第10話 今後のこと
それにしても、カンナがこれほどまでに料理上手だとは夢にも思わなかった。
人は見かけによらないとは良く言うけれど、いやはやまったくその通りだと、俺も認識を改める次第である。
「さて、アルさん。お腹も膨れたことですし、今後のことを相談させてください」
「今後のこと?」
「アルさんの目的は、お金を稼いで美味しいご飯を食べること……ですよね?」
「うむ」
大仰に頷いてみたが、厳密にはちょっと違う。
魔族領生まれで魔族である俺だが、人類の領域で美味しいご飯を食べるためには、いろいろな下準備が必要だということは理解している。
住居、仕事、それに身だしなみ。いわゆる衣食住ってヤツだな。
そして、それらを支えるのが金だ。
なので俺は、稼がねばならない。
稼がねばならないのだが、その仕事が冒険者。それも、最底辺の駆け出し冒険者、六等級である。
カンナ曰く、六等級の報酬は子供のお小遣い程度で、とてもじゃないが美味しいご飯を食べるには物足りない。それどころか、日々の生活すら困難なくらいらしい。
ではどうするか?
方法は一つしかない。
「カンナ……苦労を掛けるな……」
「あたしが養う前提はやめてね?」
すげなく断られた。やはりダメだったか……しょんぼり。
「一応ですね、あたしたちってパーティを組むわけじゃないですか。で、あたしは四等級なので、パーティを組んでいるのなら、アルさんも四等級の仕事に付いてくることができます」
「けどそれ、一件の依頼を二人で受けるわけだから報酬も一人分だろ?」
「まぁ、冒険者ギルドへの依頼ってのは、この仕事に幾ら払う、って感じですからね。そこに何人で挑むかは自由──ってことですね」
「はぁ~ん」
そういうもんなのね。
まぁ、高額な依頼はそれだけ難易度が高いようだし、そりゃ一人で受けて達成すればガッポガッポかもしれないけれど、失敗するリスクも相応ってわけだ。
「ちなみに、一番稼げる仕事ってのは?」
「まさにそれなんですよ」
カンナは腕を組み、天を仰いで唸ってる。
「どうした?」
「報酬額が大きい仕事っていうのは、ぶっちゃけると、どのランクでも討伐依頼になります。けど、本当に稼げる仕事となると、実は素材採集なんですよ」
「どゆこと?」
「討伐依頼っていうのは、つまり、その魔獣の毛皮や牙やら素材が欲しい、ってことなんですよ。魔獣素材は高価ですからね。もちろん、危険な魔獣が人の生活圏に出現して危ないから退治してくれ、というのものもありますよ? ただ、そういうのは稀なんです」
「ああ、なるほど。危険な魔獣を退治して、ついでにその魔獣素材も頂くことで儲けが跳ね上がるわけだ」
「ですです」
「そういうことなら……ギルドからの依頼じゃなくても、魔獣を倒して素材をかき集めた方が金になるんじゃないか?」
「ところがどっこい、魔獣素材の売買は厳格化されてるんです」
そこは商売の話らしい。
商業ギルドは魔獣素材を冒険者ギルドから買い取る。それ以外の仕入れ先は持たない。
もっとも、個人が個人の冒険者に頼む分には黙認しているようだ。
「なので、迷宮に潜りませんか?」
と、カンナが唐突にそんなことを言い出した。
「迷宮?」
「あれ? 魔大陸にありませんでしたか? 魔獣が異常発生する特定地域のことです」
「……知らんなぁ」
そんな場所、あったかな? まぁ、魔族の場合は気の向くままに行きたい場所に行って、邪魔するヤツがいるなら手当たり次第に排除する──って方針だからな。
俺が知らないだけで、魔族領にもそういう場所があるのかもしれない。
けど、わざわざ迷宮などと呼称してなかったように思う。
「世間だと知られてないことですが、実は迷宮って〝パンデモニウム〟とかいうバケモノの腹の中らしいんです。神様とか悪魔とか、そういう高次元の存在のなり損ないが迷宮らしく、深部にある核を壊すと消滅するんだとか」
「へぇ……」
となると……あそこはどうなんだ?
「今日行ってた遺跡も、もしかして迷宮なのか?」
「あそこですか? あそこは……うーん……まぁ、アルさん相手ならいっか。あたしの全知検索で調べたところ、あそこは前時代に作られた避難所らしいです」
「避難所?」
「これも全知検索で知り得た情報なんですけど、あの遺跡は〝災禍〟っていうバケモノから人々が逃げるため、天空に浮かぶ避難所への入口だったみたいです」
「ほほう、興味深い話だな」
少なくとも、俺は魔族領で〝災禍〟なるバケモノの話は聞いたことがない──とすれば、それは人族側で伝わる言い伝えの類いだろう。
「災禍っていうのは……そうですね、意思を持つ自然災害みたいなもんらしいです。災害ですから、その行動に意味はなく、目的もなく、強いとか弱いとかも関係なく、一度出現してしまえば世界が根底からひっくり返るような災いをもたらすそうで……人々にできるのは、ただ逃げるだけ──とかなんとか」
「ずいぶん詳しいな?」
「全部、全知検索からの知識ですよ。で、あの遺跡はそんな災禍出現に備えた空中都市への避難ゲートだったみたいです」
「空中都市? そんなものがあるのか」
「あるわけないでしょ。ああ、いや、大昔はあったっぽいですよ? でも現在では失われてます。失われてるから、ゲートをくぐったあたしは空中に放り投げられて、落下してきたわけですけどね。ちゃんと調べればよかったですよ。ははは」
「ははは。とんだマヌケ野郎だな」
「あぁん?」
えぇ……自分で笑い話にしたんじゃん。それに乗っかったのに、なんで怨敵を目の前にしたような眼光で睨まれるのさ……。
「そんな終わった仕事の話はどーでもいいんですよ! それよりもダンジョンです。明日からは、ダンジョン探索の依頼をこなしていきましょう。そうすれば稼げます!」
「ホントかぁ~?」
カンナが自信満々だと、何故か不安になるんだが……いやいや、さすがにそれは気にしすぎか。
なんせ、出会ってまだ一日くらいしか経ってないのだ。
いくらなんでも、たった一日でカンナの言動を疑うような真似をするのは良くない。
ちゃんと信じてみようじゃないか。




