序章
序章
三百年前、世界異変によって三つの月が顕れ、太平洋に大陸が出現した。
その大陸の名はクローディアス、遠い昔に善し神によって数多くの魔王を封印した大陸であった。
が、無論、人間にそんな事がわかる訳もなく、人々は新大陸へと移住を始め、妖精種・亜人種などと交流する事によって王国を築いた。
だが、大陸が顕れたと同時に暗闇のドームに封印された国があった。
忘却の呪いによって忘れさられた国の名は黄金の国ジパングという。
剣と魔法に科学を組み合わせた魔道機関が発達した世界では、神々も魔王もまた忘れられた存在でしかなくなり、そして、脅威的な力でしかなかった。
「グロウワーズ魔道学院」
ポスターを見上げて青い民族衣装の子供が呟く。
一房だけ長い黒髪を束ねた、独特の紋様を織り込んだ布でまとめている子供。
灰色の仔犬を連れ、片足の白い梟を連れたその子供はポスターから視線を外し、町を歩きだす。
目指したのは町の中央にある屋敷。
「人が一杯」
「葬儀のようだのう」
子供の呟きに白梟が声をかける。
「葬儀、遅かった?」
喪服の人々を覗き込むと、一人の子供と目が合う。
シンプルな黒いワンピース姿で、金髪を二つにまとめた女の子は不安そうに周囲の大人を見回し、子供を翠の瞳で見つめてくる。
「あの時の、娘か」
ため息混じりの白梟の声に子供の方は、女の子をから視線を外し、屋敷から離れていく。
「彼等は亡くなったの? それじゃ、手掛かりがなくなってどうする?」
「一度戻らないとな。次は…」
白梟が示したものを見て、子供が小さく頷く。
「私が、グロウワーズ魔道学院へ」
渡された封筒に印刷された学院名を確認し、教師に目を向けると、教師は張り付けたような笑顔で頷いて少女を見つめる。
「ええ、その通りです。クライディア・ランバルトさん、あなたに入学書類が届きました」
「で、でも私は魔力がないって…」
「そう言われていましたが、あなたに入学書類が来たのは間違いありません」
苦汁の表情で言う教師に、少女はずり落ちてきた眼鏡を直す。
「本当、あなたは我が校からは十数年ぶりの魔法使いの卵ですので、頑張ってください」
教師は渋い表情をより渋さを増し、少女を見つめてため息混じりに見つめるだけ、少女の方は眼鏡を押さえたまま頷くしかなかった。
「ランバルトさん、くれぐれも我が校、我が町の名誉のために魔法使いになってください」
「は…はい」
頷いてクライディアは封筒を手に職員室を出ると、廊下に居た生徒達の冷たい視線を浴び、その中心に居る同年代の少年を見る。
憎しみに近い視線から目を背けつつ、クライディアはそのまま学校を後にし、早々に世話になっている叔父の家に帰ると、屋根裏部屋から少ない荷物をまとめて逃げるように家を出た。
声を掛けられれば止められると思ってか、封筒に添えてあったロンドン行のチケットを手に駅へと走って町を出た。
魔法使いになっても、この町に戻る日はこないと思っていた。