無情な現実(3)
十二歳の秋のことだ。
寒い日だった。冬なんじゃないかと思うほど、寒い日だった。
私はリビングで本を読んでいた。暖炉の前のソファによりかかり、黙々と本を読んでいた。切ない恋の話だ。有名な本で、少し私には難しいかもしれないと思ったが、メリィさんが是非と薦めてくれたので、読んでみた。少し表現が難しいところもあったが、分からないわけではなかったので、私は物語にのめりこんだ。
この恋はどうなるのかしら。
そんなことを考えていた、その時だった。
出かけていたメリィさんが帰宅した。どたばたと慌ただしい音がしたため、私は顔をあげた。どうしたのだろう。本にしおりを挟もうとしたその時、メリィさんは部屋に入ってきた。
「おかえりなさい……」
私の挨拶は、しりすぼみになってしまった。メリィさんは「ただいま」と小さく応えると、部屋の隅に置いてある電話へと早足で向かった。
何があったのだろう。
胸騒ぎがした。
今の一瞬の表情。
私じゃない人が見たって、きっと一目瞭然だ。
彼女は幸せそうな顔をしていた。
笑っていた。目元が赤くなっていたため、きっと泣いたに違いない。「嬉しくて」泣いたに違いない。頬を赤らめ、奇跡を目の前で見たかのような表情をしていた。
まさか、と思った。
「あなた」
電話の先は、アルドさんのようだ。
まさか、まさか、まさか。
「子供が」
その言葉を聞いた瞬間、私は本を懐に抱いたまま、その部屋を出た。
あぁなんてこと。
何人かのメイドとすれ違い、どうされましたかと訊かれたが、私は首を横に振るだけだった。
部屋に入った。電気もつけず、本を投げ捨てると、ベッドにダイブした。
「あぁ……」
なんてことだ。
私は泣いた。声を殺して泣き続けた。夕飯も断った。メリィさんが部屋に入ってこようとしたが、ひとりにしてほしいと拒んだ。
孤独が押し寄せてきた。
私はひとりぼっちになってしまうのかもしれないと、心底怖くなった。
恐怖が脳内を支配した。だれも助けてくれない気がした。
記憶が途切れる寸前まで私は泣いていた。どうしてこんなことに。私はこれからどうすればいい。喜ぶべきなのかもしれないけれど、喜べない自分がいる。私がここに来た意味が無くなる。私の生きている意味が無くなる気がする。私はどこにいけばいい。私は何を夢見ればいい。
私はどうなってしまうんだろう。
最後までそんなことを考えながら、私は眠りに落ちた。悪夢を見ることはなかった。泣き疲れていたためか、現実から逃げたいためか、深い深い眠りにつけた。




