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DATA:022 さざなみ

 いったい、何時になったら目的地へ辿り着くのか。

 途切れることのできない緊張感の所為で疲労し始め、折れそうになる心を叱咤する。もうちょっとだ、多分。

 そう、言い聞かせて。


 ――――――あの後。

 アミラはシントやジナと相談し、少しでも可能性があるのならという事で、ヴィーザに案内してもらう事になった。そして、そのときたまたま暇だったジナと、ミィを連れてヴィーザの後についていってるのは、良いんだけど。

 最初は何も言わず、派手な色のティーシャツを追いかけていたのだが、どんどん、町並みが薄暗くなっていっている。道の脇にはゴミが捨てられていたり、壁には色鮮やかな塗料で落書きがされていたり。

 まだまだある。酔ってるんだか怪我してるんだか分からないが、でかい図体したおっさんがゴミ箱の脇でねっころがってたり、警察に見つかったら「ちょっと署まで来てもらおうか」ってすぐに言われそうなものを平気で並べて売っていたり。

 一言で言うなら、とにかく治安が悪いのだ。フィーア国はそこそこ発展してる国だと勝手に思ってたから、治安は比較的良いと思うんだけど、やっぱりいくら首都の町でも、こういうところはあるみたい。


 通称裏通り。

 フィーア国の闇の住人達の住処である、裏社会の社交場。半端なチンピラ程度の奴らならば、三秒で身包み全部はがされると評判の場所だ。殺し屋から、傘下の数は軽く百を越える、すさまじい勢力を誇るやくざのトップまで。犯罪者オールスターらしい。

 ヴィーザもなかなか名の知れた盗賊なので、こういった裏のことに詳しいらしいのだ。ここにも、よく来るらしいし。っていうか、こんな危険なとこに何の用なの?


「ヴィーザ、此処、大丈夫なの?」

「離れなければ大丈夫だって。ただ、気をつけろよ? いきなり殴りかかってきたり、引っ張られて犯されそうになったりするから」

「……それ、大丈夫って言えない」


 私は、そのヴィーザの言葉を聞いてすごく心配になったので、ミィの手を繋いだ。よし。これで、ミィがはぐれたりする心配はない。ミィも怖いのか、繋いでいる私の手を、ぎゅ、と握った。ミィは可愛いから、連れ去られる危険は私よりも大きいもんね。

 ジナは、ミィのことを睨んでいる……わけではなく、見守っているらしい。これでも。少しも目を離すことなく、じとー、と後ろから見守っている。

 …………悪いけど、それじゃ怖いよ、ジナ。

 どう見ても睨んでるもん。ミィは気付いてないみたいだけどさ。でも、怖がられること覚悟で、そこまでしてミィを護りたいという心意気は認めよう。


「ジナ、いざとなったら宜しくね?」

「ああ。ミィに近づくバカがでたら、この辺一体吹き飛ばすから安心しろ」

「むしろ安心できないよ、それ。なんで一人を止めるためにこの辺一体吹き飛ばすの。意味分かんない、馬鹿」

「ちげーよ。一人を止めるためじゃねぇ。一人を殺すためだ」

「黙れ馬鹿。お前は絶対に魔道を使うな。その思考が危険すぎる」

「ジナ君、ミィだけじゃなくて、ルイちゃんも護ってね?」

「……!! だ、誰がお前の頼みなんか聞くかよっ!」

「いや。とりあえず、そこは人としてYesと言っておこう、ジナ」

「…………。だけど、こいつも一応女だからなー。しょーがねぇから、いざとなったら助けてやるよ!」

「その言葉は嬉しいけど、『一応』ってどういうこと。あんたは素直に助けてやるって言えないの?」


 すると、ヴィーザが私の肩に手を回して、「俺が護ってるよ」と、上機嫌に言った。

 私はびくりと肩を跳ねさせ、咄嗟にジナの後ろに隠れた。ミィは、自分から私とヴィーザの間に身体を滑り込ませてくれたけど。

 ヴィーザを睨みつけるミィ。咄嗟に盾にされて不機嫌そうなジナ。そして、少し離れたところからヴィーザの様子を窺う私。を見て、楽しそうないやらしい笑顔で笑うヴィーザ。

 こいつは、本当に、私が嫌がっているところを見るが好きみたいだ。とんでもないドSで、この人のことが苦手な私に、とにかく、こいつはくっつきたがる。となると、私は当然それを必要以上に嫌がるので、その様子を見るのが、彼にとって楽しいらしいのだ。

 うっわ、嫌な奴。


「ていうか、今訪ねようとしてるあんたの友人って、誰なの? アブない奴?」

「んー? まぁ、言いようによっちゃ、犯罪者だけど。でも、普通の商人だよ」

「こんなところにお店構えてるのに?」

「いろいろと、あぶねー橋渡ってるからだよ。商品を手に入れるために、犯罪まがいのことやってるからな」

「それ、普通って言わない! ノット ユージュアリ!」

「ふつーだって。ふつーの情報屋なら、当然のことだよ」

「……じょうほう、や?」

「そ」


 情報屋って。いや、よく聞く言葉だ。漫画とかゲームとかでね。情報を売ってる、ていう人たちのこと、だと思うけど。

 なるほどねー。情報っていうのは、最強の盾にもなるし、武器にもなる。売る人間を間違えれば、それこそ国を脅かす問題になるかもしれない。そして、そんな情報を手に入れるためには、確かに違法なこともしなければならないこともあるだろう。

 そりゃ、表じゃ店を構えられないよなぁ。


「あ、ここ、ここ」

「ここ?」


 ヴィーザが指差したのは、一軒の喫茶店だった。とにかくボロイ。が、この通りにはピッタリの外見だ。薄暗く、今にもつぶれてしまいそうなレンガの家。想像した通り、レンガには、色とりどりの落書きがされてある。どれもこれも幼稚なものだ。ここの住人がしたものではないのだろう、という事くらいは想像がつく。


「さて。ここが、フィーア国一番の情報屋の住処(すみか)。カフェ、バーズネスト」


 ヴィーザは、改まった態度でそう言ってから、カフェと呼ばれたそのお店の、古そうな木のドアを片手で開けた。

 からんからん、と乾いた音がその場に鳴る。

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