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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
51/65

ー肆拾伍ー「第一回東西対抗侍合戦 其の参」

全体的にやっぱり戦闘描写が似通ったというか…。

自分には二ヶ月毎の更新が丁度良いのかもしれません。

「今の状況を改めて整理すると、言撫さん、真継さんと時雨さん、夕山辺さんで戦っていて。一方で白菊さん、印南さんと白夜、守さんが戦っている」


「…うん……」


「なお、この中でチート…詠い手は時雨さんに夕山辺さん、守さんに白夜と白菊。いやぁ、詠い手がこんなに偏っていたとはね!」


「…そ…だね……」


「ずずぅ…(夕山辺さんも時雨さんも、こんなところで歌を使うとは思いませんでしたよ)」


「ずずず(ちーちゃんはちょっと違いそうだけど、とー君も負けず嫌いだからねぇ。遊びでも本気を出すだろうさ。日頃の鬱憤も溜まっているだろうし)」


「…そこの月見蕎麦師弟、啜る音で会話をしないっ!というか、よく其れで会話出来るね!?」 


「「ずずー(あ、ごめん)」」


「啜る音で返事をするなぁっ!」


大五郎茶屋の前は、とても平和な会話が広がっていた。



                    ※       ※



「相手は全員、一人でも心強い詠い手かぁ(こっちにも折霜さんいるけれど)。…ねぇ、幸ちゃん。此の状況で俺達が勝ったら、凄いと思わない?」


「そうね。熱い展開だと思うわ」


「だよね。其れじゃ行ってきますっ!」


 ずっと逃げていた真継と幸。

真継は急激に方向を変え、逃げる一転千草に突っ込んだ真継。


(髪の毛で見えないものの)千草も驚くが、泥を付けてやる気満々で木刀を振り下ろした。


「とぉっ!」


木刀が迫る中、真継は飛び込んだ。

真継は木刀下を潜り抜け、千草の足元に頭から着地し、一度転がって起き上がる。


「時雨さんの歌は木刀を振り下ろした後に発動する、時間差攻撃。木刀と全く違う場所にいれば喰らわない!」


真継は立ち上がりながら、右後ろに跳んで下がった。

其の動きを追った千草は、其れとは逆に背後から飛び出していったのを見た。幸は背を向けた千草に攻撃するのではなく、後方にいる燈へと走る。


「信貴珍道六十一の型、天鵞絨っ!」


 幸に目が逸れた千草に急接近する飛来物。真継が全力で投げた木刀だ。

其の木刀に驚きを見せず、千草は上に弾いた。


ダッ


「信貴珍道六十四の型、纁っ!!」


其処を駆け寄った真継。千草の前で飛び上がった真継は弾かれた木刀を手に取り、振り下ろす。千草は其の刃を防ごうとした。しかし、千草の木刀は振り切られ、其の線上で真継の頭を横殴りにして…しまった。


「ふごぉっっ」


ゴロゴロゴロ


 真継が屋根の上をごろごろと転がる。千草は無言で首を傾げる。はて、私は木刀を受け止めようとした筈なのに、何故葛飾の頭にぶつかったのか…と。千草も悪じゃないので、真継の頭の心配はした。


 千草の肩にスッと気付くか、気付かないかというくらいに触れるものがあった。千草が手を添えると、ザラッとした触り心地。見れば茶色…泥だった。


「…あ」


小さいが珍しく、千草は声を出した。真継を見ると、起き上がってにやけていたので、平気そうで安心した。彼は頭の右側に泥が付いていたが、其れ以外にも右側を中心に泥の線が着物に広がっている。千草の歌に依るものである。


「天鵞絨は手に持つ得物を相手が上に弾くように投げつけ、得物に気が逸れている間に近付いて弾かれた得物を手にし切り裂く剣術。そしてもう一つ…纁は、態と木刀を真上にすっぽ抜けさせて、自分は持っている振りをして切り裂き、肝心の得物を相手に落とす。そういう技なのさ!」


千草の目は真継からは見えないが、顔の方向から真継をじっと見ているようだった。見える口の形は「へ」の字。

彼女は同じく無口といえる、さえ以上に何も言わないが、何が言いたいのかは真継が一番自覚をしていた。


「遊びじゃなかったら死んでる?……まぁ其の時は如何にかするよ。でも、自分が死ぬ気で向かわなければ時雨さんに一本入れる事も敵わないんだから、後悔はしてないよ」








そう此れは遊びなのである。此の「遊び」を如何捉えるかは、また人による。






「渡坊主の時は俺が走った。…今度は転じて守りとなるか」


 千草を抜けた幸は燈へと走る。接近してくる幸を確認した燈は、千草が抜かれた事に驚きつつ、表情を引き締め、全ての火の玉を幸に向けた。


「当てては来ないって分かっているなら、こっちは何も怖くないのよ!」


幸は構わず、前に進んだ。苦虫を噛むような顔をしながら、顔面に直行していた火の玉をずらす。たった一つ、最後の火の玉が足元を通り過ぎ、熱だけが肌を掠めた。


「熱っっ」


「怯まない奴は先に見たんで、こっちも考えさせてもらった。

ぶち当てるのは禁止されているが、傷にならない程度に掠める事は問題にはならん。遊びとはいえ、負けるのは悔しいのでね。本気でいかせてもらうぞ!!」


当たりはしないが、幸に纏わりついてくる火の玉。熱さは我慢したくても、反射的に体が反応して、時にはよろめく事もあった。

火の玉の妨害を受けながらもほぼ走る速さを変えず、燈に迫る幸。燈は幸に、もう自分の歌が効かない事を悟った。


「渡坊主も幸も俺の火を怖がらないのは勇ましいと褒めるべきなのか、そうじゃないのか…」


 燈は木刀を握る手に力を籠め、左足を少し下げる。

 二人が最接近した場所で、燈は左足を踏み込み、


「はぁっ!」


背中迄しならせた木刀を振り下ろした。対する幸、腕を挙げず、くるりと回り、燈の左を通った。


背後に回って切ろうとしている。燈はそう判断して、何も無い場所を切る木刀を背後に持っていこうとした。


ブシャッ


横目に後ろを見ていた燈の顔に右側に冷たいものが掛かる。其れは他の人と同様に泥であり、木刀の先に破けた白いものが刺さっていた。


「此れは…」


「其れは、佐野の作った泥団子よ」


木刀の先を見ている燈、によく聞こえるように幸は口にする。


「紙を何重にも重ねて作った、特別製のね」



                 ※        ※



 少し前の事、


「あー!いたいた、幸たーんっ!」


幸が次の相手を探そうと、屋根から屋根に飛び移っていた時だ。飛び移った丁度真下、狭い路地から呼び止める声がして、足を止め、急いで周りを確認し、誰にも見られないように下に降りた。


「静かにしてっ汗かき男!何か用!?」


其処にいたのは、声で分かっていたが、渡だった。

同じ都を守る隊長の仲間であるが、幸が渡に持つ印象は「汗臭い」の一言。

今は泥塗れになっても良い様に、もう其の用途で使わないであろう白い着物を着ており、(おかしな話だが)何時もよりも清潔なのだが、其れで普段の印象を払拭出来る筈もなく、幸は可能な限り離れて接しようとした。

だが、渡としては都合が悪かったらしく、「ちょっと寄って」と手で合図を出し、手渡すように右手を伸ばした。


「はい、此れ!」


「…?何よ此れ」


幸は離れた所から手を伸ばし、さっと手に取ると、少し柔らかい白い球であった。


「俺が丹精込めて作った、泥団子よぉっ!」


「泥団子ぉ?」


一見では泥団子に見えない。幸は訝しげな眼で渡を見た。


「泥が付いたら駄目だからよ。自分についたら元も子もないだろ?だから、絶対に外に泥が漏れないかつ、割ろうとすれば簡単に割れる泥団子用の道具ってのを考えてみたわけだ。

此れは紙を何重にも張り重ねて、木刀なんかで割ろうとしない限りは外に出ないようにしてるってわけ!思う以上に作るのに時間が掛かって、出来た完成品は此れだけでな。其れを幸たんに使って欲しいっていう事よぉ」


「ふぅん……なんで、あたしなの?自分で使えば良いじゃない」


「そりゃもう!俺は幸たんの事心の底から愛してるしぃ、良い感じに使ってくれるって信頼してるからでっせ!

俺が使わないのは、あれだ。俺は此れから此の大会で最も大きく偉大な作戦を実行させて頂くわけだ。んで、必ず俺は直ぐにやられる。其れを使う余裕もねぇだろうさ!」


渡は何もない所を抱きしめ、楽しそうに左右に振った。

言葉にも行動にも勿論どん引いた幸だが、特別製という泥団子だけは貰っておいた。


「もし使ってくれるなら、幸たんには俺の仇をとる時にでも使って欲しいなぁ…」


「死ぬわけでもないのに大袈裟な…まぁ、考えとくわ」



                    ※       ※



「渡坊主め…」


口は苦くして言った。

だが、其の表情に悪い感情は無い。


「此れを機に、坊主って呼ぶの止めてあげたらどう?」


「こんな子供染みた作戦を考える三十歳を超えた男なんぞ、坊主で良いだろ。…だが、『悪餓鬼のような知恵の働く奴』という、良い意味(・・・・)を此れからは含めてやろう」


負けたのに晴々とした表情でそう言う男に、幸はやはり呆れるのだった。








 もう一つの四人の戦い。列を成して接近した印南、白菊は守へと走った。


一人で二人を相手にするのは厳しい。フォローに回った白夜が白菊の後ろに回った。

白夜は逆手に持つ木刀で襲い掛かる。しかし、白菊は声を大にして言った。


「もうバレているのよっ…守さん!!」


〈え…〉


白菊にはちゃんと(・・・・)、其の目に子狐の姿が映っていたのだ。


彼女は身を翻し、自分の横を守を通した。








”思い込みとは時として、視界に映るものすら曇らせる”









 白夜がした事は至って単純だ。四人が弾かれ、味方同士の二人と二人に分かれた時、守と立っている位置を逆であると誤認するように歌によって操作したのだ。

此れを信じた時、よく見ようとしない限り、守は白夜、白夜は守に、たとえ大男と子狐だろうが見えてしまう。

ただし、白夜に確認する術は無い為、信じるしかない。


 そして、白夜の歌は発動をしていて、白菊には彼の予定通りに映っていた。だが、印南には通じなかった。白菊が正しく見えるようになったのは、印南に指差しで指示された時。よく見た、為に白菊の目にも正常に見る事が出来ていた。

操作した事柄が意識下に曝け出されると意味が無くなる。此処で白夜の歌は破綻したのだ。


印南と白菊は、想定していた相手とぶつかる事が出来た。





 守に触れられずに立ち回るには、迫ってきた前足後ろ足を手の得物で受け止めるか、触れられないように避けるかを選ぶ事になる。

手に持つ木刀は、使い勝手を手慣れた者にとっては手足も同然、もしくは手足の延長と表現されるが、しかしながら本物の手足には遠く及ばない。守は防ごうとしてきた木刀を足場に持ち主に飛び掛かった事もあった。ならば避ける方がリスクは少ない。


〈もー…避けないでよぉ!〉


 足元を守にちょろつかれながら、一見楽しそうに足を動かす白菊。彼女は、守に触れられないように必死である。


其の手に大きな筆は無い。


〈ねー、筆が無いのは何でぇ?いなみんの後ろに隠れる前は持ってたよね?〉


「そうねっ持っていたわ、ねっ!」


 危うく掠めそうになったところを足を上げる。話をするのも守の手なのか、返答をしていると考えてる事が疎かになりそうだと其れ以上耳に入る言葉は意識の外に放り投げた。

跳べば着地迄が無防備だ。片足を上げればもう片方の足が空くので、飛び掛かられたら直ぐに足を入れ替える。鉄板の上で鉄の靴を履かされている気分で、白菊は反撃の機会を伺っていた。


 次に足を入れ替えた時、白菊の足下に何かが入ったようで、転がる。其れによって白菊が躓く。


〈隙ありぃ!〉


守はすかさず白菊に飛び掛かる。気持ちに釣られたのか、ちょろちょろ走り回っていた時よりも少し地面から遠かった。白菊はよろけながら目聡く見つけ、手足に触れないように守の腹に手を当て、押し上げる。


〈ぐるっ!?〉


守が白菊より高い所に上がる。空中では足を漕いでも前に進まず、守が無防備となった。

白菊は足で蹴り上げたもの…泥付きの筆を守に向ける。


 筆は落としたのではなく、転がした。

躓いたのではなく、態と隙を見せた。


「此れを待っていたわ!『心あてに 折らばや折らむ 初霜の  置きまどはせる 白菊の花』っ!」





 歌に依って、筆は守に向かって伸びた。当たる、という間際で守は、


「『解』」


ぽん、と煙が巻いて、人の姿の守が現れる。彼は迫る筆先に手を伸ばし、泥の付いていない、毛を納めた持ち手に触れて、くるっと、ポールダンスで巻き突くように筆に纏わりつき、筆を地面に見立てて両足をつきしゃがんだ。


地面と直角、見上げる白菊と目が合った。


「ざ~んねん。歌は詠うと長いけど、解くのは短いからね。其の差が出たって感じさ!」


 筆の持ち手から足が離れ、直下に落ちる。筆でガードする事も間に合わず、腕で顔を庇ったが、守が爪を立てるように前に出した手が腕に触れ、縦一文字の茶色が残った。

勝負は決した。




「よく分かりましたね。白菊に俺の歌を使っているって事」


「分かったんじゃねぁよ。よくある、俺ならそうするってやつが的中しただけだぜ」


逆手に持った木刀と両手で握りしめた木刀が、斜め上、下に交わり、突きを弾く。弾かれた木刀と腕を、二の腕に直ぐ力を加えて体に引き寄せ、次に備える。弾いた側の木刀も、変化した位置から戻され、臍の前で何が来ても良い様に構えられる。


「へぇ…国原さんって思った以上に愉快な人みたいっす、ね!」


 白夜が横から切り込むが防がれた。

防いだ其の木刀で上から切られるが、此れは避けた。避けた拍子に駄目押しするが効かない。


「俺は印南で良いぜ。名字は姉もいるから紛らわしいんでよ」


「じゃあ印南さんよ…そろそろ当たってくれないっすかっ!?」


「三十代の意地を前提に断るっっ」


 白夜の元来の癖から後手に回った方が強くあれる、のだが、印南の言葉には無い仕草による挑発にうまい具合に乗せられている気分だけは抜けない。

それに白夜は此処の所、春人に先手で優位に立ち回れるように特訓を重ねていた故、意固地にも此処迄通用しないと分かっていても悔しく、止められずにいた。


「『鵲の 渡せ』…」


「おっと…先に言っておくが、多分其れは俺にゃあ通じねぇぜ。さっきがそうだったろ?」


「…っ!『鵲の 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける』っ!!」


 印南は忠告したが、白夜は構わず詠いきった。見た目には現れない白夜の能力。目の前で歌を詠っており、印南は白夜の歌を把握している。しかし、何に対して使用しているかバレなければ良いのだ、と白夜は考えていた。

忠告を挑発と受け取り、白夜は向きになっていたともいう。


 白夜は足を踏み込み、一歩、二歩。其の大きな歩幅で、印南の裏に回り、木刀を振り被る。

印南は振り返り、木刀を。





だが、印南は木刀を振り返った背後、振り返る前に向いていた方向に木刀を向けた。




一歩も動いて(・・・・・・)いなかった(・・・・・)白夜の木刀を受け止めた。


「なんっ…!」


 白夜は、一歩踏み出した所で、後ろに回ったように見せ、実際には一歩も動いていなかった。後ろを向いたから今度こそ通用したと思ったのだが、逆に…そう見せていただけらしい。

白夜は駄目押しだと力を入れたが、少し印南の木刀が下がっただけだった。


「効かねぇってな…言ってんだろぉっ!」


 声を荒げ、白夜の木刀の刃を滑って、印南は自身の木刀を自分に引き戻し、交わるのが木刀の先だけに成る迄引くと、


刃先を木刀の裏をとるように潜らせる。印南の刃先は白夜の木刀よりも、白夜の傍に来た。

秒を数える程の時間も過ぎなかった。

白夜に迫るのも、そう時間は使わない。白夜が出来たのは、首を左にずらす事だけだ。


印南の木刀が白夜の肩を掠めた。


…此処にきて、白夜の悪癖が出た。

白夜は特に思考を巡らせる事無く、木刀を捨て、伸ばされた其の手を掴んだ。

其処から繰り出すのは一本背負い。


印南は知らぬ内に宙を舞い、屋根に叩きつけられ、転がっていった。


「ぐぼぉっ」


「…あ、やっちまった」


悪い癖は身体が勝手に動く為、一連の動作を終えてやっとそう呟けた。

泥を掠められてはいるので、此の時点で白夜はもう脱落である。


「すまねぇ…其のつもりは無いんすけど…」


「分かってる…分かってる…」


其の声は白夜にというより、自分に言い聞かせているようだった。考えている事は「(何で俺ばっかこんな目に…)」とか、そんな事である。

背中の打ち具合から、直ぐに起き上がれそうにないようだった。


「…あ」


白夜は小さく声を出し、そっと指を差した。彼も今気が付いたのだ。


「其処、守さんいるっすよ」


「…は」


ぷに 


 印南の頬に肉球の感触。…ではなく、普通に手の感触。

白菊との交戦で、人の姿に戻った守。守は歌を使うと着の身が全て収納される為(だから服の儘に変化できる)、腕に巻いた泥除けの布を其の儘にするには歌を使えないのだ(巻くには人の手が必要)。

 背は小さい方だが、狐の姿に比べれば大きい。印南は其れに気付けない程、周りに気が回せていなかったようだ。


「う…嘘だろぉぉ……」


印南は力なく、声を響かせた。


其の後、印南は白夜の脱落後の一撃が原因なんだから無効じゃないのか!?と、往生際悪く抗議するのだが、直ぐに起き上がれば問題なかった。悠長に寝ていた奴が悪いと、空から審判をしていた蒼にばっさり切られるのだった。



                  ※        ※



「今、野次馬していた侍から情報が入ったよ。残ったのは言撫さんと守さん。一騎打ちだ」


「最後は一対一か…落ち着くところに落ち着いた感じだね」


「……あ、まずい。脱落した侍達が揃って屋根に登って観戦し始めた。下手すると屋根が落ちるね」


「終盤に際掛かると野次馬が増えるのは、何処に行っても同じかぁ…。夜明、あそこの一団に注意しがてら、僕も見届けてくるよ」


「ん。いってらっしゃい」


 長椅子から立った友に緩く手を振る夜明の横では、さえと二三がまた、三色団子を頬張っていた。



                  ※        ※



 守が殴る。蹴る。飛び上がって二度蹴る。


 幸の刀は少し不思議な構造をしており、刀身を真ん中にして、両端が柄となっている。其れを使い、踊るように戦うのだ。木刀も彼女の戦い方にのっとり、特別に作られている。

何処かで焼けたらしく、泥と泥の間から黒ずんだ色の見える木刀の両端を手にし、守の連撃を受けとめ、左手を放して、右手だけで持った木刀で守を突く。体は向こうを向いているものの、目は幸を見ていた守に避けられる。


 幸は着地点を狙い、空を突いた木刀を外回りに一回転させ、左から薙ぐ。守は先に手をつくと体を手で飛ばし、幸から離れる方向へ。其れでも足りないと足で飛んで後ろに下がると、其の足で前を蹴った。

布を巻いた足と木刀が交わる。


「幸ちゃん、性急過ぎるよ~。ゆた~り、ゆったり戦おうよー」


「其の姿で戦うあんたなんて、久しぶりに見るわね」


 守は足を変えず、三度蹴る。幸も左斜め、右斜め、上から木刀を振り下ろしているので、互いに攻撃をする事で、結局両方当たらない結果を産んでいるのだと分かる。


「狐になっても布を巻いてくれる人はいないからね!狐なら優しく出来たかもだけど、今は幸ちゃんに痛くしないとか出来ないか、も!」


 守の入れ替えた足の蹴飛ばしで、幸が下がる。左足を先についた幸は内方向に回しながら右足で守に接近、横から迫る木刀の下を潜り抜け、右拳を振りぬく。


「優しさとか、いらないのよっ!」


木刀の持っていない方の端を手にし、下方向から掬い上げて、上から守の拳とぶつけた。


「…へへ」


「ふんっ…」


パスッ パスッ


 木刀と拳、もしくは足がぶつかる、刀同士に比べると薄い音は、回数を重ねる毎に早くなっていく。其れはつまりぶつかり合う速度が次第に上がっているというわけで、ついて行けなくなった方が即ち負けである。其れを両者とも望んでいた。


どちらも、強気に笑いながら手を休めなかった。







 何度目かの木刀と拳がぶつかった時だった。


芯を捉えていなかったのは、木刀の方だろう。

同じ様にぶつかった木刀、拳であったのだが、音にしてみれば、ずり…となるように守の拳が外側にずれた。木刀の泥も其の手助けをしていた。

ずれきった拳は木刀を離れて、力のいく方向…幸の顔に迫った。


幸は首を傾けた。

守の拳が、幸の顔横を通る。頬が茶色くなった。












「やった――――!」


 守がぴょんぴょんと跳ねる。嬉しさを体で表現しているようだった。

其れを見ながら幸は木刀を下ろした。やっと終わった、という気持ちが強いが、負けた事は心に強く刺さった。

茶色くなった頬に指で触れる。其の動作で拭える程度の量で、此れだけで負けたのかと、舌を打ちながら着物で拭う。


 まだ喜んでいる守をおいて先に茶屋に向かおうとした幸だったが、守を見て「ん?」と目を凝らした。


「ねぇ守…ちょっと腕を見なさい」


「え?」と声を出し、喜びに上げていた手を下げると、手の布が緩んでいるのが守からも確認された。そして其の間から見える、肌色の上の茶色…


「…あ」


                  ※        ※



 結局、守の手に何時泥が付いたのかは、誰にも分からなかった。

守は白菊と戦っている時に人になっており、狐の手から人の手の大きさに変化し、腕に巻いた布が、緩んだようで、其の緩んだ布についていた泥が肌に触れた。即ち、自滅となり、多くの予想では幸に勝つ前とされたものの、後である可能性も否定しきれない。

空から見ていた二人も、流石に其処迄見ていなかった。


よって、結論はこうなった。


「引き分けなんて…煮え切らない結果になったものね」


 大会の二日後の食堂で、肘をついて頬を乗せる幸が口にする。彼女の周りには大会に関わっていた何人かが集まって座っていた。


「手は対象外にした方が良かったのかな?」


机の斜め左に座っている友は、隣で机に体を預ける夜明に訊くが、


「剣道の決め手に小手があるように、侍にとって手は命。外す事は出来ないよ」


改めて顎を机に付けた夜明に器用に其の状態で首を振られ、否定された。

ぐでーっと反対に座る人に迄届きそうに力なく伸ばしてだらけた様子の夜明がぽつりという。


「やっぱり、サバゲーをお侍さん形式でやるのは難しかったって事かぁ…?」


其の言葉に反応して、「そうかな?」と言ったのは、よく誕生日席といわれる席に座っている、守。全員の注目を向けられながら、


「勝ちは分からないけれど…楽しかった!!またやりたいなぁ…」


幸せそうに笑顔を浮かべる守。

最初に「やりたい!」と声を上げた彼が満足なら其れで良いか、と其の机を囲むみんな、守につられて笑うのだった。

最後の方が、言葉がまとまらなかった感じがあります。

まぁでも、いろんな人の戦う姿を描けたのは満足かな?


後で、ちょっと変えるかもしれません。


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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