117話:24層
「ここから見た感じは、24層も23層と変わらないな」
24層へと降りた瞬間。他の4人より先に降りて、周囲の警戒を行ったが、23層との違いを感じられなかった。
しばらくはこの岩山の環境が続くんだろう。10層から19層が似た感じだった事を考えると、29層まで続くのかな?
周囲の安全が確認できたので、待機していた4人にも降りてきてもらい、すぐに階段のすぐ後ろに基地局が設置され始めた。
背負っていた荷物を置いていき、それらをケーブルで繋いでいく。
4人が背負っていた荷物は、通信の処理をするサーバーみたいなもの、電波を出すアンテナ、23層の基地局が出した電波を受け取る装置といったものだったようだ。
24層までの移動中に暇だったので聞いてみたんだけど、難しい話ばかりだったので、最終的には簡単に用途だけ教えてもらった。
そして、基地局の設置作業そのものは、俺が思っていた以上にすんなりと終わってしまった。
「あの。これって動くんですか? 電気とか無いですけど」
スマホも充電しないと使えない。それなのにどうやってこの装置を動かすんだろうか。
「この上に載っている小さい装置が発電機なんです。ここに魔石を入れれば発電できて、通信ができるようになります」
そういえば魔石は次世代エネルギーだったな。それにしても、こんな小さな装置で発電できるのか。
「……あの、その魔石って補充が必要ですよね?」
「えぇ。私たち職員が定期的に補充してます。補充は時間もかからないので、その時は護衛は無しですけど」
ご苦労さまです。補充だけするために24層まで降りてくるのか。
「それでは、地上へ戻りましょう。もう護衛は不要そうですけど、所長への報告が必要なのでお願いします」
無事に任務を終えたので、4人を連れて地上へと向かう。何事も無くて良かった。
「あっー、こっちの声は聞こえてる?」
「問題ありません。こっちの映像と声はどうですか?」
「大丈夫よ、鮮明に映ってるわ。それじゃあ、初の奥羽ダンジョン24層の探索を頼んだわ」
「分かりました。降りていきます」
4人を無事に地上へと送り届け、いつもの配信を23層でしてから、狩ったクエイクスティードの肉を売りに行かずに、そのまま協会とのWEB会議を開始した。
23層で繋いでから、そのまま24層へと降りていく。途中で切れる事は無いと確認しているが念のためだ。
そして2度目の24層へとやってきた。
午前中に来た時と変わらず、23層と同じ景色が広がっている。現時点では23層との違いが見つけられていない。
「本当に23層と同じ光景ね。初回だし、モンスターとの戦闘はしなくても構わないのだけど、やるのよね?」
「もちろんです。まぁ危ないと思ったらすぐに逃げますけど」
「そうしてちょうだい」
剣を抜き、いつ戦闘が始まってもいいように準備をする。
熊か馬か。ここまでの階層において、大半は熊の方が強かった。例外が12層のクラッグベアか? まぁあれも動き出したら強かったか。
なので、周囲の物音や不穏な気配に細心の注意を払いながら、岩山の右側へと向かって進んでいく事にする。
ゆっくりと。今まで以上に慎重に進んでいく。
岩山の様子はまだ23層と変わらない。所々にある大きな岩の影に隠れながら進んでいく。
ゴゴゴッ!
この音は23層のモンスターたちが放つ地震か!?
でも22層、23層のモンスターが24層にもいるのか?
2層ごとにモンスターが変わるんじゃないのか?
「斜面の上を見て!」
ドローンから聞こえてきた伊達さんの緊迫した声に反応して、パッと斜面の上部へと視線を上げた。
そこには、無数の岩が転がり落ちてきていた。岩は小さくても運動会の大玉転がしの大きさで、多くの岩は直径2mくらいはありそうだ。
俺は左右に動いて岩を避けていく。
24層まで来れる冒険者なら、これを避けられないという事は無いだろう。避けられなくても、盾で受け止められるだろう。俺も普通に受け止められそうだけど、まずは避けておく。
「岩の上にモンスター!」
俺の後方上空からドローンで映しているからこそ見えたんだろう。
俺は岩の下半分へと向けていた視線を更に上げて、岩の天辺あたりへと向ける。
……見えたっ!
岩から岩へと跳び移っていく馬の姿が!
馬は徐々に俺へと近づいてくる。
それにしても、岩の上を跳び移ってくる馬か……いや、木の上を駆ける馬もいるんだから、別におかしくは無いか。ダンジョンだしな。
近づいてくる間にそんな事を考えながらも、俺は引き続き転がり落ちてくる岩を避けていく。
あの馬はこの環境での戦闘に特化したモンスターだと思うが、こいつはどんな攻撃をしてくるのだろうか。パッと考えられるのは岩の上からの跳び蹴り、それか岩を蹴って軌道を変えて俺にぶつけてくるか。
岩を粉々にして礫をぶつけてくるというのも考えられるけど、23層までのモンスターの強さから考えるとそれは蹴りの力が強すぎる感じがする。
ひとまず思いついたパターンに注意しつつ、それ以外の攻撃が来ても大丈夫なように防御回避重視で立ち回ることにする。攻撃は防御が安定するまではしない。
方針を決め、岩の上を跳び移る馬を見失わないようにする。
俺と奴の距離が残り10mを切っただろうか。そして、互いの間を遮るものが無くなった。
その瞬間。馬が岩から飛び降り、俺へと向かってくる。
上からの飛び降り攻撃といえば、12層のマウンテンスタリオンや14層のフォレストランナーを思い出す。だが、それと比べれば高さは大した事がない。一方で馬の大きさはそれらを越えている。
位置エネルギーは小さいが、質量エネルギーは大きい。
大きく横に跳んでしっかりと避ける事もできなくない。
だが、今の俺の足元はしっかりしている。岩山においては珍しいくらいに地面にフィットしている。これ以上の防御体勢をとる事は難しいだろう。
それなら。
俺は避けずに、ガッチリと両足を踏みしめ、剣の腹を向けて馬の足を受け止めにいく。
ガァァンッ!
強烈な金属音と、剣を通じて両腕に伝わる衝撃。
その攻撃は重いが、無理じゃない。フォレストランナーの落下攻撃を受け止めた時よりは楽だな。
受け止めた状態から剣を前へと振り払って、馬を後ろへと弾き飛ばす。飛んでいく奴の背後からは、岩が転がってきている。そのまま轢かれろ!
だが、奴は器用に体勢を立て直し、岩の側面に四本脚で着地した。そして、そのまま岩を蹴って再度こちらへ飛んできた。
素早く連続で攻撃を仕掛けてくる事に驚きはしたが、先ほどの落下攻撃ほどの勢いは見られない。
先ほどので受け止められる事は確認できたので、もう一度受け止める意味は無いと判断して、今度は左へと踏み込んで身をかわしつつ、すれ違いざまのタイミングで右後ろから左上へと剣を振り上げた。
ズザジュギュッ!
刃は敵の前足の付け根から胴体へと深く食い込み、深々と肉を斬り裂いていく。
斬り終えた所で上から転がり落ちてくる岩を素早く避ける。避け終えた所で後方を確認すると、そこには瀕死の状態となった馬が転がっていた。
そこへ岩が転がっていき、馬の頭が潰される。
頭を潰された馬は、微動だにしない。
あの岩、ちゃんとモンスターにもダメージ与えられるんだな。モンスターにはノーダメージとかだったら面倒だと思っていたけど、そうじゃないのは良かった。
それにしても……
「伊藤君、無事?」
「大丈夫ですよ」
伊達さんの声に答える。特に怪我もなく倒せたし、24層でも問題なく活動できそうだ。
ただ、この馬が死んでも岩は転がり落ち続いている。つまり、この岩は馬のスキルじゃなくて、この24層のギミックって事なんだろうか。
「まだまだ24層の調査をお願いしたい所だけど、ひとまず倒したモンスターの死体をそのまま持って帰ってきてくれる?」
「……潰れちゃってる部分もできるだけ持って帰るべきなんですよね?」
「そこはできればでいいわ。先ほどの戦いを見ている限り、君なら何度も倒せそうだからね」
この落石の中、モンスターを倒すのは問題なさそうだけど、これは持ち帰るのに苦労しそうだな。次からは岩が落ちてこない所までモンスターを引き寄せて戦うべきかな。
ひとまず、転がり落ち続けている岩を避けながら、倒した馬の死体を回収して地上へと運んでいった。
その後、再び24層へと戻り、今度は岩山の岩などのサンプルをいくつか回収しながら、24層の調査を続けた。
その結果分かった事がいくつかあった。
まず、24層は23層まではあった小さな岩の浮かんでいるエリアが一切見つけられなかった。山の山頂に大きな岩が浮かんでいるのは変わらないのに。
そして、落石の発生するエリアがいくつもあった。つまり、23層までの小さな岩の浮かんでいるエリアの代わりに、落石があるって事なんだろう。その可能性が高い。
近づかないと落石が起こらないエリアもあれば、常に落石が発生しているエリアもあった。何か違いがあるんだろうか。まぁそこは連日通えば、そのうち分かっていくだろう。




