149 ☉(▲) 展示会⑧
千尋は弱いな、何て思いながらも私が先陣を切り、4人で園の柵を越えながら、現状から抜け出すべく道を模索している。
単独で通常の出入口の様子を見てきた感じでは、更に多くの黒い仮面の見張りが立っていた。その見張りと真っ向から戦うには、私らの魔力では少し足りない気がした。
だから千尋を除いた3人で話し合って、廃れたサーカスっぽいテントの近くの柵を乗り越え、今は深い木々の合間を歩いている。
こちら側には見張りは居ないのか、動物の気配すらしなかった。しかも、少し木々の間を縫いながら坂を下れば、そこにはもう民家が広がっていた。結界が邪魔をしているものの、その民家からは人間の気配も、その人間がお菓子でも作っているのか良い香りもしている。
もっとも、これらが油断させる為の罠なら怖いところだが、流石に軒先の犬が私らを吠えているのに対して住民が犬を叱り付ける、なんて光景は、敵がわざわざ行うとは考えにくい。
「こちらに影響は無いのかしら?」
風見の一言に同意しながらも、魔弾だけで結界を破った私は1メートルほど下の道路に降り立った。
警戒はしていたものの、特におかしな気配はしない。
園内にかけられていた黒っぽい結界にもヒビが入ったままで、自動修復されそうな感じはしない。
「悪魔の部屋……と化していたのデショ」
不意に紗穂里が呟いた。
「その部屋の主があの繭だった、と思うのが筋デショ」
「特に何も起きなくて良かったけど……もう二度と、この遊園地には来たくないかも」
「メリーゴーランド、皆は乗り損ねちゃったものね」
「そこじゃないから!」 「そこじゃないデショ!」
思わず紗穂里と仲良くツッコミを入れたものの、千尋は相変わらずブルブルと震え上がってしまっている。思わず、私らは目を合わせた。
これでは、千尋はしばらく使いものにならないだろうと思われる。
「風見さん、」
不意に紗穂里が風見に話し出す。
「このまま互いの家に戻ったら、また連絡が取れなくなると思うのだが」
「……そうね。手紙も届くまでに時間がかかるし、まして手紙の全てが届く訳ではないみたいよ?」
「そうなの?」
思わず私が口を挟めば、風見は頷いて答える。
「えぇ。千尋の父上が誰かにそう話しているのを聞いたわ」
「それだと余計に困るから、何かあったら手紙を学校の下駄箱の中に入れておく、という方法はどうかな? ボク達に何かあれば千尋の下駄箱に、風見さん達で何かあれば香穂里の下駄箱に。どう? 身動きできない場合は、最悪、学校に手紙を送れば担任が保管してくれると思う」
「解ったわ」
風見は即答して失笑した。
「ごめんなさいね。何だか、何も出来なくて……」
「仕方ないデショ」
紗穂里は答えて私をチラリと見た。
私も仕方なく頷き返す。
本当だよ!と言いたかったものの、千尋の精神的な弱さは今までの疲労が溜まってしまっているからではないか、ともどこかで思ってもいた。色々なことがあったし。
しかし、それにしても弱過ぎる。良くここまで生きて来られたよな、何て思ってしまうほど。
だが、そう思う度に苛立ちが増すので、私は強制的に千尋を想うことを止めた。




