして、足を踏み外しそうになった時、晶が突然現れて助けてくれたことがある。


 あの時、晶は「お前、何やってんだよ?! 頭でも打ったらどーすんだ?」と言っていた。


 どうして、いきなり「頭でも打ったら」なんて言うんだろうかと思ったが、もしかすると、母親と自分を重ねていたのだろうか。

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