50話:家出
「瀬奈ちゃん、おはよっす」
「かおりんおはよー」
「はぁー、もう祐也さんは行っちゃったっすか?」
「うん、今朝出ていったよ。今度はいつ戻って来るかね」
「昨日メッセージ来たっすけど、土日にダンジョンに行った時には何にも言ってくれなかったっす。パーティーメンバーなのに……
前回は1ヶ月? 強くなって行ける階層が増えたっすから、今回は2ヶ月は帰ってこなそうっすね……」
「祐也がいない間、かおりんはソロで潜るの?」
「そうするしかないっす。
まぁちょうどいい機会なんで、投擲用の武器を買って、第3層あたりで練習するっす」
「じゃあ土曜日はミニポニーかミニベアを持ってきてよ。私も料理したいし。
なんなら、毎週お互いの家で交互に夕食会してもいいんじゃない?」
「いいんすか!? そうしようっす!」
9月に入ってすぐ。祐也が家出をした。
まぁ家出というか、また奥羽ダンジョン以外のダンジョンに遠征に行ったってだけなんだけどね。
かおりんが寂しがってるから、早く帰ってきなよ。
◇◇◇
第10層で剣を壊されてすぐ。
地上に出て、ダンジョン協会の直営店にやってきた。
ダンジョンで武器が壊れることはよくあることなので、ダンジョン入口近くの直営店も仙台駅前の東北支部と品揃えは同じくらいに充実している。
店に入って商品を確認していく。
必ず欲しいのは剣。あと、今後を考えて可能なら防具も新調したい。
これまで使っていた初心者向けセットはダンジョンが出現する前までの技術と素材で作られていて、第9層までのオススメとされている。
ただし、第10層以降はこれでは物足りない。ダンジョン内では使用者の能力が武器の威力の上限に影響しているとはいえ、あくまでも上限なのでその上限を超えていない武器では使用者の能力を100%発揮できないのだ。
そして第10層以降のために必要となる武器防具は、ダンジョンが出現して以降、手に入るようになった素材で作られている。
その素材が第10層以降で採掘される魔鉱石。これに各種金属を混ぜてできた合金が必要になる。合金を作る際の触媒として魔石が必要となり、エネルギー源以外でも魔石の活用方法が広がっていたりする。
その魔鉱石の合金の中で、一番メジャーであり、第10層以降に進む冒険者が買っていくのが、この炭素鋼と魔鉱石の合金である魔導鋼の剣。
そしてアルミ合金であるジュラルミンと魔鉱石の合金である魔導ジュラルミンのプロテクター。
これが中堅冒険者の定番となっている。
「すみません、この魔導鋼の剣と魔導ジュラルミンのプロテクター一式を下さい」
値段は初心者セットから大きく跳ね上がり、両方合わせて100万円。
高いとは感じるが、それだけの性能があるし、かおりんとパーティーを組んでから毎日かなりの額を稼いできたから余裕で払える。
冒険者カードで支払いを済ませて、新たな武器防具を手に入れた。
そのままロッカールームで着替えた上で、武器ケースを預けて第8層へ向かう。
この武器防具に慣れないとな。
◇◇◇
レベル:2(上限到達)
スキル:消化+、Absorb
【Absorb上限到達】
・ディグダベア
・ハヤテホース
・マッドベア
(他13種を表示▽)
新しい武器防具に身体を慣らしながら第9層でハヤテホースを狩り続けて、9月に入ってすぐ。
遂にディグダベアの吸収上限に到達した。合宿が終わってからは朝食にも肉を出してもらうようにして、1日6kgの肉を食べるようにしてようやくだ。合計で140kg分近く食べたはずだ。マジで多すぎる…
そして、今回は合宿の時に決めた通り、肝臓は食べずに心臓だけを3つ食べて上限に到達した。
必要だったのは心臓で正解だったな。ただ、心臓というよりは、心臓の中の魔石が重要なんじゃないかと思っている。石炭を超えるエネルギー、魔鉱石の合金作りに必要な触媒。それならAbsorbでの吸収に必要と言われても納得できる。魔石って何なんだろうか。
さて、上限に到達したということで。
「おはよう。母さん、明日からしばらく北海道ダンジョンに行きたいんだけどいい?」
「いいわよ。ちゃんと準備しなさいね。どれくらいで帰ってくるの?」
「飛騨ダンジョンよりは長くなるから2ヶ月とか?」
「分かったわ。毎日連絡するのよ」
「ああ。朝ごはん食べたら、仙台入口に武器防具を取りに行ってくる」
武器防具を更新してから第8層、第9層でハヤテホースを沢山倒してきた。
正直、武器防具が変わったことで戦いが楽になった感じはしない。元々の武器でも攻撃通じてたし。
ただ、武器を変えても第10層に挑むのは厳しいと感じていたので、ここは再び遠征して新しいモンスターを食べて強くなるべきだと決めていた。
前回は飛騨ダンジョンに行ったから、次は別の所にしようと決めていた。2層から6層のモンスターも食べたいし。
残りのダンジョンは、北海道、富士山、紀伊、九州の4つ。どこでも飛行機と新幹線があれば行けるし、特に行きたい所もない。
それなら、やっぱり美味しい食材がある所がいいよな。ずっと肉ばっかりだから、たまには魚介類が食べたい。
そんなわけで、今回の遠征先は北海道に決めた。
朝食を食べて、チケットを取ってから、仙台入口に置いてある荷物を引き取り、その後は久々に体力測定をすることにした。
前に測ったのはいつだ? えーと、メモアプリに。
あった、飛騨ダンジョンに行く前か。
まずはいつものランニングコースで9km走。その後ジムへ移動して、各種マシンの数値を測った。結果は以下の通り。
9km走は前回が35分55秒、今回が32分15秒。
ベンチプレスは前回が80.0kg、今回が137.5kg。
デッドリフトは前回が137.5kg、今回が222.5kg。
レッグプレスは前回が220kg、今回が360kg。
アブドミナルクランチは前回が51.25kg、今回が78.75kg。
1km3分を切ったら速いなって思うけど、まだそこまでじゃないか。それでも十分だとは思うけど。
さて、帰って明日からの準備をしなきゃ。
◇◇◇
「それじゃあ行ってきます」
「気をつけて行ってくるのよ」
「本当に行くんだねー、お土産よろしく」
飛騨ダンジョンの時よりは気持ちが楽だ。あの時はこれで強化されなかったらどうしようって思いがあったけど、今回はとにかく強くなるために向かう。
北海道ダンジョンにも奥羽ダンジョンや飛騨ダンジョンと同様に、いくつかの入口が用意されている。
そもそも北海道ダンジョンの入口の分布は広く、大雪山から日高山脈までの広範囲に点在している。
その中で、ダンジョン協会が管理している入口があるのは、旭川市、帯広市、富良野市、新得町、浦河町、日高町の6つ。
その中で今回向かうのは帯広入口だ。旭川入口と迷ったが、旭川入口の方が冒険者が多いと聞いたのでこちらにした。
それ以外の4箇所は旭川、帯広と比べて行くのが大変だったり、観光地として整備されていて野営には不向きな気がしたので除外した。
まずは仙台空港に行き新千歳空港へ、そこから特急で帯広に向かい、バスでダンジョン入口へ。
予定通りに進んでいき、夕方前には帯広入口に到着した。仙台と比べてやっぱり涼しいな。
飛騨ダンジョンと同じく、受付でロッカールームのレンタル申請をしてからダンジョンへ入っていく。
時間が遅いし、第2層ならこの荷物を持ったままでも余裕だろう。
さぁ頑張っていこうか。いや、頑張って食べようか。




