168 ⛩ 凶夢①
心が張り裂けそうなほど、何度も何度も、お兄ちゃんは死神に殺されていた。
その度に私は気絶し、目覚めると私がお兄ちゃんと手を繋いで歩いているところだった。
そしてまた、お兄ちゃんは私の目の前で死神に殺される。
私は気絶する。
その繰り返し。
『今ここで、私がお兄ちゃんを殺しちゃえば良いんじゃないかな?』
不思議な心の声が私に囁きかける。
だけど、あの頃の私はお兄ちゃんに一度も勝てていなかった。
それどころか、お父さんよりも強いお母さんに直接、稽古を付けてもらっていたお兄ちゃんは、私よりもどんどん強くなってしまって、今では手が届かない高みに居る。
そんなお兄ちゃんを私の手で殺す自信は無かった。
だけど、心の声は私に囁き続ける。
『お兄ちゃんを殺そうと思うなら、手を貸してあげるよ』
――手を借りてでも殺そうとは思ってはいない。
『勘違いしないで。手を貸すっていうのは、魔力だけ貸してあげるよってこと。もちろん、私は手を出さないよ』
――魔力だけ借りても、殺せるか解らないのに。
『大丈夫。固有能力を使えば問題無いよ』
――私の、固有能力?
興味を惹かれた私は後ろを少しだけ振り返った。
そして、白いオーラを纏った3人がこちらを見ていることに気付く。
瞬間、私は心の声の言葉に耳を貸すことに決めた。
『そうか! あの3人がお兄ちゃんを殺しちゃうんだ!』
――ならば、あの3人がお兄ちゃんを殺す前に、私が殺す!
『意志は固まったみたいだね』
心の声は嬉しそうにそう言った。
次の瞬間、私の身体に瘴気が集まってくるのが解る。
恐怖に感じた私は悲鳴を上げた。
「チガウ……これハ、魔力じゃなイ、瘴気よ……!!」
だけど、後悔してももう遅い。
瘴気はどんどん私の体内に流れ込んできていた。
解っていても、瘴気を外に出せない。
苦しくなって、私はその場にしゃがみ込んでいた。
「千尋?」
お兄ちゃんの優しい声が耳元で聴こえた。
「その苦しいのを、全てお兄ちゃんに吐き出して」
「イや……」
「じゃぁ、無理にでも貰っちゃうからね」
そう言ったお兄ちゃんは、突然、私の唇を奪っていた。




