連絡と診察(2)
「おは……よう、レイカ」
彼女は無表情のまま、私を見た。
「頭がぼうっとするの。ねぇ、パソコンの前まで連れて行って」
「どうぞ休んでいてください」
「だめよ」
ぴしゃり、と彼女は言う。
「今日も私の会社は動いてる。とりあえず、私がどうしてもしなくちゃいけない仕事以外は、任せられる人物がいるから、その人に連絡をするわ。三十分ぐらいで終わるから、はやく」
「レイカ、俺が」
ラインはそっとサキ様に近づき、彼女を抱き上げてゆっくりとコンピューターの前まで移動した。私はその間に、コックに連絡し、水と食事を持ってきてもらうよう頼んだ。
「何か操作で手伝えることは……」
ラインの言葉に、画面をまっすぐ見つめながら、サキ様は答えた。
「そこの下の電源を三つ入れてくれる? そう、その丸いボタン……ありがとう」
画面が明るくなる。
「もう大丈夫。汗が酷いわ、タオルを持ってきてもらえる?」
私はすぐにタオルを持って行った。彼女の汗は、拭いても拭いても次から次へ溢れてきた。顔が青白いのに、汗が出ている。心配だ。
「サキ様、お医者様を呼びましょう」
「だめよ……私の知っている医者なんてみんな、お父様とお母様のことも知ってる。面倒なことになりそうで……いやだわ」
「ですが」
「いや、やめて。お屋敷の中だけに混乱は止めておいてほしいの」
「じゃぁ、知り合いの医者を呼んでもかまいませんか」
と言ったのは、ラインだった。
「有名な医療機関で働いているような医者ではありませんが、腕は確かです。私の、友人です」
「信頼できる人?」
サキ様は、ちらりとラインを見た。ラインは、すぐに頷いた。
「はい」
「信じるわ。すぐに家に呼んでちょうだい」
「ありがとうございます」
ラインは立ち上がり、携帯を取り出した。ボタンを操作している途中で
「ただしライン、あなたも診てもらうのよ」
とサキ様が言った。え? と聞き返すラインの方は見ず、サキ様は淡々と言った。
「汗がひどいわ」
「……分かりました」
ラインは頭を下げると、部屋を出て行った。凄い速さでキーボードがタッチされている。
「麗華、残っているみんな、元気?」
「分かりません……先ほど来たカタリーナは、元気でした」
「心配になっているでしょうから、そのお医者様に、体調が悪い人は見てもらうようにしましょう」
「はい――」
頼むから、そんなことは心配しないで、自分の心配だけしてください。
そう言いたくて、言いたくて仕方が無かったが、黙ることしかできなかった。
「麗華」
サキ様は、いつだって、優しくて強い。
「あなたは平気?」
私など、まだまだ、敵わない。
「大丈夫です」
そんな返事しかできない私を、呪った。
私は弱い。
もっと強くなりたい。
そうはっきりと願ったのは、私の思い出す限り、その時が最初だった。




