第1話 花に酔う
俺の名前は藤井浩介。バスケ部に所属している普通の高校生だ。この前の期末テストでは2年生156人中54位。すごく微妙だ。悪い方でもないが、特別いいわけでもない。そこら辺に落ちてる路傍の石だ。
そんな俺とは真逆で誰もが憧れるような存在が、ここ風凪高校にはいる──
3年2組の橘明里だ。
成績優秀、同じバスケ部のエースで運動神経抜群、それから整った綺麗な顔立ちで男女問わず多くの生徒から好かれている。まさに、高嶺の花だ。
「俺とは住んでる世界が違うな。」
ある日の昼休み、俺は散歩をしようと校舎裏の花壇が植えてある庭まで歩いた。
すると、そこには花に水やりをしている先輩がいた。橘先輩だ。先輩は水やりをしているだけでも絵になり、その姿は野に咲き誇った花のように美しかった。流石にフル無視するのはどうかと思い、声をかけた。
「その花...きれいですね。」
先輩は急に声をかけられたことに少し驚いたようだったが、すぐに冷静さを取り戻し、ニコリと微笑みながら答えた。
「でしょ!私薔薇好きなんだー」
薔薇の花言葉は「愛」「美」先輩に似合う花だと思った。それと同時に、この人にみんなが夢中になる気持ちがなんとなく分かった気がした。
翌日の土曜日、珍しく部活が休みだったので俺は小中高とずっと一緒の友達、浅野優太と飯へ出かけた。
優太は店に着いた途端に大量の注文を始めた。
「ご注文はどうなさいますか?」
「えーっと、まずこれと、それからこれと、あとは───」
一瞬でテーブルが埋まるほどの注文をした優太に若干引いてる俺を見て、すかさず優太は言葉を放った。
「今日は俺の奢りだからな!遠慮せずにどんどん食えよ!」
「いいのか?」
「もちろん!」
こいつには結構こういうとこがある。無駄に奢りたがったり、ドッキリやサプライズが大好きだったり......まぁ多分だだの自己満だ。
「そういえば浩介。」
「なに?」
「お前、橘先輩の噂知ってる?」
「なにそれ?知らない。」
「橘先輩のお父さん、元プロ選手で。結構有名な選手だったんだよ。」
「へー、すげぇな。」
「すげぇな。って...めっちゃ他人事だな。」
「実際他人だしな。」
「いや、お前も似たようなとこだろ。あの大女優の息子で...お前、自分はごく普通で地味な高校生です。みたいな面してるけど顔は普通にイケメンだし。中身は...まぁそうだな......い、いい奴だと思うぞ。(小声)」
「ぜーんぜん聞こえなーい!」
「ぐっ!そういうとこだぞ!浩介ー!」
「はいはーい。」
「で、さっきの話に戻るだけどさ。」
「え、まだ続くの?」
「お前ちょっと黙れる?」
「......」
「その有名な父さんの影響で中学1年のときからすごい期待されて注目されてたらしいぞ。」
「それで多分プレッシャーとか大きかったんだと思う。全国大会の出場を決めるすごい大事な大会でミス連発しちゃったんだって。そのおかげでチームも負けちゃったらしい......」
「あの人でもそんなミスするんだな。」
「その時まだ中1だしなー。それに、その父さんもすごい厳しい人だったらしい。勝つの当たり前負けると否定みたいな?」
「それは...気の毒だな。」
「うん、どうやらバスケも好きでやってる訳じゃなくて義務でやらされてたみたいな噂もある。」
「無理やり?」
「うーん、そこら辺はあんまよく分からんな!」
「分からんな!って...」
「でも不幸中の幸いってやつだな。親同士が離婚したから今は父親に縛られてるみたいなことも無いらしいぞ!」
「そうなのか。それはなんというか......反応しずらいな。」
驚いた。あのいつも笑顔で幸せオーラのようなものが滲み出ている橘先輩にそんな過去があったとは...
「てか、なんでお前橘先輩のことやけに詳しいんだ?」
「俺、橘先輩と保育園一緒だったんだ。それで母親同士が仲良くてさ。」
「そういうことか。」
「そうだけど。なにお前、橘先輩のこと好きなの?」
「は?なんでそうなる?」
「だってお前いつもどうでもいい話は基本聞いてるフリじゃん。今日はやけに食い付いてきたからさ。」
「お前!聞いてるフリ気づいてたのか!?」
「当たり前だろ。」
「まぁとにかく。あの人と俺じゃつり合わないし、俺は別に橘先輩のことが好きなわけじゃない。」
「そうかい。あ!もうこんな時間!浩介帰るぞ!」
「なにかあるのか?」
「この後、5時から塾なんだ!」
「え、お前さっきまで彼女とデートしてたんだろ?」
「そうだけど?」
「いや、1日に予定詰め込みすぎだろ...」
「何言ってんだ?塾の後は武尊の家集まって朝までオールだぜ!」
「ほんとにバカなんだな。」
レジに着いて優太が財布をいじりながら言った。
「あれー?おかしいな......」
嫌な予感がする。
「浩介!お金ちょーだい♡」
「はぁー」
「明日返すからさー!」
「絶対だぞ。」




