第11話 藍原真(男子)
8月下旬。
もうすぐ夏休みが終わるというのに僕は真に会えてなかった。
正確には会う気になれなかった。
真のお母さんから真が退院する日を聞いていたので
真が退院し、家にいることは解っていた。
僕は真が男になった現実を受け入れられないでいた。
男になった真に会うのが怖かった。
僕は買い物を済ませ家に向かっていた。
家の前に着いた時、向こうから1組の親子が歩いて来るのが見えた。
真のお母さんと僕より少し背の低い男の子だった。
髪型はいわゆるスポーツ刈りで少し日焼けをしていた。
学校の制服を着ていたけれど僕が通っている学校のものではなかった。
僕はその姿を見て体が動かなくなった。
「あら、恭介君じゃない」
真のお母さんが話しかけてきた。
「久しぶり。元気だった?」
男の子が話しかけてきた。
「真・・・だよね?」
僕は問いかけた。
「えっ?あぁ、そっか。退院してから会うの初めてだっけ。
そうだよ。僕が真だよ」
「ははは・・・やっぱり・・・やっぱりそうなんだ・・・」
僕は気を失ってしまった。
気が付いた時、僕は自分の部屋にいた。
意識がはっきりしてきたので僕は起き上がった。
「あ、気がついた?いきなり倒れたからびっくりしたよ」
真の声がした。
「本当に男になっちゃったんだね・・・」
「うん。まだ1ヶ月経ってないけどね」
「真がここまで運んでくれたの?」
「お母さんに手伝ってもらってだけどね。
力は女の子の時と同じだから1人では無理だったよ」
言われて見れば、真の腕は細く力があるようには見えなかった。
「そういえば、何で会いに来てくれなかったの?」
「・・・男になった真を見るのが怖かったんだ」
「そっか・・・」
沈黙の時が流れた。
「ねぇ?僕の部屋に来てみない?」
「真の部屋に?」
「うん」
僕は真の部屋に案内された。
部屋の様子は変わっていた。
茶色を基調とした家具が並び、かつてこの部屋にあった
女の子らしさはなくなっていた。
「完全に男子の部屋だね」
「でしょ?シノの部屋を参考にしたんだよ。壁紙とかカーテンは
間に合わなくて前と同じなんだけどね」
「あれ?今シノって言わなかった?」
「うん。言った」
シノというのは僕のあだ名だ。
神崎が僕の事をこう呼んでいる。
「なんか、真に言われると違和感ありすぎて嫌だな」
「えー、何で?僕とシノは親友なんだから
あだ名で呼んでもいいじゃない」
「でも・・・」
「シノシノシノシノシノシノーッ!」
「あー、もう解った解った。シノでもツノでも好きに呼んで・・・」
僕はうなだれた。
「やったーっ。これからはシノって呼ぶね。よろしくね。シノっ」
真は喜んだ。
「本当はね、ずっと前からシノって呼びたかったんだよ。
でも恥ずかしくて言えなかった。
だから、シノって呼んでる神崎君の事がうらやましかったんだ」
それは僕も同じだった。
真が友達から、まこちーと呼ばれていたのは知っていたけど
恥ずかしくて言えなかった。
異性をあだ名で呼ぶというのは意外と難しいものだ。
「さて、と・・・」
真はそういうと制服を脱ぎ始めた。
「うわっ。着替えるなら部屋出るから」
僕は慌てて部屋から出ようとした。
「いいよ。気にしないから」
「気にしないって・・・」
「もう男同士なんだからさ。それに、女の子の時に裸見せておいて
今更恥ずかしいも何もないって」
そう言いながら真は慣れた手つきで着替えを済ませた。
「と言っても、平気なのはシノだけだけどね」
「えっ?」
「人前で裸になるのにはまだ慣れてないんだ・・・」
真は男になりきったというわけではないようだった。
僕は部屋の本棚ががら空きなのに気が付いた。
「本はどうしたの?前に来た時は漫画がいっぱい入ってたけど」
「全部捨てちゃった。女の子の服も全部」
真は寂しそうに話した。
「全部捨てちゃったの?」
「だって、男の子が持っていたらおかしいでしょ?
女の子の服なんてなおさら。捨てたくなかったけど仕方なかった」
「そうなんだ・・・」
家具や服、本以外にも女の子らしいものは全て捨てたという。
この部屋から真が女の子だった事を示す物はなくなっていた。
真と話して僕は少し安心した。
男になったら別人になるかと思っていたけど以前と同じ真だった。
男の真とも仲良くなれそう。
僕はそう思っていた。




