王女ララウェル
ララウェルは面差しが変わるほど、やつれ果てていた。
以前の、周囲を明るくするような柔らかい微笑みはどこにも見えず、長い睫毛が深い影を落としている。
透き通るような青白い肌、そして寂しげに濡れた瞳。
ララウェルは、すでにこの世の者ではないような、そんな儚い様子をしていた。
その様子に、カイナスは衝撃を受けた。
ここまで憔悴しているとは想像もしていなかった。
カイナスは、ララウェルの病は若い娘にありがちな、一時的なものだと簡単に考えていたのだ。
恋に恋する自分に酔ってるだけの恋煩い。
カイナスは心の奥で小馬鹿にしていた。
しかし、憔悴したララウェルの姿を目にした途端、そんな考えは一気に吹き飛んだ。
「姫。わたくしめのことを、ここまで想ってくださり、誠に光栄に存じます。ですが、わたくしはあなた様を娶ることはできません。正妃をおくつもりはないのです」
カイナスは枕元に跪くと、真摯な瞳でララウェルを見つめた。
「存じております。父――国王から何度も諭されました。クーラヴェルハイム公、あなたのお立場も、よう存じております。お心を煩わせてしまい、申し訳ありません」
ララウェルは長い睫毛を揺らしながら、か細い声を消え入りそうに震わせた。
今にもララウェルが目の前から消えてしまいそうな気がしたカイナスは、思わずその手をとり、両手で包み込んだ。
「姫。どうか、わたくしの為にも、一日も早くお身体を……」
カイナスは元気づけるように、手に力をこめ、ララウェルの手をギュッと握った。
ララウェルは瞳を揺らしながも、口元にかすかな微笑を浮かべた。
カイナスは熱いまなざしで、ララウェルをじっと見つめていた。
「私、なんだかお腹が空いてまいりましたわ」
ふいにララウェルはそう言うと、ニッコリと笑みを浮かべた。
周囲を明るくするような笑顔だ。
「左様でございますか」
カイナスはホッとして微笑むと、侍女の一人に目配せをした。
侍女はパッと顔を輝かせると、部屋を出て行った。
カイナスはララウェルの細い身体を抱き起こす。
ほどなく、ララウェルの目の前に食事が用意された。
「クーラヴェルハイム公。そんなにじっとご覧になられたら、恥ずかしくて食べられませんわ」
匙を持つララウェルの頬に微かな赤みがさした。
「これは気がつきませんでした。すみません」
カイナスは慌てて身体を引き、少し向きを変え、ララウェルを直視しないようにする。
ララウェルはクスッと笑うと、粥を一口すする。
カイナスは、そんなララウェルの様子をじっと観察していた。
「美味しい」
満面の笑みを浮かべたララウェルは、次々に粥を口に運んだ。
皆がじっと見守る中、カチャカチャと椀と匙がぶつかる音のみが、室内に響く。
「ああ、美味しかった」
あっという間に粥を平らげたララウェルは、少しうっとりとしたように天井を見上げた。
室内はホッとした明るい空気に包まれた。
「姫。安堵いたしました」
カイナスは、明るい表情のララウェルに微笑みかけた。
ララウェルもカイナスを見て、にっこりと笑った。
「では、わたくしめは、これにて」
カイナスは立ち上がり一礼した。
ララウェルもつられたように軽く頭を下げた。