147 ☈(※) 展示会⑥
テントがある箇所は、比較的小高くはなっていた。
今はそのテントの上部、メンテナンス用の通路から外を見ている。
そして、この事件を引き起こしている犯人像が浮かび上がってくる。
携帯を入手して親父や母さんにメールを入れた後に、この光景を報道したニュース番組を電化店の軒先に置かれてあるテレビで知った。
ある超能力者の記者が、偶然にも岸間の屋敷が襲撃されたその瞬間を動画で撮影していたらしい。
あの時、岸間の屋敷の上空には複数の黒い塊が浮いていた。その塊は球体で、垣間見える一部は大きな黒い仮面を着けていることから、全ての塊についていると思われた。
なお、専門家の話しでは、それは悪神の卵ではないかという見解で幕を閉じていた。
――だが、実際に目撃した私はそれの正式な名称を知っている。
『 "人蝕の繭" 』
私の呟きに青年と蓮が黙った。
どうやら、私の記憶に間違いは無いらしい。
それは人間や妖怪などの魂を食う繭で、取り込まれた人間は必ず悪に染まる。悪に染まった人間は悪霊や悪鬼に憑依され、訳も解らず魔力暴走したり、堕転して悪事を働いたりするようになる、と聞いている。
ただし、塊に黒い仮面があるということは、それを誰かが管理しているということ。その誰かと言うのは、恐らくは里の主だと思われた。
しかし、今の情報だけでは、その里の主が邪神だとは限らない。
そしてそれは、私の家が襲撃された時にも使われた。
その情報が正しいかどうかは解らないと咲九は言っていたが、もしそれを使われていたとしたら、母さんもマンションの他の住人も堕転してしまっている可能性は高かった。
だから、咲九は私のことを最後まで一度たりとも自宅のあるマンションには戻らせなかった。
『……あれは、天界が崩壊する時にも使われました』
不意に青年が呟いた。
蓮が驚いた様子で青年を見る。
『待って下さい。貴方は、一体何者なんですか? 天界が崩壊した時を知っている何て……』
『今はまだ、口が裂けても言えません。ですが、何れ知る時が来ますよ』
青年は答えながらも、深い溜め息を付いていた。
『私は、天津 優衣という名前で人間をしています。天津でも優衣でも、好きにお呼び下さい』
『じゃぁ、天津はどうしてここに居たんだ?』
私は青年を天津と呼びながら訊ねた。
天津はゆっくりと目を閉じる。
『フリーのサーカス団に所属していたから、ですよ。ですが、そのサーカス団は昨日の時点で解散しました。いえ……解散させられました』
『まさか、あれの所為で、か?』
そう言いながら私は繭を見て示した。
天津は目を開けながら失笑する。
『感が良いのも困りものですね。ですが、間違いありません』
『それで、良く天津は残れたな?』
『私には魂がありませんからね』
その一言で蓮が目を丸くしていた。
それを天津がまた失笑する。
『魂は里の主に奪われただけですよ。その魂を返して欲しいから、里の主を殺さないという条件で咲九さんと契約して頂いていました』
『あぁ……だから姉さんは、里の主に手が出せなかった訳ですね』
呆れた蓮の様子に天津が頷く。
『そういうことです。残念なことに、その中には貴方の大切な友人の魂もあるようですが』
『知っていますよ』
蓮は答えながら私を見た。
『風見 貴――お姉さんのクラスメイトの風見姉を守る為に、弟の貴は自分の命を売った。でも、僕はそれも正しい選択だったと思っています。そうでもしなかったら、真面目過ぎる風見家の姉は宮本家に逃げることも出来なかったと思いますから』
だんだん……否、やっと話しが見えて来た気がした。
風見が宮本と一緒に居た理由はそこにあるらしい。
同時にもう1つ、異なる事実に辿り着く。
『里の主はオレらの親族や身近な友人の魂を人質として所持することで操り人形を生み出していたんじゃなくて、単純に里の主自身をオレらが殺せないようにしていた、ってことか』
『そういうことですね』
天津は笑顔で答えてから、真面目な顔で繭を見た。
『ちなみに……あれは、壊したらいけません』
『何故です?』
『外側から壊したら、中に囚われた人間がほぼ同時に魔力暴走を起こします。しかし、この園内には神を除いて、最低でも200人程の人間が居るようです。今日は少ないですが、昨日捕らわれた分を含めたらどのくらいになるか……。その数の魔力暴走が起きたら、この市は一瞬で消滅しますね』
『じゃぁ、どうしたら……』
『内側の人間ごと、あの繭を壊せれば問題はありません。ですが、』
『沢山の人間が死ぬことになる、と』
私の答えに天津が頷いた。
腹を立てたのか、蓮が地団太を踏む。
『あー! もう!! どうしたら良いんですか?! このまま見ていろとでも言うのですかっ??』
『そしてもう1つ言えば、核とまだ完全には融合していないお2人の魂は、近寄ることも非常に危険です。魂に引っ張られて核まで失うことになりかねません』
天津は答えながらも、私らの前方に気配を絶つ結界を張ってくれていた。
『里の主の本意が解らない限り、お2人もあの繭には近付かない方が得策でしょうね』




