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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
48/65

ー肆拾弐ー「鬼の感情」

十一月からレポート、発表、其の他諸々、色々あったと思ったら気付けば十二月中旬を過ぎ…


未完結のまま約2ヶ月以上の間、更新されていません。


此の言葉は精神的に来ますね…。物凄くつらい…。

反省します。


今回は友と第三者視点が何度も入れ替わります。御陰で、場面によっては名前呼びだったり、苗字呼びだったり。

特にややこしい人のフルネームを出しておくと、三井寺春人、春苑紅、帆風篤紀です。

こんなややこしい風にしたのは誰でしょうか。

私です。

 其れは、何を喰った時だったか。




 其の鬼は気が付けば、考える、という事が出来るようになっていた。


夜に行動する。

茂みに隠れる。

獲物を喰らう。


今迄は獣の如く、そういうものであると勝手にやっていた事にも、考える、は付随した。


 鬼は、「何か」が自分の中で変わったのだと分かった。



 其れから、様々な事を、考えて、身に付けた。学んだともいう。


如何なるものも鬼は其の口で喰らう。しかし、鬼を最も満たすのは「ニンゲン」だと。

「ニンゲン」は鬼を指差し、叫んだ。「オニ」であると。

其の表情は、後に「キョウフ」というものだと知る。


「誰かぁ!誰かぁいねぇのか!!?助けてくれぇっっ!俺はまだ死にたくねぇよぉっ…鬼に喰われるなんて真っ平だぁっ!!」


目の前で地面を這いずり、手を伸ばす男を暫く鬼は見ていた。

誰もいないのに、其の行動に意味はあるのか。

獲物の「ニンゲン」から、得られるものを探して眺めた。


首を噛み切り、内臓を抉りだしてしまえば、大声を上げていた「ニンゲン」は静かになった。其れがもう大声を上げない事は「考える」を知らない頃から知っていた。


肉片を漁りながら、鬼はふと理解した。


〈「オレ」ガ「オニ」カ…〉


「ニンゲン」は「オレ」を使い、死にたくないと言った。「死にたくない」は「ニンゲン」其のものだ。

鬼は「ニンゲン」と違う自分の体を眺めた。其のものを「オレ」と指すなら、「オレ」は「オレ」というのだと。


 以降、鬼は自分の事を「オレ」と称した。



 鬼は、獲物の「ニンゲン」のみならず、「ニンゲン」の生活も森に隠れて眺めた。

人を見て、良く学んだ。

されど、言葉として分かっても、何とも理解しがたい事があった。


喜び。

怒り。

哀しい。

楽しい。


所謂…感情だ。


そして、「キョウフ」もまた、其の一つだった。

「オレ」と出会った「ニンゲン」が浮かべるものだと鬼は分かっていた。目の前に見えるものを拒んでいるのだという事も、何となく。

鬼も、本能からの行動で人の多い所、昼間に単身で姿を現せば、喰らうどころではなくなるから、姿を見せないようにしている。其れと似ていると鬼は考えたが、少し違うと思った。


考えても、考えても、しっくりこなかった。


感情は、よく分からなかった。


 きっと此れが、鬼の、他の鬼とは少し変わってしまった「オレ」の限界なのだという事が分かった。

万が一、感情を「オレ」が得られたとしても、「オレ」は理解しない。其れこそが鬼なのだと。



分かってしまった。



                    ※      ※


 囲う木々の中から、誰かが飛び出した。


「『春の苑 紅にほふ 桃の花

            下照る道に 出で立つをとめ』」


 そして彼は、突如燃え上がった炎を手に、慧鬼に振り下ろした。

凄まじい熱気に、友も腕で顔を庇う。


「《火樹》…。春苑さんも此処に…!」


 木刀から轟轟と燃え上がる炎の中、黒煙を纏いながらどうにか抜け出してきたらしい慧鬼。

だが安息は無かった。地面に足を付いた慧鬼の右腕、そして左手の人差し指、小指が消えた。


 其れ等は慧鬼の後方へと切り飛ばされていた。其れをやったのは、大振りの刀。


「春人さんも来ていたのか!凄い…あんな重そうな刀で瞬くような見えない剣筋、其れを二撃だと…!」


 慧鬼はせめての報復をしようと春人に襲い掛かった。春人は避ける。慧鬼のではない。

春人が避けた背後から、またも炎は襲ってきた。

避けなければ、春人も巻き添えだった。其れすらも狙っているように。


 慧鬼を襲った炎はうねり、大蛇のように慧鬼を締め付けようとする。身を捻った慧鬼は、包まれきる其の前に炎を脱出し、纏わりついてくる炎を消し飛ばした。


しかし猛攻は此れでは終わらない。慧鬼は不自然に影が身を落としているのに気づくと弾かれるように前方に跳んだ。慧鬼のいた場所を通り抜ける大刀。避けたと思ったが、足の先を切られていた。跳んだ先でも、もう一度斬りつけられていたのだと慧鬼は気付いた。

慧鬼は不格好になった足で着地し、よろめいた。


其の一撃一撃で死にそうな程重い攻撃を、よくぞ此処迄慧鬼は避けている、というものだ。

とはいえ、至る所を切り裂かれ、ぼろぼろの慧鬼。もう終わりは見えていた。


そして、紅が炎の刃で慧鬼を切り裂く、のだと思えば、其の前で紅は地面に木刀を突き刺した。此の意図を慧鬼は読み切れなかった。

故に、一歩出遅れる。

突き刺した木刀から地面を伝う炎の壁が二股に分かれ、慧鬼を囲いながら其の背後で合流した。慧鬼に炎は触れていない。しかし逃れる場所も無い。


〈クッ…〉


 其の炎の内側へと、熱気を浴びながら刀を構えて突っ込んできたのが春人。もう、幾ばくも無く届く刃を目にしながら、慧鬼は決断をし、三本の指が残る左手を突くように指を固め、


〈ウ…オォォォォォッ〉


春人に向かって飛び掛かった、矢のように鋭くした手で、奴の心臓を抉るのだと伸ばして。

慧鬼と春人が交わる。


飛んだのは、慧鬼の首だった。



 コロコロと転がった其の首は、友や夜明、四人がいる場所へと転がった。


〈オワッタ、ノカ〉


首だけになった慧鬼はまだ消える予兆が見られなかった。其れは、慧鬼がまだ自分が死んでいると認識していないという事。

首だけでも動ける。其れだけでも危険だ。

早く頭を縦に切り捨てろ。そういう声が四人の下に届いた。


だが、友、白夜、白菊、誰も獲物を強く握らなかった。

どころか、夜明が踏み出て、慧鬼の頭の前に近付いた。


〈ニゲナカッタカラカコマレタカ?

チガウナ。オマエタチハマダ、オレノアツメタオニヲスベテタイジシキッテイナカッタハズダ。タタカイハ、イタルトコロデオキテイタ。

オレガタタカウバショヲシリ、コノハナサレタバショニオオクアツマルニハ、オマエタチガオレト、ソレモ、タタカイハジエテスグニデモキヅイテモラエナケレバ…〉


 夜明は手に持っていたものを慧鬼に見せた。

一見すれば竹の筒。よく見れば端が焼き焦げていた。


「此れは発煙筒さ。此れで煙を上げて、慧鬼の居場所を知らせる。其の為の物だった」


〈…ナルホド。ナニカワルイモノダトオモッテイタガ、ソウイウモノダッタカ。

ダガ、オレハソレヲ、ケムリガアガルマエニハジキトバシタハズダ〉


「実は立ち昇っていたのさ。たった一筋。気の所為と切り捨てられる程、微かな煙が」


其れを聞いた慧鬼が言葉を失った。


〈ミエタカモワカラナイモノヲシンジタトイウノカ?マッタトイウノカ?キタトイウノカ?…ヤハリ、ニンゲントハオロカナモノダ〉


「でも、其れで負けたとは、僕が思っていない」


 夜明は発煙筒を落とし、否定した。

地面に落ちた発煙筒は慧鬼の横を通り、背後の草花に止められた。


「君は、喋り過ぎた」


〈シャベリ…?〉


「自分を話すにも、其の時間も、君は口が立ち過ぎた。僕も白夜も、其処に漬け込んだつもりさ。

自分で自分の首を絞めていた慧鬼、君に問いたい。

僕達と話をして………楽しかったかな?」


〈タノシカッタ…………?〉



                   ※      ※



 鬼は、「ニンゲン」の営みに、話す、を知った。

鳴き声ではない。複数の音を利用した、「ニンゲン」が感情を伝える手段。

試しに「ニンゲン」の使う言葉を真似て口にすれば、其れはすんなりと、少し歪ながら、ニンゲンと同じ言葉を口にする鬼がいた。


鬼は考える、と同時に話す事も出来るようになっていたのだ。


 何を考えたのか、鬼はニンゲンの言葉を学び続けた。

考えた事を話す、程に鬼は自由に言葉を扱えるようになった。


 鬼は出来るようになった「話す」を、考えるようになってから集めるようになった同胞に実践した。


何も伝わらなかった。


考える、を知らない鬼にとっては、其の鬼以外の鬼にとっては、人の言葉の意味のある羅列なんてものは、有って無いに等しかった。

話し掛けられた鬼は、自分が話し掛けられた事も自覚せずに、意味も無く鳴いた。


鬼に感情は分からない。

だから、其の時鬼が思いを抱いたとしても、鬼自身が気付く事はなかった。


 其れでも鬼は、言葉の伝わる相手を、話の出来る相手を探す事を止めなかった。



そして鬼は、人に話し掛けた。



                   ※       ※


友 サイド


〈…アルトキ、アルムラノハジデ、ワラベハヒトリデアソンデイタ。オレニシテモ、オレラシクナイ、カルイコトバダッタ。シカシ、ワラベヲコロソウナドト、クッテヤロウナドトハオモッテイナカッタ。

ダガ、カイワヲスルマエニワラベハナイタ。タイソウニナイタ。ソノナキゴエデ、ホカノニンゲンモアツマッタカラ、オレハニゲタ。


オニナラ、ハナシニモナラナイ。

ヒトハ、オニトハナシヲシナイ。


ナラ、コトバヲハナセルオニトハ、イッタイダレトハナセバイイノカ?

ココロノワカラナイオニニ、オモウコトハナイ。タダ、ソレダケヲカンガエタ。


…ダカラ、ソウカ。チガウノダ。

オレハマケテイナイ〉


 負けていない。

其れは今の慧鬼の姿には当然似合う筈の無い言葉だった。

まだ何か策を持っているのかというと、そうではなかった。


〈シャベリスギテマケタ?チガウ。オレハハナシガデキタンダ。カイワヲシタンダ。

コンナジョウキョウナラ、ダレデモオレノガナシヲキクカ?キクワケガナイダロウ。

オニノコトバナドト、キクミミモモタズニキリステルノガツネダ。

オマエタチグライダ。オレノコトバヲマトモニキイテ、タタカオウトスルノハ。

オレハ、オニノナカデカワッテシマッタモノダ。キットオマエラモ、ニンゲンノナカデソウトウカワッテイルノダロウナ。


タトエオマエタチガ、カンガエガアッテオレトハナシヲシテイタトシテモ、オレノコトバニ、カエッテクルコトバガアッタコトニマチガエハナカッタ。


オレガオシャベリヲシテタノシカッタカ、ダト?

ソウダ!オレハタノシカッタンダ!コレコソガタノシイダッタンダ!!


オニノオレガ、タノシイ、ヲシッタゾ。

オレハ、オニノアルベキスガタニカッタンダッ!!〉


今の彼を見て、楽しそうでないという人はいるのだろうか?

感情を掴み取ったという慧鬼は、其の感情を全面に出してキシキシと天に向かって声を上げた。



鬼は一通り笑うと、ぼそりと言った。


〈……マンゾクダ〉


 慧鬼の其の言葉がトリガーだった。断ち切られ、転がっていた体から光が綻び、粒となって崩れていく。そして、慧鬼の頭も同じく消え始めていた。

少しずつ訪れていく死であったけれど、理解しているだろう頭の良い慧鬼は其れを怖いと思っていなかった。其れは、鬼だから本能以外での「恐怖」を知らないのか、…其れとも。


 慧鬼は、消えていく最中、楽し気に口を大きく開いた。


〈オレハジョゲンナドシナイゾ?テキドウシダカラナ。

ダガ、ヒトツダケイッテオコウ。


コノゴロノハナシダ。

カラダノオオキナオニヤ、オレノヨウニアタマノイイオニヲアツメテイルオトコガイルヨウダ。

オレハキョウミガナカッタガナ。

ダガオマエラニトッテ、ヤツハヨクナイノダトオレハオモッテイル


…オレヲタオシタンダ。カンタンニ、シヌンジャネェゾ………〉


其の言葉を最後に、慧鬼の頭は光の塊となり、解けて、空に舞い上がっていった。


 丁度其の時だ。守さんと五月雨さんが来たのは。


「たーぶん、しゅーりょー」


〈見た感じ、大方の鬼は退治し終えたよ!

あとは慧鬼だけだね!!…あれ?終わってる??〉


二人は暢気だった。

気を抜いてもいいとも捉えられる言葉に、此の一連の長い長い出来事に終止符が打たれたのだった。



                   ※       ※


ノーサイド


「あの慧鬼も、何とも不穏な言葉を遺して逝ってくれたもんだねぇ…。

まっ此れで一旦はめでたしめでたしと「夜明っっ!」」


ゴウッ


 振り返った夜明が最初に目にしたのは、焼けるような熱さだった。

毛先ほんのちょっと焦げたんじゃないかな?と夜明が思うくらいには直ぐ傍を炎は立ち昇っていた。

夜明に其れが掠める程度で済んだのは、春人が前に立ち、炎の元を打ち上げたから。そうでなければ、夜明は炎に包まれていた。


忽ちに炎を起こし、人の高さ以上迄大きくするのは、其れこそ先に油でも用意していなくては人知のものではない。

そんな油は此処にはない。


出来るのは唯一人。


「僕の仕出かした事に、何か言いたい事があるみたいですね…春苑さん。

出来れば、其の木刀は仕舞って頂ければ。ほら、僕って無防備なんですよ?炎の出せる木刀なんて向けられたら怖くて足が震えちゃうじゃないですか」


 慧鬼と対峙した時に詠ってから、紅はまだ歌を解いていない。故に、未だに紅は手に持つ木刀から自在に炎を立ち上がらせる事が出来た。

 春人が前にいるからか、元々の性格故か。夜明は其の紅に対して、全く思っていない言葉でおどけてみせたが、紅が口にしたのは歌を解く簡単な一言ではなく、


「何故…直ぐに切り消さなかった?」


両手で構えた木刀、其の刀身の美しい木目を小さく零れた炎がなぞった。其れこそ今の紅の感情其のもの。


「見れば分かるでしょう?慧鬼は既に死を受け入れていた。あれ以上は何もしない事を僕達は、貴方だって分かっていたでしょうに」


「鬼は首のみでも戦える。鬼は鬼だ。死ぬ迄の時間を与える意味も無い」

「其れでもだ」


夜明は直ぐ言い返した。


「其れでも僕は!僕は…心を口に出来るというのに、何も語らずに逝くというのは、寂しい……と思う」


 自分の考えを夜明はぶつけた。紅に気にいられない事の分かっている自論に、此れは燃やされても仕方がない、せめて痛くなければいいなと思い、逆に夜明は口元を不細工ににやけさせた。





「ちっ…」


 紅は大きく舌打ちをした。舌打ちをしてから、木刀を下ろし、夜明と春人、それと友を含む三人からも背を向けた。


「此れだから外の者は信用出来んのだ。都の傷を、惨劇を、何一つ分かっていない。

貴様らのような者と都を護らねばならぬ事、酷く虫唾が走る。


貴様もだ、三井寺。…中京の回し者が」


最後に強調するように、強く殺気立って付け加えられた。

名前を呼ばれた春人は、去る背中を黙ってみていた。


中京という言葉に友は引っ掛かりを覚える。

何処かで聞いた様なと思い、夏に聞いた、此の国〈和国〉の首都で、文官の皆がとても嫌っていた事を思い出す。


 紅がいなくなってからも、暫く剣呑な空気が残った。


「はぁ…まぁ何となくシリアスな感じになった事は置いといて。


…いやーはったりがばれなくてほっとしたよ」


しかし、なんだかんだ言ってもそういう空気が苦手な夜明により払拭され、ちらりと見ながらも白夜は春人に話をしに行った。白菊も白夜に言いたい事があるようで後を駆け寄っていった。

そうやって聞く人も少なくなったところで、声量を下げて言った言葉を聞いたのは友だけだ。


「…はったり?」


「うん、そ。はったり。こんな事声を大きくして言ったら不安が広がって、其れこそあの状態の慧鬼だろうと付け入ってきたかもだから言わなかったけど、思ったよりばれるのが早かったんだよね。

やっぱりやられっ放しで焦って、其の場凌ぎで作戦考えるのは良くないね。御陰で友の腕を犠牲にしたわけだし……。三井寺さんの言う通り、僕は戦うのが苦手なんだろうねぇ…」


堂々と慧鬼に喧嘩を売っていながら、何を言っているんだ。

思ったものの、友は別の事を声に出した。


「つまり、夜明の予想ではまだ侍は此処に揃っていなくて、慧鬼は全然逃げれたと」


「だから拙いなぁと思ったんだけど、結果オーライ、囲んでいたもんだから。動揺も表に出さないもんだね。良い感じに事が進んだよ。

で、予想と違う結果を産んだ理由。其れは見たら納得したよ。


ほら、あそこ」


 そういう夜明に誘導される前に、友は耳にした鳴き声に顔を向けた。


〈モ――――――…〉


「あれは…帆風さんのとこの」


篤紀は巨大な牛車を、自らの歌によって強化した牛で動かし、侍達を此処迄運んできた。何時終わるとも言えない今回では、待機するしかない彼を此処に留める事も出来ず、都に先に帰還し、侍は歩き帰りの筈だったが。


「あ!其処にいるのは菊ちゃんっ!!

なんか物凄くぶっとい光の棒みてぇのが落ちてきて、心配だったから見に来ちゃった!無事だったっ!?

あ、野郎は如何でも良い」


彼の明るい大声は此の森では良く響いた。自分は心配されていないんだろうな、思わずにはいられない言葉でも、夜明の言いたい事を友は察した。


「やれやれ…。気に入らない所なんだけど、今回の事はどうも…此の歌に助けられたみたいなんだよね。ほんと、面白くない」


ノーサイド エンド



                   ※       ※


友サイド


 帆風さんがいてくれた事により、帰りも悠々自適に牛車で過ごす事が出来た。牛車とは名ばかりの、大人数運び用の床板のみの巨大な荷車だったとはいえ。

 そんな牛車に乗り、行きと同じ時間を掛け、大分暗くなり道中は普通の鬼に襲われながらもぽつぽつ明かりの付いた都の中と門が見えて帰ってきた事に牛車の上が沸き立ってきた頃、僕は暗闇に真反対の色をしたものを見掛け、牛車を飛び降りた。


 飛び降りた僕に見知った面子が後ろから驚き混じりに声を掛けているのは気付いていた。

夜も近付いてきて、都の周りも命知らずな鬼が闊歩しだし、一人都の外で走る僕に目を付けだしていたのも知っていた。


でも、今を逃したら後悔をするのだという予感が、僕の足を動かした。



                   ※         ※



「はぁ…はぁ…」


 やっと辿り着いて、息を切らす。

見えたよりも距離があり、田んぼに足を突っ込む事も気にせず真っ直ぐ走ってきたのは、鍛えるようになっても疲れた体には負担だった。


「自意識過剰じゃなければ…僕を待っていたって事で捉えて良いんだよね?…シロ」


「にゃー」


そういう考えが自意識過剰だよね、というニュアンスで鳴いた。猫の言葉は分かんないから、自分で言って自分で凹んでいるんだけど、こう…さえちゃんには甘いのに僕には冷たい目しか向けなかった僕を待っていたという事実が僕の心を温かくした。


「……にゃー」


 でも、そうほんわかとした感覚に浸る事はシロは許してくれなかった。シロは真摯に僕を見ながら鳴いた。ニュアンスはこうだ。


さえの事…傷つけたら許さないから。


其れがシロの、僕に伝えたい事だった。


「シロは、何処か遠くに行くのか?」


「…」


「…さえちゃんには会って行かないの?」


 シロは視線を逸らした。会いたい、でも会う事は出来ない、其の後ろめたい事を示す姿だった。


「……最後なんだしさ。僕にも一回くらい頭を撫でさせてよ」


シロは眼を逸らし、鳴き声一つ挙げなかったが、僕の手の届くぎりぎり迄近付いて頭を少し下げた。触れても拒否しなかった。

初めて許された事に、ちょっと笑ってしまう。


触れられた手で、考えが正しければと探り、そして見つけた。






 

「そっか。君は…………慧鬼だったんだ」


僕は耳の隣にあった尖りを優しく指で撫でた。







程無くして、シロは闇に消えた。白い体でも暗闇に紛れるんだなと眺めていた。


 シロは鬼だった。

鬼はどんな形であれ、結局は歪な存在。其れは戦った慧鬼もまだ整った方とはいえ、抜け出せなかった。そんな中で、綺麗に猫の形をしたシロは明らかに喋る慧鬼とは別のベクトルに異質な存在。だから、三井寺、さんや二三さん、永らく鬼を狩っていた都の人達も騙された。


 シロはさえちゃんの腕の中を気に入り、良く其処から首を伸ばし、さえちゃんの頬に身を寄せる事を好んでいた。

其の状態なら、何時だってさえちゃんの首に噛み付けた筈だ。二ヶ月以上の間、シロは其れをしなかった。

慧鬼や大鬼は、唯の鬼に比べると飢餓が消えて、其の分を知力や破壊に費やすのだという。だから食べなかったのか?其れなら傍に寄らなければ良いじゃないか、人の傍に殆ど毎日、ずっと。


なら、答えは一つしかないんだ。

シロは、さえちゃんの傍に居たかっただけなんだ。シロはさえちゃんを大切だと思っていた。じゃなければ、威嚇しかしなかった僕を待って、さえちゃんを一人前に頼むなんてしない。


其れを託したのも、知能を得てなお感情を持てないという、人を含め此の世の全てを口にする事の出来る全ての嫌われ者、鬼。


「鬼って…何なんだろう……」


都の中に帰り、布団に入ってからも消えぬ疑問だった。

其の疑問を、本当の意味で考えなくちゃいけなくなる其の時は、もう直ぐ傍に迫っていた。



                    ※      ※


 次の日の朝だ。


「…ねぇ……」


自主練用の木の棒と向かい合っていた僕に廊下にいたさえちゃんが声を掛けた。さえちゃんから人に声を掛けるなんて珍しいと思いながら、振り返ると彼女は何かを探している様子だった。


「…シロ……見てない…?…姿が……見えない…の……」


其の日から、さえちゃんの傍にシロはいなくなった。

やっと慧鬼の回が終わりました。この回は「慧鬼と戦う」以外の事は一切考えていなかったので、行き当たりばったりの突貫工事で、絶対至る所に矛盾点やらおかしいところがあるんだろうなぁとは思いますけど、もう気にしませんよ、えぇ。

とはいえ、地味に紅・春人VS慧鬼は若干悩みました。強い設定で考えている二人に、群れを指揮する点では強いだけの慧鬼をぶつけても完封されるだけなのではと思いながら作ってましたが、あっさり仕上がったので良いでしょう。


次からはまた都での日常回を挟んでまた新しい事を盛り込む事になるだろうなぁと思っています。


なんだかんだいって、この小説を見て下さっているらしい方々へ

今回、二ヶ月更新しないをやらかしてしまいましたが、次こそ頑張ります。

見捨てないでください。


【初出の歌】

春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つをとめ


          『万葉集』 四千百三十九首 大伴家持


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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