5-2 未来への約束
魔物に襲われた次の日。ドキドキとして机を囲んだ一同に、アレッシェラは、自分の正体とレナールにされた予言が消えたことを告げた。
「アレシナ様が、大聖女アレッシェラ様!?」
ガレオ以外は、みんな凄まじく驚いている。びっくりしたようにエディットが口を開いた。
「では、レナールの予言は、本当は魔物が闇魔法によって、その命を食べるためのものだったのですか?」
「うむ。だが、昨夜私が神の力を借りて退治をしたから、もう大丈夫だ」
アレッシェラの正体に驚きながらも、母のエディットはそこが一番気になったらしい。
「それならば、よかったです。ですが、アレシナ嬢の正体が、大聖女アレッシェラ様……」
兄のモーリスは、突然の事態に驚きすぎた様子で、最後はどこか呆然と呟いている。しかし、ハッと気がついたように、口を開いた。
「では、レナールとの婚約は……」
魔物を誘き出すための演技だったのかと、心配になったのだろう。
その言葉に、アレッシェラは横にいるレナールの顔を見つめながら、にっこりと笑った。
「それについては、予言の心配のなくなったレナール様が、正式に私の求婚を受けてくださった。そして未来永劫一緒にいると誓った」
話している先で、レナールの顔は真っ赤になっている。きっとここで言われるとは思ってもいなかったのだろう。
「まあまあ! なんておめでたいこと!」
息子の不吉な予言がなくなっただけではない。同時に、ついに愛してくれる人が見つかったという喜びに、エディットの顔は輝いている。
「やっとレナールにも幸せにしてくれる人ができたのね!」
もちろん尋ねたモーリスの顔もだ。
「アレッシェラ様、本当にありがとうございます! 俺も応援した甲斐がありました!」
「うむ、モーリス殿の兄としての心配は、丁重に受け取ったぞ。安心して、弟御の身は任せてくれ」
「アレッシェラ様、それではレナール様が嫁入りみたいです」
後ろで、こそっとルイサが囁いている。
一緒にテーブルを囲んで座っていたガレオも、本当にこういう結末になるとは思わなかったのだろう。アレッシェラがレナールを選んだこと、そして同時に不吉な予言が消えたことを心から喜んでいる。
「では、もうレナールの勘当を続ける必要はないのですね?」
「ああ。これで、もうかけられていた闇魔法が、レナール様やその縁者を害することはない。安心して、一緒に暮らせる」
そう話せば、今まで喜んでいたエディットの目には、涙が浮かんできた。
「アレッシェラ様……なんと、お礼を申し上げたらいいのか……」
やっと我が子を取り戻せた――。子供の心を守るための形式だけの勘当だったとはいえ、それがどれだけエディットにとっては辛い選択だったのかが伝わってくる。
「母上……」
泣いている母に、レナールが気遣うように声をかけた。レナールの眼差しにエディットが涙を拭う。
「悲しいわけではないの。ただ、嬉しくて――こんな日が、また来るなんて……」
もう一度、正式に息子と呼べる。捨てたつもりはなくても、息子でありながらもそう呼べなかった日々の隠していた悲しみが、エディットの目からこぼれ落ちてくる。
「これで、また前のように堂々と親子と名乗れるのね。どれだけこの日を夢見ていたか――」
「母上……」
泣く母を慰めるように、そっとレナールが側に寄った。
「ありがとうございます、アレッシェラ様……」
お礼を言いながらエディットが涙を拭うと、「ああ、でも」と、ふと顔を上げる。
「ご結婚なされるのでしたら、レナールはご一緒に連れていかれるのかしら?」
「いや、結婚については、もう少し先にしようと思う」
さらりと出たアレッシェラの言葉に一番驚いたのは、レナールだ。
「それは、今初めて聞きましたが……」
「もちろん離れるつもりはない。だが、あなたは今まで家族の側で一緒に過ごせる時間が少なかったのだろう?」
「それは……そうですが……」
「だから、その失った時間分を少しでも取り戻してほしいのだ。とはいえ、このままでは、またいつレナール様の持つ力が狙われるかわからない。だから、しばらくの間は、ソ・レイジェラでその力を自在に扱える修行をしながら、こことを行き来する生活にしては、どうだろうかと思うのだが」
もちろん、あなたがここにいる時は、私が訪ねてこよう――そう笑いながらアレッシェラが告げると、レナールは真っ赤になっている。まるで、すごく綺麗な笑顔を目の前に見たかのように――。
「会うことは……できるんですね?」
「もちろん。今回は馬車で来たが、私の聖なる力で本気を出せば、ソ・レイジェラからここまでぐらい二時間ほどで来られるぞ?」
「二時間!?」
「もちろん、あなたが自在に力を使えるようになっても――だ」
指を唇に立てながら笑えば、レナールは一瞬虚を突かれたようになった。そして、ふっと笑う。
「そんなふうになったら、それこそ毎日会いに行くかもしれませんよ?」
「目標ができたな。では、いつかあなたがその力で私に会いに来てくれる日を夢見て――。それまでの間は、顔を忘れる間がないぐらい、私があなたにしょっちゅう会いに来よう」
いつか二人で、力を使って共に空を飛べるまで――そして、未来永劫一緒にいようとアレッシェラが微笑むと、レナールは嬉しげに笑って頷いた。
第一部終了です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
レナールとアレッシェラの過去については、また第二部以降で書けたらと思います。
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