3.水野 賢一
「久しぶり!元気だった?」
そんな言葉の飛び交う中、
俺はただ一人落ち着かずにいた。
(ったく悠のやつ、何やってんだよ・・・っ。早く来いっての!)
「賢一?どうしたの?なんか凄い怖い顔」
はっとして声のした方を振り向くと、
そこには高校時代から付き合い始めて、もうすぐ二年になる美月がいた。
「ぁ・・・ごめん」
「もう。せっかく同窓会に来てるんだから、楽しもうよ。何をそんなに考え込んでるの?」
何故?
何故ってそれは・・・
とそこで、
やっと俺のお目当て、清水 悠がやってきた。
会場がわぁっと盛り上がる。
そりゃそうだ。
彼はクラス一頭が良い人気者。
ナントカやらってめちゃレベルの高い大学に入ったらしい。
彼は取り巻きを一通り相手にして上手に撒くと、
俺の方に歩いてきた。
笑顔で。
「おう賢一。久しぶりだな。元気してるか?」
「元気してるか?じゃねぇよ!お前知ってんのか?!」
「何を」
「沙幸さん来てるんだぞ?!」
そこでさっきまで黙って隣にいた美月が、血相を変えて俺を攻め始めた。
「誰よ"沙幸さん"って!!初めて聞く名前なんだけど!どういう関係!?」
「うるせぇなぁいちいち。お前覚えてねぇの?悠の元カノ!あの留学行ったっていう!」
「・・・???・・・っぁあ!"あの"!"あの"沙幸さんね?びっくりした。
ごめん。だって始めてだったんだもん賢一から私の友達以外の女の名前出たの」
そういってしゅんとする美月は可愛くて・・・
じゃなくてっ!
顔を悠の方に向きなおす。
意外にも動揺してない様子。
笑顔は消えていたけれど
「そう。来てんだよ」
「そーゆー類の話かよ・・・。知ってるよ。あいつ毎年年末帰って来てるじゃん正月しに。
しかもさっき雑誌で見たし」
「えっ雑誌って・・・?」
「モデルでもやってるの!?沙幸さん!!」
美月も一緒になって悠に身を乗り出す
「ゃ。ほら。StreetWalkerの『街x人』コーナー。街中の素人の写真載ってる・・・」
「ぁあ。お前も載った事あるってアレか。びっくりした。でも沙幸さんならモデルでもやってけそうだよな。綺麗だし背高いし」
「・・・」
「ってそうじゃなくってさ!沙幸さんこの店に来てるんだって!今!!」
「!!・・・なんで」
「あっちも同窓会らしい。同じ日に同じ店で同窓会だなんて・・・奇遇というかなんというか・・・」
「・・・で?」
「え?」
「で、何」
「・・・ぇ・・・ぃゃ・・・。だって・・・」
「別に会いやしねぇだろ」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・」
「つか会ってもどうもしないし」
ほんとかよ。
だって、
じゃあなんで、
今でもそんな顔してんだよ。
いきなり悠が立ったのでびっくりして見上げると、
彼は一言「トイレ」とだけ言って歩き出した。
俺が何も言わずにいると、悠はこちらを振り向いた。
そして悲しげに微笑みながら、
「気遣いありがとな。だからお前って好き」
と言って部屋を後にした。
「・・・今の悠君じゃなかったら妬いてたかも」
ぼそりと美月が隣でぼやいた。
うん。
俺も。
あいつが女だったら今ので惚れてたかも。
「悠君変わんないね〜。しかも相変わらずかっこいいv」
「高校ん時からそればっか。お前俺に妬かせたいわけ?」
「ふふっ。どうでしょ♪でもさでもさ。なんで賢一沙幸さんがいるって言い切れるわけ?
彼女と同じ学校出身の別のクラスの同窓会かもしれないじゃん」
「だって俺この目で見ちゃったんだもん。沙幸さんを」
「マジで?」
「マジで。まさかとは思ったけど、沙幸さんの周りの連中が留学生活はどうだとか話してたんだよ」
「うそ」
「うん。城島高校'03年度卒業、しかも"沙幸"なんて珍しい名前の"留学生"なんて、あの沙幸さんしかいないじゃん」
「・・・確かに・・・」
「・・・あいつ・・・大丈夫かな。少なくとも動揺してないわけじゃなかったし・・・」
「悠君はまだ沙幸さんのこと好きなの?」
「俺も実ははっきりとは聞いてないからわからないけど・・・好きなんじゃないかなぁ」
「今はもう好きじゃなくても、絶対普通とは違う感情があるかもね」
「ぁあ。悠にとって沙幸さんの存在は、大きかったろうから」
悠は、
一つ上の学年の沙幸さんと出逢って、
いい顔をするようになった。
そして
彼女と別れて
笑わなくなった。
本気で。
付き合い始めた時から悠は沙幸さんの留学のこと知っていて、
それでも遠距離続ける気だって張り切っていたのに・・・
突然、悠は彼女に別れを告げた。
まだ沙幸さんの出発日まで二ヶ月もあるというのに、だ。
本当にいきなり。
今までなんでも俺にだけは全てを話してくれていたのに、
今でも話してくれるのに、
沙幸さんに関わることだけは今でも教えてくれないままだ。
口を硬く閉ざしたまま。
・・・心を
閉ざしたまま。
その後悠は長い間彼女を作らなかった。
一度同じクラスだった吉積と付き合ったけどすぐに別れてしまった。
吉積と付き合い始めた時は悠ももう大丈夫かとも思ったけれど、
どうやらやっぱりだめだったみたいだ。
別れた理由を聞くと悠はただ、
"受験勉強と両立出来そうになかったから"
とだけ言った。
俺は直感的に、
未だに沙幸さんのことが好きだから、と思ったのだけど。
真実は本人にしかわからないものだから言ってくれるまではそっとしておこう、
と思った矢先に、
同じ会場で同窓会だなんて・・・。
沙幸さんは・・・今悠に会ったら・・・
どう思うのだろう・・・。
どう、反応するのだろうか。
楽しみだけが募るはずだったこの同窓会、
なんだか一波乱ありそうだ。




