第62話 コーディの正体
ぐるぐる、ぐるぐる……巨大な空間の壁を伝う階段は螺旋状になっていて、まだ底が見えない。
壁に埋め込まれた魔明灯が俺たちに反応して光るため、明かりは必要なかった。
ここには俺たち以外の気配はない。
俺は思い切ってコーディに聞いてみることにした。
「なぁコーディ、少し聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?どうしたの?」
コーディは歩きながら器用に振り返って俺を見た。
「その……、ルフトカイザーでコーディの腕を治療した時……見えちゃったんだ」
俺の言葉に、コーディは足を止めた。
そして俺の顔をじっと見ている。
「……あれは骨じゃなかった。……もっと金属的な……」
リナベルも足を止め、事の成り行きを見守っている。
「なぁ、あんたにいったい何があったんだ?……あ、いや、話したくないなら別にいいんだ、無理に言わなくても大丈夫だから……」
コーディはふっと表情を緩めた。
「……見えちゃってたか……」
コーディは一瞬下を向いたが、顔を上げ、決意したように俺の目を見た。
「いつか君に言わないと……って思ってたんだけどね。僕は……」
そこで、コーディは一旦言葉を切った。
「僕の正式名称は、対機神用自律式アンドロイド・ラグナレクシリーズプロトタイプ・コード:Dだ」
「えっ……!?」
長すぎる……けど、確かに聞こえた。アンドロイドってことは……リントヴルムみたいな存在ってことだろ?
「僕は人に造られた……人型の兵器なんだよ」
「人型の……兵器……」
よく……わからない。人にしか見えないんだけど。
「うん。……前の機神との戦いの時、人は機神の使う精神感応兵器……通称“ウェポン”に苦しめられたんだ。それを扱うには膨大な精神力が必要だった。けど、何とか逆に利用できないかということで始められたのが、ネイティブガンナー量産計画……人の手でネイティブガンナーを生み出す……その過程で造られたのが、僕らラグナレクシリーズのアンドロイドだよ」
「んん?ネイティブガンナー……?」
「そう。生まれながらに機神の精神感応兵器を扱うことが出来る人のことをそう呼んでいた。機神は適合者って呼んでたみたいだけど。……ライト君、君もネイティブガンナーだったんだよ、知ってた?」
「えっ……!?」
「僕のこの銃、実は精神感応兵器なんだよ。もちろん実弾を撃てるんだけど、弾がなくてもエネルギーを撃ち出すことが出来るんだ。……君が昨日やったように」
……確かに、雲を散らすのが楽しくて、10発ぐらい撃った気がする。
「奴らはネイティブガンナーを見つけると、片っ端から捕まえて自らの陣営に引き込んでいた。……ライト君も気をつけてね。……というか君はその前に目を付けられてたんだった……。あ、ごめん話が逸れたね」
コーディは淡々と話を続ける。
「……そうやって人の手で造られて、奴らの兵器を使用できるから、当時は僕らに対して忌避感を抱く人が多かった。僕は生体をベースに作られたから余計にね……」
コーディはどこか遠くを見るような目をしていた。
「基本、僕らは余程の危険がないかぎり、人の命令に従うようにプログラムされてる。だから戦いが終わって廃棄命令が出た時、僕の仲間たちは受け入れて姿を消したって聞いている。僕は母さんに匿われていたから、それを知ったのは随分後だったけどね」
「母さん……?」
「ああ、便宜上そう呼んでる女性がいてね、今も僕をメンテナンスしてくれてるんだ。機会があればライト君にも紹介するよ」
そう言ったコーディは普段通りに見える。
「……その母さんからリナベルを紹介されて、それ以来二人で旅をしているんだ」
やっぱりリナベルは知ってたんだな、コーディのこと。
「君は当時のことを知らない本当の一般人で……僕のことを話したら、どんな反応をするのかわからなかったから……。もし当時の人と同じように忌避感を抱かれたらと思うと、なかなか切り出せなかったんだ」
その時やっと、俺を見るコーディの瞳が不安気に揺れているのが分かった。
「このままバレなきゃいいなって思ってた?」
「そうだね。……その気持ちも少なからずあったよ」
コーディは素直に認めた。
「心配すんな、コーディはコーディだ。人に造られてようが、昔の人に何て言われてようが、俺の目の前にいるのが俺にとってのコーディだ。あまりしゃべらないけど、コーディが優しいのは知ってるから。嫌いになったりとか、ないからな」
「ライト……」
コーディがゆっくりと俺に近づいてきてハグをした。
コーディは俺より頭ひとつ分背が高いが、階段の段差のお陰で、同じ頭の位置で俺もハグを返せた。
「ありがとう、ライト。……うん、これからはリナベルの真似をしないで、君のことはそう呼ぼう。……いいかな?」
うん?“君”を取って呼ぶってこと?
「別にかまわないけど」
コーディの心境の変化なんだろうな。……というかリナベルの真似だったんだ……。
「うふふ。良かったわね、コーディ」
そうコーディに声をかけたリナベルは、柔らかな笑みを浮かべていた。今まで俺が見たリナベルの表情の中で、一番綺麗だと思った。
うなずきを返したコーディはとても嬉しそうだった。
「さて、それじゃ続きといきましょうか」
そうして俺たちは再び螺旋状の階段を下っていくのだった。




