無情な現実(4)
目が覚めた。カーテンはいつも寝る前に閉めるのだが、昨日は閉めていなかったために、まぶしい明りが部屋に入ってきていた。
泣き疲れて寝たのは、養子に来ることを兄と姉に打ち明けたあの日以来だな、なんて悠長なことを考えた。その後、はぁとため息をつく。夢ならばどんなにいいか。
くう、とおなかが頼りなく鳴った。口が思わずへの字に曲がる。どうしたって、私はおなかがすいてしまうし、トイレにも行きたくなるし、のども渇くのだ。
できればもう少し、あと三日ぐらいはこの部屋に閉じこもって誰とも話さない生活を送りたかったが、そうもいかない。ベッドから降り、できるだけ気配を消して、ドアを開けた。
部屋の前には、メイドが一人いた。私の姿を見るなり、ほっとした表情を浮かべると、おはようございますと頭を下げた。あぁやっと出てきてくれてよかった、といったような表情に私はげんなりしつつ、おはようございますと返事をした。
「今何時」
「朝の九時過ぎでございます」
「ありがとう」
学校があるはずなのだが、夫妻の配慮で休みにしてくれたのだろう。今さら学校に行ったところで何もする気は起きない。優しさに感謝しつつ、私はリビングに向かった。
リビングには、三人で使うには大きすぎるテーブルがある。いつもアルドさんが一番端の席に座り、私はアルドさんからみて左側、メリィさんは右側に座ることになっていた。
メリィさんは、いつもの席に座っていた。私を見るなり「レイカ」と名前を呼び、微笑んだ。目の下に隈があり、メイクで隠し切れていない。昨日はあまり寝ていないのだろう。私のせいなのかな、と反省しつつ、私はおはようございますと挨拶をした。
「おはよう、レイカ。すぐに食事を用意するから、座って待ってて」
用意するのはメイドなんだよなぁ、その間何の話をするのかなぁ。
不安になりつつ、私はメリィさんの正面に腰かけた。俯き、メリィさんが切りだすのを待つ。
しばらく無言が続いた。キッチンから料理を作る音が聞こえる。ホットケーキが食べたいな、とふと思った。甘い物が食べたかった。
「あのね、レイカ」
私の脳内でできた大量のホットケーキに、甘いメープルシロップがかけられたそのとき、メリィさんが口を開いた。ホットケーキは一瞬にして消えた。
どぐん。
心臓が妙な音を立てた気がした。
いやだなぁ。
変な汗が背中を流れた。
「なぁに、メリィさん」
「……もう察しているかもしれないけどね」
察してます。
その言葉を飲み込んだ。メリィさんが、一生懸命言葉を紡ぎ、どうやって伝えようか悩んでいるのが、痛いほど伝わってきたからだ。ここでそんなふうに口を挟んだら、メリィさんはショックで泣き崩れてしまうかもしれない。
「子供が……できたの」
「………………」
しまった、こういうときにはおめでとうございますでいいのだろうか。
いいんだよな、いいんだよな。
私は眠気がまださめきっていない脳内で必死に考えて、なるべく迷っているそぶりを見せないように心がけながら、明るい声で答えた。
「うん、おめでとうございます」
あー。
うまく笑顔が作れていなかったかな。
声のトーンが低かったかもしれない。
少しだけど間が空いてしまったのが良くなかったかな?
何か失敗したのかもしれない。
メリィさんは、ショックを受けたような、複雑な表情を浮かべると、はらはらと泣き始めてしまった。
「えっ……」




