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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
6. Stand by Me(スタンド・バイ・ミー)
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(30)

 七海と晶が神社に行ってから数日後。


 七海がいつも通り「Tanaka Books」に出勤すると、信彦がいつもの笑顔で「おはようございます、七海さん」と出迎えてくれた。

 そして、信彦の後ろには……。

「――よお」

 いつものふてぶてしい表情でチラリと七海を見たのは晶だった。

「ノブさん、堀之内さん、おはようございます」

 七海もいつものように二人に挨拶したが、今日の晶と信彦は何だかいつもと違うような気がした。


「お前、さあ」

 晶が七海に近付くと言った。「今日、何の日かわかるか?」

「えっ? 何の日か、ですか?」

 七海は「今日、何かあったっけ?」と考えてみた。

 今日は特に祝日とかではない。自分の誕生日はまだまだだし、もしかすると、晶か信彦の誕生日か何かなのだろうか。

「その表情かお、全然わかってねーな」

 七海が必死に考えているのを見て、晶が呆れたように言った。

「七海さん」

 今度は信彦がニコニコしながら七海に近付いてきた。「本屋ここでバイト始めて、今日でどれくらい経ったのか、わかりますか?」


「――あっ!」

 七海はやっとわかった。

 自分が「Tanaka Books」でアルバイトを始めてから、今日で3ヶ月経ったのだ。

 あの、「3ヶ月ここで働いたら、魔法で願い事が一つ、何でも叶う」の3ヶ月が今日なのだ。


「七海さん! よく3ヶ月ここで働いてくれました。3ヶ月続いたのは七海さんが初めてです! 本当にありがとうございます!」

 信彦が七海の手を取ると、瞳をウルウルさせながら言った。

「あっ、ノブさん、ありがとうございます」

 七海は信彦がここまで感動して喜んでくれるのは嬉しかったが、少々複雑な気持ちでもあった。

 信彦がこんなに感動するなんて、今までは本当にバイトの人が続かなかったのだろう。

 まあ、バイトの人が続かなかった原因は大体見当がつくけど……、と七海は晶の方に無意識に視線を向けた。

「何だよ? 何か言いたいことでもあるのかよ?」

 七海の視線に気付いた晶が、またもふてぶてしい表情をした。

「いえ、何でもありません」

 七海は慌てて視線を逸らすと、「やっぱり、この人、ヘンにカンが良い時がある」と心の中で呟いた。


「で、さあ、お前、願い事何にすんだよ?」

 晶が腕組みしながら、七海に言った。


 晶の表情から、さっきまでのふてぶてしさが消えている。

 晶の表情は、七海も何度か見たことのある真剣な表情に変わっていた。


「願い事って、何でも叶うんですよね? 人を死なせたりとか、人を生き返らせたりする以外は」

 七海も真剣な表情で晶に訊くと、晶は大きく頷いた。

「そうだよ、何でも叶うって言っただろ?」


 七海は晶と信彦に姉の六華むつかの話をして以来、願い事を何にするのかずっと考えていた。

 姉の死の直接の原因があの金子の妻ではないとわかった今でも、金子の妻のことは憎い。

 姉の代わりに金子の隣で幸せそうに微笑んでいるかと思うと、許せない気持ちになる。

 ふとした時に「あの人、不幸になればいいのに……」と思ってしまう。


 でも、本当に願い事を「金子の妻を不幸にしたい」ということにしても良いのだろうか。

 だって、願い事は何でも叶うんだ。

 もっと、他に叶えなくてはいけない願い事が、叶えたい願い事があるのではないだろうか……。

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