出会い
意識を失った青年、意識を取り戻した彼に待ち受ける事とは・・・・・・。
暗い・・・暗い・・・、俺の意識がまだ暗い闇に満ちてさ迷って行く。俺はどうなったんだ?さっき倒れたせいでまた死んだのか?
《力制御機能、五感信号機能、眼球映像機、共ニ正常》
何だ?この脳内から響く機械染みた声は?・・・機械・・・機械・・・銀・・・。そうだ。思い出した・・・。
俺は・・・俺は・・・。人間なんかじゃない!?
《現エネルギー残量0%、非常事態ニヨリ予備エネルギーヲ使用、予備エネルギー作動、現残量エネルギー20%、映像機能開放意識ノ回復ヲ始メマス。》
「うわあああああああっ!!!?」
気付くと俺は見知らぬ場所の地面で目が覚める。
俺は周りを見る、目の前には焼き焦げた焚き火の後と布袋らしき物が三つそして誰かが食べ終えた食器が二つ置かれていた。
「・・・此処は・・・、一体・・・、えっ!?」
俺は自分の両腕に気づく、化け物染みた銀色じゃなく至って普通の人間の腕だった。俺は自分の震えた両手で全身を調べる。目がある、鼻がある、唇がある、歯がある、耳がある、髪がある、間違いなく人間のだ。
・・・一体どうなってるんだ。銀色の体は?もしかして俺の気のせいか?
「気が付いたようですね。」
「!」
一人の少女が水の入った桶を両手で持ちながら現れた。もしかしてこの娘が俺を助けたのか?
「此処は・・・。」
「此処は廃城です、元々何処かの王族が所有していましたが何らかの理由で放棄あるいは粛清されたのでしょうか分かりません。今は私達二人の拠点地として使用しています。」
「・・・そうですか・・・。助けて頂き本当に有り難うございます。」
俺は少女に礼を言う、仕方がない何せ俺を助けてくれた命の恩人ってところと言ったところか。
「申し遅れました。私の名はフランと申します。訳あって御付きの侍女と共に世界中を旅しています。」
少女は俺に御辞儀して自分の名前を名乗りだす、御付きの侍女と言ってたなこの娘、何処かのお嬢様か?
「まだ貴方の御名前を申していません、貴方の御名前を教えてくれませんか?」
「名前ですか?俺の名は・・・。」
・・・あれ?そういえば俺の名前って何て言うんだ?
《貴方様ノ名前ハ現在登録サレテイマセン。記憶修復ガ100%ニナルマデ登録ハ出来マセン。》
《現在ノ記憶修復率2.2%》
「・・・」
「あの、どうかしましたでしょうか?」
するとフランが俺に尋ねる。
「・・・俺は。・・・俺は、一体誰なんだ?」
「自分の名前が分からないんですか?」
「ああ、名前だけじゃない、自分の記憶もさっぱりと。」
「もしかして、・・・記憶喪失。」
「・・・恐らくそうだと思います。」
俺は縦に頷く。何せ仕方がない、自分の名前も記憶もさっぱり分からない、それにしても言葉が出ない、取り合えず何か話さないと。そういえばさっきから着てるこの服って。
「えっと・・・、そういえば今俺が着てるこの服は一体?」
「え、ああ。今貴方が着ている服ですか?それはこの前近くの洞窟で入手した物です、全裸で倒れてたので衣服が無いと凍え死にますから・・・。着替えは今は居ませんが侍女がさせておきました。」
「そうですか、って全裸で!?」
「はい。」
フランが顔を赤らめながら答える、俺が?しかも全裸で?そういえば彼処で目が覚めたとき服とかはどうしてたんだ?
っていうかちょっと待て全裸という事はまさか!?
「・・・もしかして、見た?」
「えっ!?」
フランが顔を真っ赤にする。
「そうか、見たのか・・・。」
「い、いえ見てません!断じて!!貴方を見かねた時後ろ姿で倒れてましたから見てません!!」
「そ、そっか、良かった。ハハハハハ。」
良かった。大事な所を見られたら本当に直ぐにでも自殺するところだった。
「それにしても名前が無いと貴方の事を呼べば良いのかしら?」
「その事何だけど、俺の名前はまだ付けないでくれないか?何かよく分からないけどそのままの方がいい気がして・・・。」
「名前が無いと言いますと・・・。『名無し』ですか?」
「そう、それ。」
「分かりました。宜しくお願い致します名無しさん、私の事はフランと呼び捨てで構いません。」
「ああ、宜しくフラン。」
俺はフランに握手をしようと起き上がろうとする。その時廃城の地面に躓きフランを巻き添えに倒れてしまう。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
上に俺、下にフラン、この状況って何かヤバイと嫌な予感がした。取り合えず直ぐにフランから離れないと。そう思ったその時だった。
「只今戻りました。お嬢様、先ほど大鹿を狩りましたので今日の晩は鹿肉と野草の汁鍋にしま・・・」
すると一人の女性が俺とフランの所に現れた。彼女には大きな鹿を片手で担ぎ左手には大量の野草や茸が詰まった篭を持っていた。
「・・・・・・。」
「リィフェ違います、これは・・・。」
「お嬢様から離れろこの変態野郎がーーっ!!」
リィフェと名乗る女性は食料を置き捨て目前に置かれていたフライパンで俺に襲いかかって来た。
「うわあああああ!!」
その後俺はおもいっきりフライパンに叩かれ再び俺の意識は夢の中へと堕ちていった。
そう、これが俺『名無し』とフランとリィフェとの出会いと始まりだった。
《頭部ニ物理攻撃記憶修復ニ問題ナシ、記憶修復率2.4%》