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第2話 土になりたい

休日も終わり、憂鬱な月曜日がやってきた。

結局まだ優太からお金は返されていない。


「今日の学食奢らせるか。」


そんなことを考えながら朝の支度をしていると中1の妹、(ゆい)が今にも倒れそうな歩き方で階段から降りてきた。


「おっは〜アニキ・ザ・グレート。」


「勝手に兄貴を愉快な名前にするな。」


お母さんは女手ひとつで俺たちを育てるために朝早くから仕事へ行っていて、俺が起きた時にはもういない。


「結、今日俺委員会の仕事があるから少し遅くなる。」


「りょーかい。」


「じゃ行ってきまーす。」


「いってら〜、今日も伝説作っておいでー。」


「俺は一体何者なんだ。」


車通りが多い方の道は学校までの距離は近くなるが、うるさくて落ち着かない。だから俺はこの裏ルートを使って登校する。こっちの方が静かで落ち着く――はずだったのだが......


「おっはよー!浩介ー!」


「おはよ」


「え、なんかキレてる?どしたん話聞こか?」


「それがさ......最近のゴリラは喋れるみたいでな、どこぞの有名俳優のセリフを口にしながら接近してきたんだよ。」


「それは気の毒だな...まぁ切り替えていこうぜ!」


こいつは同じクラスの松本武尊。こいつには話が通じないことが多々ある。


「お、武尊と浩介!おはよう!」


「おはよー優太!」


教室に入った途端、優太が声をかけてきた。


「おはよう。おい優太、土曜のお金返されてないんだが?」


「あ...」


「はぁー」


「ごめんて!今返すよ!えーっと、何円くらいだっけ?」


「3690円。これちゃんと俺が頼んだ分の金は引いてあるから。」


「え、あー、なるほどね......あのー浩介さん、また明日でもいいですか?」


「はぁー(軽蔑する目)」


「ごめんて!明日絶対持ってくるから!」


「ちなみに今財布には何円くらい入っているんだ?」


「2800円くらい。」


「じゃあもういいよ。」


「まじで!?こうちゃん太っ腹〜!」


「は?タダで済むと思うなよ。今日の学食奢りな。」


「ひぇっ......ごめんなさい。」


(ざわ…ざわ…ざわ)


急に廊下がざわつき始めた。


「おい!あの霧島先輩が橘先輩に告白するらしいぜ!」


「まじか!行こうぜ!」


驚いた。あのイケメンで運動もできる女子人気の高い3年生の霧島(きりしま)先輩が橘先輩のことを好きだったとは......


「おい!お前らも早く行こうぜ!」


隣のクラスのやつらが野次馬に誘ってきた。


「行くか!浩介!」


「おう。」


そこは大量の野次馬で溢れていた。そんな中でも霧島先輩は怯むことなく爽やかな声で言った。


「ずっと明里ちゃんのことが好きだったんだ。俺と付き合ってくれないか?」


はっきりと真っ直ぐ、あからさまな綺麗事を並べることなく、そのまま自分の思っていることを伝えている姿はとても男らしいと思った。

橘先輩もその気持ちにそのまま真っ直ぐ答えた。


「ごめんなさい。霧島先輩がそんなふうに思っていてくれていたのはとても嬉しいです。でもその気持ちに応えることはできません。」


そう言って、上品で美しい歩き方でその場を後にした。先輩が歩いたあとの道は花畑が広がっていったように見えた。


その日の放課後。


「そういえば、今日の委員会の当番俺か。」


「そうなのか?浩介は確か......図書委員だったか?」


「そうだよ。あーめんどくせ。」


「まぁなー。そういえば!図書委員って橘先輩いるよな?」


「あー、いたね。」


「朝あんなことがあったからな......それに、あの場に俺たちいたし、ちょっと気まずくないか?」


「たしかになー。でも橘先輩は俺たちがあの場にいたこと多分わかってないだろうし...それに橘先輩とは当番一緒じゃないから今日は会わないぞ。」


「ならいっか!じゃまたなー!」


「おう。」


俺は本を読むのが好きで図書委員に入った。図書委員なら図書室にある本をわざわざ借りなくても読むことができる。それに、当番の日の休み時間が少し減るだけで、デメリットも少ないし良いと思ってこの委員会に入ったんだが...実際は結構忙しい。2ヶ月に1度、新しく入荷した本が何冊も入った段ボールを1階から3階の図書室まで運ばなければいけない。それで、今日はその2ヶ月に1度の日だ。

それから変な位置に戻された本を元の位置に整理したり、自分のお気に入りの本を選んでその本の魅力を文章に写し、図書室に掲示する。これは新学期が始まったら、また新しい本の魅力を書き更新しなければならない。かなり面倒だ。そんなことを考えていたら着いてしまった。


「運ぶかー。」


そう思った瞬間後ろから、夏の風鈴のような爽やかで透き通った声が聞こえてきた──


「ごめん!遅れちゃったー。手伝うよ!」


「えっ...」


後ろを振り返るとそこには橘先輩がいた。俺は急に後ろに先輩が現れたことに驚いて、頭を使うより先に声が漏れてしまった。


「橘先輩!?なんでいるんですか?」


「なんでってなんで?」


「え、いや...今日先輩当番じゃないのになんでいるのかなーって。」


「ふっ、冗談だよ!君おもしろいね!」


「(なにが冗談なんだ?)」


少し理解に手こずったが、先輩は優しく微笑みながら言った。その笑顔は桃色の薔薇のよう華やかで、黄色のガーベラのように明るく可愛らしかった。この綺麗で美しい花の水やり......とまでは言わないから、栄養のある土ぐらいにはなってあげたいと俺は思った。

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