01 二度目の異世界転生をしてしまいまして
朝比奈 萌衣
伯爵令息 アルフレート・ローゼンタール
伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌ
さて、私は、面倒な事態に陥っている。
それを説明するため、ちょっと長めの前置きが必要になる。
私、朝比奈 萌衣は20代、会社員。
毎日満員電車に揺られ、終電ギリギリまで働く。
睡眠時間は1日2.5時間。
社畜でありました。
楽しみは乙女ゲームをすること。
布団に倒れ込んでからの数十分だけが救いだった。
ある日、ふらふらと帰っていたら、突然の立ち眩みで交通事故にあい、異世界転生。
よくあるやつです。
そうしてやってきたのが、プレイしていた乙女ゲーム。
『白銀のティアラ〜紋章が繋ぐ恋の調べ〜』、略して『銀恋』。
カラオケのデュエットソングではない。
SNSでは「カラオケか?!」なんてディスられていたけど。
そんなのは関係ない。
書店で攻略本まで出ていた、そこそこ人気の作品だ。
簡単にいうと、伯爵令息と伯爵令嬢の恋愛ゲームだ。
多くの乙女ゲームは、たくさんいる攻略対象を主人公が恋愛して攻略していくというものだが。
銀恋は謎解きと恋愛を軸にした異色の乙女ゲームとして人気があった。
舞台の王宮や古い遺跡を巡りながら、伏線を回収していくタイプのストーリーだ。
2人で様々な試練を乗り越え、最終的に伯爵令息が悪の皇太子をぎゃふんと言わせる。
その過程で明かされる真実が、プレイヤーの間でも話題になっていた。
実は、その伯爵令息は王の隠し子だったと発覚する。
伯爵令息が次期皇太子となって、伯爵令嬢と結婚してめでたしめでたし、というストーリーだ。
私はその伯爵令息、アルフレート・ローゼンタールを推しに推していた。
だが、転生したのはただのモブ。
教室の隅や廊下の背景にいるような存在だ。
ゲームでは名前すら出てこない、モブおぶモブ。
それでも、遠くからアルフレートを見守るだけで満足していた。
推しのため、伯爵令嬢 エレオノーラ・ヴァランティーヌの恋を応援した。
アルフレートの影となり、日陰となり。
表に出なくてもいい。
ともかく、アルフレートに幸せになってほしくて頑張った。
彼の相談にのり、ときには現世の知識でアドバイスをして、無事に2人は結婚した。
そうして、2人の幸せな姿を見てから数か月後。
突然、意識が遠のいた。
そして気がついたら、病院のベッドの上だったのだ。
回復してから、車に轢かれたけれど、奇跡的に助かったのだと看護師さんに教えてもらった。
異世界転生したというのは夢だったのかなと思っていた矢先。
私が入院していた病院の人から、「記憶混濁の子がいるから、話し相手になってほしい」と連絡があった。
なんでも、自分は銀恋のキャラクター、アルフレートだと言っているというのだ。
最初は冗談かと思ったけれど、先生も看護師さんも真剣だった。
「萌衣ちゃん、銀恋に詳しいでしょ。話し相手になってあげて」
そう言われて、病室に行ってみた。
自分をアルフレートだと言う人のことも気になったからだ。
消毒液の匂いがする静かな廊下を抜けて、白い扉の前に立つ。
そろそろと扉を開けて、その人に会ってみた。
正直、がっかり。
外見は全然、アルフレートじゃない。
外見は全くの別人だったけど、話をしてみると、アルフレートらしいということがわかった。
そう思ったのは、ゲームには出てこない、モブの名前を知っていたからだ。
さらに観察してみると、声の抑揚や考え方の癖が、驚くほど一致していた。
私が異世界転生していたからこそ、わかったことではあるけど。
話していく中で、私は衝撃的なことを聞くことになる。
私がアルフレートに、異世界転生をしたのかもしれないと、自身の体験を含めて説明した。
「なんと!君はあのときの…そうだったのか。ということは、やっぱり俺は、死んだんだろうか…」
アルフレートが頭を抱える。
「そう…とは限りません。私も死んでいませんでしたから」
そう伝えたけど、アルフレートは首を横に振った。
「王位を継いですぐ、俺はエレオノーラに…殺されたんだと思う」
そう説明されて、最初は理解できなかった。
あんなに、ラブラブだったじゃん。
幸せなエンディングが頭をよぎる。
「え?…結婚されて、すぐってことですか?」
そう尋ねると、アルフレートは少しずつ話してくれた。
エレオノーラ・ヴァランティーヌ。
ヴァランティーヌ家は王国の伯爵家の中でも名家だ。
どうやら、ヴァランティーヌ家は王権を剥奪したいと考えていたらしい。
そこで、同じ名家であるローゼンタール家の伯爵令息に近づいたようだが。
「俺が皇太子になったことで、作戦を変更したんだろう。エレオノーラが突然、妊娠したと言い出したんだ」
簡単に説明すると、エレオノーラはアルフレートの子を妊娠した。
アルフレートが死ねば、エレオノーラの子が次期皇太子となる、というのだ。
「だが…その…そもそも、そういう行為をしていないのに、子ができるわけがないんだ」
アルフレートは頭を掻きむしる。
つまり、エレオノーラが本当に妊娠しているとすれば、それはアルフレートとは関係のない人の子ども。
「それは、ヴァランティーヌ家の息がかかった家門の方の…」
私がそういうと、アルフレートは首を縦に振った。
「それがわかったから問い詰めようと思ったのだが。あっさり殺されたようだ」
アルフレートが肩を落とした。
事情はわかったけれど、異世界から異世界転生してしまったのだから、ここで生きていかなくてはいけない。
私はできる限り、アルフレートの力になることにした。
なにせ、推しですから。
「君には、前世でも現世でも、助けられてばかりだね」
そう言ってもらえて、少し報われる。
そんなこんなで、流れで、仕方なく、同棲することになった。
なにせ、アルフレートは戸籍がない、収入がない。
現実世界の制度の前では、ほぼ詰みの状態だった。
部屋を借りることもできないから、仕方なく、というやつだ。
これから、ラブラブ(?)な推しとの同棲生活が始まる、と思ったところで、また事故にあった。
ガラスが割れるような音と、視界が回転する感覚。
しかも、アルフレートと一緒にだ。
そうして、私の二度目の異世界転生ライフが始まることになった。




