95話:対談
「かおりーん!」
「瀬奈ちゃん! 祐也さんと悠斗さんもおはようっす」
「おはよう、かおりん」
「おはよう、香織ちゃん」
ロバストグリズリーを倒して、衝撃発言を連発した配信の翌日。
朝から俺たち4人は仙台駅のペデストリアンデッキに集まっていた。
「悠斗さんだけ制服っすね」
「これが終わったらそのまま部活だからな。だからチャリで来たし」
俺と瀬奈は地下鉄、悠斗は自転車、かおりんは多分地下鉄でここまで来たんだろう。
「それじゃあ、さっさと行くわよ。相手を待たせたら失礼だし」
「土曜日なのに朝早くから仕事って、伊達所長も大変だな」
「週6で7時半には家を出てる祐也がそれを言う?」
「もう少し休んだ方がいいっすよ」
「部活あるから、俺もそんなもんだけどな」
迷いのない足取りで先頭を歩く瀬奈の後を3人で追いかけていく。
昨日の夜、瀬奈に言われて協会に電話をしたら、伊達さんに繋いでくれた。
そして、そこから瀬奈に変わって色々と話をしていたが、その結果がこれだ。
「東北支部なんて、最初の登録以来っす」
「俺も」
「俺も」
「私もよ」
瀬奈が伊達さんとの顔合わせの予定を取り付けた。しかも、場所は仙台入口じゃなくて、東北支部。
「近い方がいいでしょ。私と悠斗はダンジョンに潜らないし。それに、所長さんがそっちがいいって言ってくれたんだから」
2人でどういうやり取りをしていたのか、詳しくは聞いてないが、東北支部で顔合わせをすることになった。
時間は朝8時半。特別早いわけじゃないけど、休みの日って考えれば早いかもな。
「待ってましたよ」
エレベーターで20階に到着すると、そこには伊達さんが1人で待っていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「時間より早いから大丈夫です。あなたが妹の瀬奈さんね。仙台出張所で所長をしている伊達です」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。伊藤瀬奈です。こちらが稲垣香織と、梶原悠斗です」
「大丈夫ですよ。冒険者の顔はこちらで把握してますので。では、早速中へどうぞ」
伊達さんの案内で、東北支部のフロアを進んでいく。
登録しに来た時は、入ってすぐの所で受付をしたけど、今回はそこには寄らずに別の道を進んでいく。
ピッ
伊達所長がカードをかざして、自動ドアが開いていく。その後も後をついていくと、ある部屋に通された。
「中で座って待っててちょうだい。すぐに戻ってくるから」
そこは、伊達さんの執務室と同じように、応接セットが置かれた部屋だった。いや、執務室よりも大きな応接セットだな。
「じゃあ、こっち側に座りましょうか。祐也が一番奥、隣が私、かおりん。悠斗は座りきれなそうだから、手前の1人用のに座っておいて」
瀬奈のテキパキとした指示に従ってソファに座っておく。こういう時にどこに座るべきかってマナーがあったはずだけど、全然知らないな。まぁ何か言われたら座り直せばいいだろ。
「基本的には昨日言われた通りでいいんだよな?」
「そうよ。挨拶して、顔合わせがメイン。後は聞かれた事に答えつつ、私たち3人の情報を教えておく。まぁそこから先は臨機応変ね」
「祐也と違って、俺らは知られて困るものなんて何も無いからな」
「俺も知られて困るものは無いぞ? パーティー組んでくれって誘いが増えそうってだけで」
「それが一番の問題っすね……まぁ平日で私がいない時は、他の人と組んでもいいっすよ?」
「ただし、男性冒険者限定で」
「なんで?」
「さぁねー。かおりんもその方がいいでしょ?」
「……いつもの瀬奈ちゃんに戻ったっすね。真面目な頭脳担当モードに戻しておくべきっすよ」
コンコンッ
雑談をしていると、扉がノックされてから開かれた。
「お待たせしました」
「お茶も持ってきたわ」
応接室へと入ってきたのは3人。
伊達さんと渋い男性。そして、どこかで見た事がある30代くらいの男性。
「話は私たち2人とするわ。彼は会話の記録のために呼んだだけだから気にしないでいいわよ」
伊達さんの隣、俺の目の前に座った渋い男性。座り位置的に、伊達さんより偉い?
「まず私から自己紹介しようか。ごほんっ。ダンジョン協会の東北支部長をしている、伊能政志です。配信はアーカイブで見ましたよ。次からは配信前に教えてくださいね」
俺に向けた笑顔の裏に圧を感じる。この人は敵に回したら怖い人だ。うん、伊達さんにちゃんと共有しよう。何かあれば。
「私は、東北支部奥羽ダンジョン仙台出張所所長の伊達愛莉です。基本的に何かあれば私に伝えてちょうだい。あと、記録係をしているのは、私の息子の伊達政人よ」
伊達さん……あっ!
「記録係の方って、もしかして俺の冒険者登録の対応してくれた人?」
「そうよ。まぁ本人も気づいてなかったけど、あなたの情報を確認した時に知って、ちょうど適任だったから呼んだのよ」
記録係の伊達さんへと視線を向けると、こちらへ会釈をしてくれたので俺も返す。
「では、こちら側も自己紹介を。祐也の事はいいと思うので飛ばします。
私は祐也の妹の伊藤瀬奈です。二卵性双生児の双子になります。レベルは34、スキルは滋養強壮と短剣術です。このパーティーの料理担当兼頭脳担当です」
料理担当兼頭脳担当って、そんな役割決めたっけ?
あと、一気に情報開示していくんだな。
「私は稲垣香織です。瀬奈ちゃんの高校のクラスメイトで、祐也さんと休みの日にダンジョンに一緒に潜ってます。レベルは64、スキルは運搬、投擲、不倒で、パーティーのポーター担当っす」
途中まではいつもの口調が出てこなかったのに、最後にいつも通りのかおりんになったな。
「梶原悠斗です。祐也とは小中一緒で親友です。レベルは34、スキルは鍛冶と槌術です。パーティーの鍛冶担当です」
瀬奈につられて、かおりんも悠斗も担当を口にしていた。まぁポーターと鍛冶はそのままだし、瀬奈の担当も間違ってはないからいいんだけど。
「レベルとスキルについては後で聞こうと思ってましたが、教えていただきありがとうございます。対外対応の際に、この情報はどこまで開示してOKとしますか?」
伊達所長の問いに瀬奈が答える。
「開示はNGでお願いします。少なくとも高校卒業まではNGで、卒業後の開示するタイミングは自分たちで考えて判断します」
「分かりました。そちらから先に伝えておきたい事があればお聞きします。なければ、色々と質問させていただきますので」
俺の情報は既に配信で伝えてあるし、3人の話がメインになるだろうな。
ダンジョンに入れるのは昼頃かな?
「伝えておきたい事ある?」
瀬奈がかおりんと悠斗へと視線を向ける。
「私は無いっす」
「俺は高校卒業後は鍛冶師として働くつもりで、協会に武器防具を販売すると思いますので、その際はよろしくお願いします」
早速悠斗は売り込みか。まだ1年以上先の話なのに、気が早くない? それに、どこの工房や企業に就職するかも分からないのに。
「祐也君の武器防具を作ったのは君かな?」
「はい、そうです」
「じゃあ楽しみにしてるよ。就職で困った事があれば、口利きをしよう」
「ありがとうございます!」
支部長の口利きとか、もう就職は問題ないんじゃない?
むしろ、協会専属とかもあり得るのでは?
「瀬奈さんと稲垣さんは口利き必要かしら?」
「私は調理師免許を取得した後の事はまだ具体的に考えてないので」
「私は卒業後は冒険者専業になりますが、特に今と変わらない感じで大丈夫っす」
伊達所長からの質問に答える瀬奈とかおりん。瀬奈は免許取得後にどうするんだろうな。
どこかの店で働くのか、独立して店を構えるのか。独立は大変そうだし、まずは修行も兼ねてどこかで働くんだろうな。そうしたら、俺の食事はどうなるんだろ。
まぁそこまで瀬奈に頼るわけにはいかないし、その時は遠征と同じく肉を大量に食べればいいか。
「じゃあ、次はこっちから質問していくわね。気になった事とかあったら、都度聞いてちょうだい」
伊達所長からの質問タイムが始まるな。さぁ、3人について聞いてくれ。
「レベル上げについてだけど、どれくらいの貢献度でレベル上がったのか教えてもらえる?」
……ん? 誰も答えないな。
そう思って左を向くと、3人がこっちを見ている。
「何してんのよ、早く答えなさいよ」
「祐也さんが答えるっす」
「俺らは自分のしか分からないし」
俺が答えるのか。俺は座ってるだけでいいと思ったんだけどな。
「どのくらいですか……記憶にある限りだと、12層のクラッグベアなら、適当に落ちてる石を投げて当てて、それで動き出したら後は俺が倒しただけでレベルは上がるし。
あと、8層のハヤテホースなら、俺が受け止めて動きを止めた所で、一発攻撃を当ててもらったらレベルアップしたかな。
14層のフォレストランナーなら、俺が木の上から落とした所にかおりんが鉄球を投げつけたら上がったし、18層のドラフトホースなら木の幹にぶつけてから後ろ足を2本斬り落とした所で一発攻撃を当てればレベルアップしましたね」
俺の発言に合わせて、部屋の隅にいる記録係の伊達さんのタイピングの音が部屋に響いた。
「なるほど。近くにいるだけだとどうなんですか?」
「それだとダメですね。瀬奈と悠斗のレベル上げの時、最初の1匹は見本としてかおりんにやってもらいましたが、その時はレベル上がらなかったんで」
「なるほど。貢献度説で間違いないって証拠になりそうですね。ちなみに、3人がレベル1桁の時に何層でレベル上げをしたんですか?」
最初か。
「どこだっけ?」
「私は8層です」
「私は6層っす。でもレベル10はあったっすね」
「俺も8層でした」
「なるほど。8層より上だとダメって事はありそうですか?」
「やった事ないから分からないけど、ダメって事は無いんじゃないかな?」
「ダメじゃないけど、レベル1桁だったら危険なモンスターは多いんじゃない? 突然攻撃された時に避けられないと困るから」
「そうっすね。18層も木の幹に隠れられるスピードは欲しいっす」
「12層も遠くから石を当てられる能力は必要だったな」
伊達所長の質問に4人で答えていく。
レベル上げの後は、3人のスキルについて。俺のスキルについては聞かれずに、質疑応答は続いていく。
まぁ俺の話はいつでも仙台入口で売却しに行った時に聞けるもんな。
「ありがとうございます。ちなみに3人はポーター、料理人、鍛冶師の中でかなり高レベルです。特に料理人ではトップクラスだと思います。
それもありますので、祐也君のパーティーメンバーの3人への取材や迷惑行為も、祐也君と同様に協会からの懲罰対象となる旨を周知したいと思いますが、よいでしょうか?」
「お願いします」
「迷惑行為の可能性が減るならOKっす」
「取材依頼が来たら、協会経由で俺に連絡が来るって事ならそれでお願いします」
「分かりました。ちなみに、今後も3人のレベル上げはするつもりですか?」
「はい。止める理由も無いですし、俺にもメリットはありますから」
「あと、梶原君。今、何か作ってますか?」
「鍛冶でって事ですよね? 今は祐也の剣と靴を作ってます」
「そうですか。それが終わった後、もし時間があれば武器防具の制作を依頼してもいいでしょうか?」
「はいっ!」
俺たち以外の人に向けた武器防具を作るのは、悠斗の経験になるからいいかもな。
「じゃあこちらから連絡しますね。支部長、何かありますか?」
「うーん、そうだね……」
支部長さんは少し考えた後、俺の目を見ながら言葉を発した。
「祐也君。君は何故ダンジョンに潜るんだい?」
「目的って事ですよね。それは、美味しいモンスターの肉を食べる事と、絶景を見る事です」
俺の目的は最初から変わっていない。
地位とか名誉とかは要らない。まぁ生活のためにお金は欲しいけど、今でも十分に稼げているんだよな。
「それなら、どこかで止まるつもりはなく、行ける所まで進み続けるつもりかな?」
「そうですね。モンスターが強くて勝てない時に他のダンジョンに行く事はありますが、ダンジョンに潜るのを辞める事はないですね」
「頼もしいね。それなら、君が世界記録を更新してくれるのを楽しみにしていますよ。
ちなみに、君の筋力はレベル120相当はあるんじゃないかって話ですから、今でも22層くらいまではいけると思いますよ。頑張って下さいね」
「レベル120相当ですか。それって、他の冒険者の方がレベルとマシンの重さを調べたって事ですよね」
「そうですよ。昨日の夜までに集まっていた情報から推計されたものらしいですけど。ここまでのペースでいけば、中国の冒険者チームも越えられるでしょうね、期待してますよ」
中国の冒険者は今129レベルだったっけ。でも、ドラフトホースとロバストグリズリーの吸収上限になるにはまだまだ時間が掛かるんだよな。
上限到達する前に、19層、20層に挑戦しておくか? 3人のレベル上げのためにも、19層だけは行っておくか。というか、この後行ってみる?
「今日はありがとうございました。何かあれば連絡して下さい。こちらからも連絡するかもしれませんが、その際はよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
俺が考え事をしている間に、瀬奈が伊達所長と握手をしていて、この場はお開きとなった。
今の時間は10時前か。
「かおりん、ダンジョンに着いたら昼飯食ってから潜るか。19層に行ってみようと思うんだけどいいか?」
「いいっすけど、祐也さん19層ってまだ未到達じゃなかったっすか?」
「まぁな。けど、ドラフトホースなら大丈夫だろ。飛び越えられそうか様子見てからやってみる」
「無理はしないで欲しいっすよ」
「大丈夫、大丈夫。危なかったら隠れながら攻撃するって」
今度のソロの時に20層行ってみようかな。




