50 二度目の恋をしてしまいまして
メイヴィス・モルゲンシュテルン
アルフレート・フローリアス
「いや…皇太子を辞めるっていうのは、ちょっと…」
静かな室内に、自分の戸惑った声だけが小さく響いた。
アルフレートの言っている意味がわからない。
「まあ、困るだろうな。俺が辞めたら。皇太子候補、他にいないもんね。でもまあ、仕方ないよね。ヴィが皇太子とは結婚できないって言うから」
そう言って、ニコニコしている。
仕方ないって…。
なんだか、私が悪いみたいになってるけど。
いやいや、アルフレートのためなら悪役にでもなろうって思ってたじゃん。
胸の奥に湧き上がる動揺を押し込めるように、私はぎゅっと手を握った。
でもたぶん、アルフレートが皇太子を辞めることはない。
真面目で、一途。
そんな彼が、民をほったらかして、皇太子を辞めるなんてことはしない。
どんな公務にも手を抜かず、誰よりも責任感が強い人だ。
だからこれは、嘘。
ちらっとアルフレートを見る。
飄々とした表情をしているのに、緊張が手に出てる。
手が震えてしまっている。
本人は隠しているつもりなのだろう。
「……」
アルフレートの震える手を見ながら、何も言えなくなってしまった。
一世一代の嘘をつこうとしてくれているのがわかったから。
この人は、こんなに頑張ってくれているのに。
私は逃げるばかりでいいんだろうか。
家のことは本当は言い訳で、ただ覚悟がないだけじゃないだろうか。
ずっと見ないふりをしてきたものが、目の前に突き付けられた気がした。
覚悟…
私は一世一代の覚悟をするときなんじゃないか。
「アルフレート様。うちは、本当に、なんの後ろ盾もありません。吹けば飛びます。何かあっても、責めないでいただけますか?」
ゆっくりと言葉を選びながら告げる。
私がそう言うと、アルフレートの表情がぱあっと華やいだ。
「もちろんっ!大丈夫。ヴィは何も心配しなくていいから。…よかった、皇太子を辞めなくてすんで」
アルフレートがそう言った。
辞めるつもりなんてなかったくせに。
でもその安堵しきった顔を見ていると、そんなツッコミを入れる気にもなれなかった。
それから、予定通り、皇太子妃教育を終えて、結婚式の日になる。
周りからすれば、それは本当に予定通りなのだけど。
私的には、まさか本当に結婚することになるとは思わなかった。
予定とは、どこまでも予定で、未定なんだろう。
アルフレートは結婚式の準備をしながら、父を色々な人に紹介してくれた。
王都の貴族たちが集まる場へ連れ出し、父の功績を語ってくれているらしい。
少し前にアルフレートと私で始めた、アルミの生産を父の功績にしてくれたのだ。
そのおかげで、底辺伯爵家は、成金伯爵家に昇格した。
王権派の中でも、それなりの地位になったと聞いている。
かつては見向きもしなかった貴族たちが、今では笑顔で父に声を掛けているらしい。
成金伯爵家となった我が実家はというと、あいかわらずの生活をしているようだった。
両親はモブだったことが関係しているのか、欲のない人たちだった。
手に入れた大金のほとんどは、寄付に回している。
だから、成金伯爵家となった今も、のほほんと生活していた。
そんなところが、私は嫌いじゃない。
1回目の転生のときは、ただ推しに会えたのが嬉しくて。
認知してもらえるなんて奇跡みたいで。
推しのためにと暗躍した。
胸を躍らせながら、少しでも彼の力になりたくて動き回った日々を思い出す。
現世に戻って、また推しに会えて、こんな奇跡あるんだなって思ってたけど。
まさかの2回目の転生。
人生は本当に何が起こるかわからない。
2回目の転生では推しの苦しみを知って。
1回目のときにそれに気がつけなかった自分に不甲斐なさを感じた。
それから、色々なアルフレートを知って。
たぶん私は、二度目の恋をした。
二次元の推しとしてのアルフレートではなく、1人のリアルな人としてのアルフレートに。
だからこそ、皇太子妃にはなれないと思ったんだけどな。
「ヴィ、幸せになろうね」
アルフレートが満面の笑みで私に声を掛けてくれる。
青空の下、その笑顔は太陽に負けないくらい眩しかった。
私の推しで、私の旦那様。
彼の笑顔を隣で守るのも、いいかもしれない。
今度は、影となり日向となり、ね。
ときどきは登場させていただこう。
「ええ、アル。愛してるわ」
パレードの中、アルフレートにキスをする。
歓声が降り注ぐ中、彼の瞳が驚いたように見開かれた。
おお!っと観衆から声が上がった。
通りを埋め尽くす人々の熱気が、一気に高まる。
タブロイド紙に、破廉恥だとか書かれちゃうかな?
古狸な貴族たちには、なんか言われるかも。
でも、まあきっと。
皇太子殿下がなんとかしてくれる、よね?
そう思いながら見上げたアルフレートは、少し困ったように笑いながらも、とても幸せそうだった。
「二度目の異世界転生、ざまぁを助太刀させていただきます?」、完結となります。
ハッピーエンドにするか、ビタースイートエンドにするか、最後まで悩んだ作品でした。
ビタースイートエンドの場合は、メイヴィスが身を引いて現世に戻ってしまう、という構成でした。
どちらのエンドがお好きだったでしょうか。
こんな自慰小説を、多くの方が目にとめてくださるのが嬉しくて、本当に執筆の励みになりました。
読んでいただいた皆さま、ありがとうございます。
普段は18禁の小説をメインで書いております。
18歳以上の方はよければ、のぞいてみてください。




