異世界です②
地下室を出てすぐそばにある階段に腰掛けた猫耳さんが大声で叫ぶ。2階でパタパタと走り回る音が聞こえたかと思うと、ゆるふわな返事が返ってきた。
「あらあらー、それは大変ねー、今行きますよー」
2階から降りてきた女性も猫耳だった。座っている娘をひょいっと担ぎ上げたかと思うと俺らを案内してくれた。
俺ら3人は2階にあるリビングに案内されソファーに腰掛ける。飾り気はないが木の温かみが心を和ませる落ち着きのある部屋だ。リゾート地にありそうなログハウスを思い出す。
「自己紹介がまだだったニャ。うちはシエラだニャ。いまお茶を入れているのが母ちゃんのシエルだニャ」
キッチンに立つシエラの母親は艶のある黒髪で白い肌が際立っている。それと同じく黒い毛並みの耳と尻尾が鼻唄に併せて揺れている。
瑠香ちゃんと美波は窓から見える異世界風景を満喫している。
「先生、竜車ですよ、鎧姿の人もいますよ」
「石畳に石造りの建物が沢山です。露天商もいますよ、アニメで見た異世界の風景そのままです。原作者は異世界に行ったのかもしれないです」
よし。放っておこう。
テーブルの上にはいつのまにかシエルさんがお茶を用意してくれている。先ほどまでキッチンにいたのに背後に気配を感じたかと思ったらいつの間にか俺の横に座っている。
「ありがとうございます。音もなく移動されるので後ろ通った時にビックリしましたよ。早速頂きますね」
「「……!!」」
ミント系のハーブティーだ。非常に良い香りがする。
シエラさんもシエルさんもなんでそんなに驚いた顔してるんだ?作法でも間違えたか?
「……母ちゃんの動きに気付いたのかニャ?」
「あらあらー、すごいわねー、いつもは横に座って声をかけると皆さん飛び上がって驚くのに、おばさん残念だわー」
あれ俺なんかやらかしたか?お客を驚かせてどうすると思うのだが……。コーヒーもいいけどこのお茶美味しいな。
あれ?なんかじっくり見られているけどなんだ?美人親子に見つめられると流石に照れるぞ。
「あのう、私何かやらかしましたか?無作法でしたらすみません」
……沈黙はやめてくれ。
「母ちゃんは昔軍の特殊部隊にいたのニャ、普通の人は動きに気が付かない事が多いのニャ。お客さんが来たときは気づかれないように横に座って驚かせるのが趣味なのニャ。それに多少なりとも母ちゃんの動きに気が付いた人間がうちの地下にいたのニャ、怪しいと思うのが普通ニャ」
「「その話詳しく教えて下さい」」
「……ニャー!!いつのまに隣に座ったニャ!」
先程まで窓の外を眺めていた2人も軍の特殊部隊という言葉に即座に反応し気が付けばシエラさんの横に座っている。この2人も隠密行動ができるのか?知らなかった。
「あらあらー、皆さんすごいわねー、おばさんビックリよー、シエラちゃんはもっと周りの気配に気を付けないとだめよー」
とんでもない家にお邪魔してしまったらしい、しかし軍の特殊部隊って何してたんだ?
「ところでー、みなさんは何をするためにー、いらしたのかしらー?」
「そうニャなんでうちの地下に変な扉ができたのニャ?」
もっともな質問である。俺ら何しに来たんだ?
おっ!美波が立ち上がったぞ。説明は任せてしまえ。
「突然の訪問で驚かせてしまい申し訳ありません。私たちは日本という国から来ました。上司の神奈の元、薬の販売を生業としています。私は幸村美波、こちらは城井瑠香と申します。ある日職場に謎の扉が現れました。調査の必要があると考え扉を開けたところ、こちらのお宅の地下室へと繋がっておりました」
おおー! いつ練習したんだ。手の振り付けまでして、最後にドヤ顔。拍手拍手。
あれ? 首筋に冷たいものが当たっている気がする。
「あらあらー、ということはみなさん不法入国者ということかしらー? 衛兵さんを呼ばないといけないかしらー?」
そうです。言われてみると間違いなく不法入国者です。そしてシエルさん笑顔で俺の首筋に刃物をあてている。動けば命はなさそうだ。とりあえず両手を挙げておとなしくしておこう。
「それで何をするために来たのニャ?」
「「・・・・・・」」
2人とも出発前の勢いはどうした? 冒険者と錬金術師はどうなった。なぜ何も言わない。
「お恥ずかしい話ですが、なんと言いますか未知への探求とでも言えばよいでしょうか。自分たちが育ってきた世界とは別のところに行けるかもしれないという冒険心、私たちの知らない知識への欲求。この2つを満たせることができればと思っています。もちろんお役に立つようでしたら私たちの世界の知識や技術など紹介させていただきます」
出発前の冒険者になるだの錬金術師になるだのチート知識のあたりを上手くまとめたな。
あとはシエルさんの審判を待つばかりか。
「あのうこれだけは信じてほしいんです。私たちはこの国に害があることをしたくて来たんじゃないんです。いろいろな事に興味はありますが一番は異世界のお友達がほしかったんです」
シエルさんの笑顔の中に隠れた鋭い眼光が俺を突き刺す。
瑠香ちゃん、頼むから奴隷だハーレムだは言わないでくれ。選択肢を間違えると本当に女神さまに謁見、異世界転生コースになってしまう。
「あらあらー、お友達が欲しかったのー?」
「それならうちが友達ニャ。目標達成だニャ」
「それでは皆さんは悪いことはしないという事で良いかしらー?」
そんなに簡単に信じてはいけない気がしますが自分の命がかかっているので突っ込むのはやめておきます。そろそろ開放していただけないでしょうかね。
「御理解頂けましたでしょうか?悪意はありませんので、できれば首筋に突きつけられているものを退けていただけるとありがたいです。」
シエルさんは納得してくれたのか刃をしまってくれた。平和な日本の有り難みをまさに肌で感じたところだ。
「最後にー、1つだけ聞いてもいいかしらー?皆さん他の世界から来たのならー、私達の言葉はー、いつ覚えたのかしらー?」
……そうだ、なぜ会話が出来る?感じていた違和感の正体はこれか。
「えっ?扉をくぐれば言語スキルが身につくんじゃないんですか?美波さんはどう思います?」
「私も瑠香ちゃんと同じ意見だから全く気にしなかったわ。先生は気付いていました?」
会話が成り立つ事に誰も疑問を持たなかったのか。ならば
「Please give me a glass of water」
どうだ英検5級も怪しい俺の英語力は。
「「……??」」
「今のはわかりましたか?」
これがわかれば言語スキルの線も考えるがこの反応だとそれはないらしい。
「私たちが日常で使わない言語を使用してみました。2人はもちろんわかったよな」
「先生、喉が渇いているんですか?お茶を出していた頂いたのにお水がほしいなんて」
「あらあらー、お水ねー、今持ってきますよー」
いや待て。違います。言葉の確認がしたかっただけです。
「店長、もしかして英語が伝わらなかったのは私たちが言語スキルを貰えなかったってことですか?」
「おそらくだけどこの世界の言語が日本語と酷似しているということじゃないかな、ただ文字は違うみたいだけど」
まあ扉潜っただけで他言語の習得ができるなら通訳さんは職を失うぞ。
シエルさんは紙に何かを書き始めた。おそらくこちらの言語だろう。全く読めない。美波と瑠香ちゃんも首を傾げている。
「あらあらー、本当に読めないみたいですねー、読めたら大慌てすると思いますからー」
シエラさんは引きつった顔をしているので変なことがかいているらしい。
「シエラさんこれなんて書いてあるんですか?」
「……毒入りのお茶は美味しいですか? ニャ」
ブフーッ!美波がお茶を吹き出す。マンガじゃよくあるけど実際に吹き出す人がいるのは初めて見た。
「母ちゃん悪趣味ニャ」
「あらあらー、なかなか面白い反応でしたよー」
文字が読めない時点で言語スキルの線はないということでいいだろう。
「シエラちゃん、今日はお店がお休みの日だから皆さんに街の中でも案内してあげてー」
やった。異世界観光だ。準備をしないと。
「すみませんもう一度地下室に行ってもよろしいですか? 荷物を取ってきたいのですが」
売れそうなものを現金化して遊ぶための軍資金にしよう。
「持ってきたもので売れそうなものがあったら教えてください。こちらの世界のお金は持っていませんので」
「あらあらー、おばさんも他の世界の物に興味があるわーシエラちゃん取ってきてくれる―?」
瑠香ちゃんとシエラさんは荷物を取りに地下に向かう。美波はどこに行きたいかリストアップを始めている。
「ところでお店が休みとのことですが何のお店をされているのですか?」
この世界の小売店の形態が現実世界の参考になるかもしれない。珍しいものがあれば元の世界で転売できるかもしれないし。
「あらあらー、シエラちゃんから聞いてなかったのー? うちはお薬屋さんですよー」
「「エッ?」」
美波も気になって聞き耳を立てていたようだ。まさかの同業者か。
「すみません、お聞きしてもよろしいですか?マジックポーションやエリクサーなど魔法薬はおいてありますか?」
美波の反応が早い。まあ出発前に錬金術だのエリクサーでぼろ儲けだの言っていた気がするから仕方ないか。
「おとぎ話に出てくる魔法のお薬のことかしらー? それがあったらー、私たちご飯食べていけなくなってしまいますよー、でもー、もし作り方を知っていたらーおばさんに教えてくださいねー」
シエルさんが珍しく長く話したと思ったら美波はショックで固まっている。まあ目的の一つがいきなりダメになったからな。これだと魔法や錬金術もなさそうだな。
瑠香ちゃんたちが戻ってきた。さて持ち物の転売候補を探しますか。
勢いで書いたけど息切れ中。だんだん雑になっている気がします。すみません。




