65話:クリスマス
北海道ダンジョン土産のインパクトラムとアーチャーフィッシュを2週間弱で食べ終え、ようやくストライクホースとボルダーグラップラーの肉を食べ始めた。
ただ、この2体が重すぎる。150kgと180kg。北海道ダンジョンでは毎日13kg食べてたけど、あれは肉だけだったし、早く帰りたい気持ちがあったからできた無茶だ。
家に帰ってきてからは、母と瀬奈がちゃんと栄養を考えろと言って野菜も米も食べている。腹がキツイほどは食べるなとも言われ、1日に食べられる肉は8kgに制限されている。いや、十分多いけど。
それでも生体で150kgのストライクホースなら、瀬奈の滋養強壮スキルの効果を受けても200kg、180kgのボルダーグラップラーなら240kgの肉を食べないと上限に到達しない。
1日8kgでもストライクホースは25日、ボルダーグラップラーは30日。11月末から食べ始めてもうすぐ年末だが、交互に食べているのもあって、まだどちらも上限に到達していない。
まぁ焦っても仕方ないか。
◇◇◇
「楽しみっすねー!」
12月23日日曜日。高校は昨日から冬休みに突入した。
そういう訳で来週からは毎日2人でダンジョン、というわけでもない。『年末年始は休め』という珍しい父からの命令により、12月29日から1月3日はダンジョンは禁止になったのだ。
まぁ食べるのは禁止されないし、その期間は毎日肉を12kg食っていいなら休む、という条件を提示して、限定的に了承が得られたのでまぁいいだろう。
限定的というのは、元旦はおせちを食え、ということで元日は多分6kgくらいしか食えないかなと思う。
そしてかおりんが楽しみにしている理由。
年末年始が休みになることを伝えると、『分かったっす。それとは別でクリパやりたいっす!』という要望が出され、瀬奈がそれに乗ったので、探索を少し早めに切り上げて我が家に向かっている所だ。
……かおりん、うちに来すぎでは?
「瀬奈ちゃん、何作ってるっすかね?」
「俺にも教えてくれなかったからな。いつもの馬刺しとかステーキとかではないだろうし」
「クリスマスっぽい料理だといいっすね」
「ただいまー。じゃあ先にリビング行ってて」
「お邪魔します、了解っす」
家に入ると、玄関で既にいい匂いが漂っていた。これは瀬奈が気合入れて作ったな。
2階の自室で着替えてからリビングのドアを開けた瞬間、玄関で感じた予感が確信に変わるような、濃密で芳醇な香りに包まれた。
バターのコク、赤ワインの深み、そしてハーブの爽やかな香り。
「じゃあ始めよっか! クリスマスパーティー!」
テーブルに並べられた、いつもより手の込んだ料理たち。
「ローストホース、カルパッチョ、赤ワイン煮込みの3品だよ。
今日はソースにこだわってみたから、堪能していってね」
「わあぁ! 瀬奈ちゃん、これ全部ストライクホースっすか!? お店みたいっす!」
「ふふ。祐也、かおりん、冷めないうちに座って」
俺たちは促されるまま席に着く。
「それじゃあ、グラスを持って。メリークリスマス!」
「「メリークリスマス」っす!」
グラスに注がれた炭酸飲料を一気に飲み干す。
「それじゃあ、いただきます! まずはカルパッチョから」
円形に並べられた薄切りの赤身。いつもの馬刺しより薄いその上には粉チーズが雪のように降り積もり、ベビーリーフの緑とミニトマトの赤がクリスマス感を演出している。
箸で4つの食材を取って、口へ運ぶ。
んー、瑞々しいな。馬刺しと違って、バルサミコ酢の酸味が肉の甘みを引き立てている。
ストライクホース特有の強靭な弾力。それが薄切りにされることで心地よい歯ごたえに変わり、噛むたびに肉の旨味が溢れ出てくる。その旨味をチーズが底上げして、ベビーリーフとミニトマトがさっぱりと洗い流してくれるようだ。
次はメインのローストホース。断面は驚くほど鮮やかなピンク色だ。低温調理でじっくり火を通されたのだと思うが、ナイフが抵抗なく沈んでいく。切り分けて一口。
うん、噛みしめた瞬間、閉じ込められていた肉汁がじゅわっと溢れ出した。しっとりと柔らかくて、カルパッチョとの食感の違いも楽しめる。
甘酸っぱいベリーソースが、赤身の濃厚な旨味を上品に纏め上げている。確かに、このソースはいいな。瀬奈がこだわったのも分かる。
最後は煮込み料理だ。赤ワインのいい匂いがしている。箸でも切れるほどホロホロになった肉の塊を口に含む。
はふっ。赤ワインの渋みと冬野菜の甘みが、ストライクホースの繊維一本一本にまで染み込んでいる。噛む必要がないほど柔らかく、外で冷えた身体にじんわりと染み渡っていくのを感じる。
3品でどんどん柔らかくなっていく食感も面白いな。
「んんーっ! 幸せっす! クリスマス最高っす!」
かおりんは頬をリスのように膨らませながら、止まらずに食べ続けている。じゃあ俺もどんどん食べるか。
「ふー。お腹いっぱいっす」
俺も満足だ。いつも通り追加で作ってもらったカルパッチョも食べて、腹八分目くらいまでは満たされたかな。
「瀬奈ちゃん、いつも美味しい料理ありがとうっす。
これ、クリスマスプレゼントっす! もらって欲しいっす!」
「ありがとう、かおりん。じゃあ私からもクリスマスプレゼント」
「ありがとうっす。これはボディークリームっすか、使うっす!」
「こっちはハンドクリームじゃん。早速使うね」
プレゼント交換なんて、クリスマスっぽいな。高校生ってこんな感じなんだな。
「祐也さんにもどうぞっす」
「えっ? 俺に? 何も用意してないぞ?」
「さすがにこの間のお土産は高すぎなんで、そのお返しも兼ねてっす。
それなのに祐也さんからまたもらうのはできないから、何も言わずに用意したっす」
「あー、なんか悪いな」
「ぶー、その反応はダメっす」
「祐也、それはダメだね」
「は? あー、ありがとうございます」
「まぁギリOKっす」
「なんで丁寧語なのよ」
2対1はキツイって。
かおりんからのプレゼントの包みを開けると、そこにあったのは黒いキャップだった。
「祐也さん、坊主なのに帽子被ってなくて、見てるこっちが寒くなるんで帽子にしたっす。それなら冬以外でも使えるかなって思ってそれにしたっす」
ちゃんとしたものを、ちゃんと考えてくれたのか。
「ありがとう。明日から使うよ」
お礼を伝えると、かおりんは機嫌が良くなったので、この対応で正解だったんだろうな。
はぁー、良かった。




