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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
44/65

ー参拾捌ー「鬼の群れ 其の壱」

学校が始まりました。

レポートが始まりました。

そして、今回は説明やら戦闘?やらが重なって四百字詰め三十枚分いきました。

長月の八日。 


 また、帆風さんの牛車に乗り、やって来たのは前に鬼退治をしていた場所と変わらぬ、人気の無い森林。しかし、前よりも都から離れ、またどの村からも離れ、人も来ないから人的被害も全くない、つまりは都も他の大きい街の侍も全くもって目を向けなかった地域のようだ。


「ふぃ~…え~っと、春ちゃんや。まだいけねぇこたぁねぇけど、此処迄でいいのか?」


「あぁ。此処からは歩いていく」


 三井寺、さんの号令を以て、侍達は牛車を降り、春苑さんと三井寺、さんを先頭に森の中に入っていき、僕達も其れに続いていく。

後ろからは帆風さんの「気を付けていけよ~!」という声が聞こえた。


「さて、今から退治しに行く鬼、慧鬼(けいき)についてお浚いしようか」


 ざっざと、草を分けて歩く中、僕達の真ん中辺りにいた夜明が言った。

前を行く白夜が振り向く。


「今やる事か?」


「寧ろ、今じゃないと出来なくない?」


 慧鬼。

数日前に僕が蒼さんと共に倒した大鬼と別に鬼から派生した鬼。夏の間に初雁さんはこいつの存在を確かめに都を離れていた。


「慧鬼は満たされた鬼の姿の変わったものの一種で、主に概念のばらつきの少ない、偏食的な鬼が成り易くて。

…えっと、友が戦ったっていう大鬼とはかなり違うのよね?友」


 夜明の後ろ、僕の隣にいる白菊さんが僕の方を見る。


「あ…あぁうん、そうらしいね。大鬼は鬼より何倍も大きくて、僕を覆い隠す程だった。歪で、力も異常な程に強かったよ。其れに比べると慧鬼は鬼と同じ位小柄で、力もそんなに変わらないって話だったよね」


「厳密性を極めれば、見ちゃいないけど単なる鬼に比べても歪さは減っているという初雁さん情報だよ。

そして慧鬼の一番の特徴というのが、知能の発達。考える力を手に入れた事で本能から来る単純な動きが制御される所為で、厄介度合いが増してくる。

そしてそして、厄介も厄介なのが慧鬼が一匹?でもいると、其れを中心に群れが形成されてしまう点だ。

量も質も最後はバランスだよ。ベテランの侍だって、一人じゃ対処に骨が折れるだろうさ。

ってなわけで、此方も軍となって向かい討とうって事になる」


僕の言葉を夜明が引き継ぐ。

更に確認したい事とやらは全て口にしてくれる。

白夜が軽く息を吐いた。


「んでもって、でけぇ群れが出来ちまったから、俺達もってのが今の現状なんだよな」


「其のとぉーり!」


 夜明は一人拍手をするが、夜明は特に受け取らない。

まぁ、此れ等は全て大鬼の事を初雁さんに聞いた時の、慧鬼の情報だ。

 大鬼に続いて慧鬼も。こうなったのには、二日前へと遡る事になる。



                    ※       ※



二日前の事。


 僕達の寝泊まりする殿の一角に豊国さんが訪ねてきた。


「皆様、御集りでしょうか?」


 部屋にいた面々は、二回くらい瞬きをしていた。

 其の時、僕は二三さんから怪我を理由に手合わせを断られていて、身体を休めるついでに外に面したところで針と針刀の手入れをしており、夜明は何かの書き物、さえちゃんが白猫を転がして腹を撫でで戯れていて、朝夜くらいしか基本人のいない部屋には珍しく三人揃っていた。


 そんな部屋に豊国さんが訪ねてくるとは。

豊国さんは基本的に藤姫様の傍に付く人で、何らか色々な理由で城から滅多に出る事の無い。たまに、極たまに殿の廊下を歩く姿は見るが、単なる此の宿泊部屋に姿を現すとは考えすら浮かばなかった。


 人間違えかと、めっちゃ確認した。


「豊国さん。こんにちは。珍しいですね。こんな部屋にやってくるなんて。

用事であれば呼びつけて貰ってもいいんですよ?」


 筆を置いた夜明が先ずは切り出した。


「其処迄の手間は掛けさせませんよ。少しの程度、話が御座いまして。

して、鵲殿と折霜殿は何方に?出来る限り皆様全員様で御話させて頂きたいのですが」


「あ、じゃあ僕が呼んできます」


 此の部屋にいない二人も殿の敷地内にいる事は既に分かっていた。部屋を見渡す豊国さんに声を掛けて履物を履き直し、僕は二人を呼びに行った。









「御集り、感謝します。先ずは高砂殿、先日の大鬼の討伐、お疲れ様でした。怪我の方は良い方向に向かっておりますでしょうか?」


「あ…どうも。怪我なんて、元より大したものじゃあありませんよ。大鬼の攻撃で直撃したものはないし、有るのは吹っ飛んできた木片の掠りとか、ぶつかった時の打撲とか。骨の罅もそんなに大きくなかったのは幸いでした。

さえちゃんの治癒と薬師寺さんの薬でもう此の通り」


 問題ないのだと、腕を思い切り振ってみるけど、白菊さんも白夜も思わしくない表情だ。


「充分大してるんだけど…」


「何時かの白夜の傷に比べれば…」


「あー…あったな、そんなの」


 白夜はすっかり昔のように思い更ける。治って半月もしてないのに。

自分の事を棚に上げる白夜に攻めるような視線を寄越した所で、豊国さんが口を開いた。


「えぇ。其の、鵲殿の大怪我を負った件に関わる事で、本日自分は此方に来させて頂きました」


「あ?」


 白夜は自分の名前が出ると思ってなくて、僕から彼に視線が移った。


「あの後、皆様が藤姫様の下にいらした時、自分は高砂殿の記憶を自分の歌により文字通り複写(・・)させて頂きました。此のようにして得た記憶を、自分は忘れる事はありません。

以降、得た記憶を反復し、あの場で起きた事を吟味しました。相手を慧鬼であると仮定して」


「はい、質問」


「何でしょうか?折霜殿」


 律儀にも手を挙げて口を挟む白菊さん。


「なんで慧鬼であると仮定できるんですか?」


「そうですね…。其れには一つ、鵲殿を襲った鬼達が皆同じ姿である事にあります」


「あ…確かに、あの時見た鬼は全部同じ姿をしていた…」


 あの時見たのは、人の形をした鬼にだけだった。鬼といえば人の形をしているものだと、先入のイメージ的には思っていたから引っかからなかったけど、魚や鳥の姿の鬼を見てると異様なものである。


「慧鬼には、集めている、作っているのか。同じ様な姿の鬼で周りを固める習性があります。

あの時、都にやってきた鬼は大量、姿は多種に亘ったというのに、皆様が見た鬼の集団は一様の姿をしておりました。

つまり、皆様を襲ったのは意図ありきで揃えられた、其れこそ慧鬼の群れであると仮定出来るのです」


 じゃあ僕達はもう慧鬼と出会ってる…!?という予想は次の言葉で覆った。


「ですが、其の仮定は少し外れておりました」


「…少し……?」


さえちゃんが小さく首を傾げてぼそり呟く。


「記憶を見る中で、おかしい、と思いましたのは鬼の中心となった鬼、慧鬼である筈の鬼です。皆様が先ず初めに目にしたものが其れにあたります。…されど、其の鬼は率いている鬼との差異が無さ過ぎました。

他の鬼を動かす慧鬼らしい面を持っていながら、其の姿を時節見失う程に同じ姿でした」


 此の言葉に夜明が眉を潜めた。そして覆った事を其の儘、


「慧鬼は、普通の鬼とあまり姿が変わらないと聞きましたが?」


口に出す。


「見れば分かります。皆様も見れば分かるでしょう。其の程度の違いはあります。

しかしながら、あの鬼にはそう言えるものがありませんでした。おそらく、あの鬼は〈成り掛け〉の鬼…だったのでしょう」


「成り掛け…だと?」


 また新しい言葉が出てきた。


「鬼から大鬼、慧鬼に変化するのには、階段を一段昇るのと同じように瞬く間ですが、成る…満たされる一歩手前では鬼は予兆として大鬼や慧鬼の特徴が表になる、という話があります。

出会う事こそ非常に稀ですので、詳しい事は分かっていないのですがね」


情報が少ないんですよ、と豊国さんはやれやれという風に説明をする。


「話を戻しますが、皆様を襲ったのが其の成り掛けであるとすると、今度は何故、多くの鬼を率いて動かす事が出来たのかという点に疑問が移るわけです」


「…慧鬼として鬼を集めて唆すにも時間が必要。成り掛けの鬼の時間では足りないわけですね」


「其の通りです」


話が早くて、助かりますと微笑む。


「此の事を話し合った末、一つの結論へと至りました。此の成り掛けの鬼を唆している別の存在がいる、と」


「慧鬼の成り掛けを操れるのは上位互換の慧鬼だけ。此れが慧鬼がいる事に繋がるんですね」


 ちょっと混乱したらしい白菊さんも、自分なりの解釈で話を理解していく。


「推測では、成り掛けは慧鬼が意図して作ったもの。此れに必要な戦力の鬼と取り巻きを与えて都に嗾けた。動機は都の対応の高み見物…此の辺でしょうか。

どうあれ、慧鬼の狙いは都です。

此処最近の都に来る鬼の減少も此の所為。減ったのではなく、集めていたのだと考えられます。

そうなる前に気付けたのは幸いでした」


そして、豊国さんは此れ迄其の慧鬼に対してしてきた事を話してくれた。

状況は思う以上に、良くはなかったようだ。


「夏の間に、初雁殿に慧鬼の所在を探っていただきました。都を狙う慧鬼がいる事は確証を得られたそうですが、想定される慧鬼の戦力に対処しきれる人数ではなかったので、大まかに絞る程度に留めて貰いました。

実際の潜伏場所を確定するには、もう少し時間が掛かると思われていたのですが、二日前、慧鬼の戦力増強を防ぐ面も含まれていた五の隊による鬼退治の遠征にて、高砂殿が退治なさった大鬼。そして村の情報を以て、潜伏の可能性の場が狭まり、此れにて慧鬼の所在の目星がついたのです」


「え…あ、うーん…役に立ったならいいんですけど…」


「良かったわね、友。御手柄じゃない!」


 好転する切っ掛けに慣れたにしても、大鬼を倒す迄の経緯(※物の無様に蒼さんに連れ攫われる)があるって考えると、感謝されても手放しに喜べない。


「本日から二日後、五の隊と四の隊を中心として慧鬼を退治する事となりました。其処でです」


 一度話を区切って、豊国さんは本題に入った。


「此の慧鬼の討伐に、皆様にも御協力して頂きたいのです」


簡潔だったけれど、簡潔だからよく分からないのだと、白菊さんは腑に落ちない様子だった。


「う~ん…今迄も五の隊、四の隊に交ざって鬼退治はしていたわよね。今回も改めて豊国さんが出張るようなものじゃない気がするんだけど…」


 でも、白菊さんの言葉は僕から否定させてもらう。


「白菊さん。僕は大鬼と戦ったけど、正直…鬼の比じゃあなかったよ。蒼さんの協力が無ければ、倒す事も出来なかった。目の前を通る大鬼の腕のどれか一つにでも当たっていたら、僕は此処にはいなかったかもしれない。

鬼なら、ちょっと倒してこいで済む話だよ。でも大鬼は、人によっては「死にに行け」って言ってるようなもんだよ」


「付け加えれば、此れ迄鬼退治は皆様にとって「此の世界を安心して歩ける為の実践練習」、自分達は其の手助けで済みました。されど、此の慧鬼の退治に参加してしまえば、皆様は客人ではなく、此の都の侍として扱う事になります。

そうもなれば、此の都を離れるのも簡単ではなくなり、面倒臭いものが付き纏う事となるでしょう。外に出ても、此れによる厄介は有るでしょう。申し訳ない事にも、此の都を宜しくない目で見ている者も中にはいますから」


 其の答えを僕達に委ね、豊国さんは黙った。

此れは僕達の今後に関わる話で、結論迄は長くなるだろうと彼は思っていただろう。

 けれど、ふふっと口元に手を添えて笑った夜明が豊国さんを待たせずして切り出した。


「豊国さん、皆さんは僕等を都に留まるのか、外に出るのか、判断を委ねて客人として迎えて下さいました。でも僕達はもう既に、此の都を離れたくないと思うくらいに大切に感じているんです」


「あぁ、夜明の言う通りだ。俺達は文句無くあんた等に協力させて貰うっすよ。

俺、あと白菊、其の慧鬼退治とやらに躊躇無しに組み込んで下さいっす」


 夜明が後押しをして、他の誰も文句を垂れ流さなかった。此れは僕達の総意だった。

聞き届けた豊国さんは、


「……ありがとう、御座います」


と、ゆっくり深々と僕達に向かって頭を下げた。







…ん?


「白夜。…僕は?」


「あ?…友、お前は留守番だ。ゆっっっくり休め」


 白夜は可笑しな事を口にした。其れは言い間違いとかじゃなくて、強調迄されたから僕の頭にかちんときた。


「は…はぁ!?ちょっと待ってよ。僕は全然動ける!一人休んでいるつもりなんてさらさら無いよ!!」


 僕は立ち上がって見降ろし、白夜に食って掛かる。

強気の視線を彼に向けた。


「ああ゛!?お前さっき自分で何言ったか覚えてねぇのかよ!?

骨に罅が入ったんだろ!?んな奴がたった二日とか四日で良くなるわけがねぇんだよバーロー!!休めったら休みやがれっ!」


 白夜も立ち上がって僕は見降ろされ、身長の差を良い事に頭をぐりぐりと拳骨で上から抑えつけてきた。

白夜だって!!…右手を砕かれて切り取った時には黙ってやり過ごそうとしたのに。其の後、ぼろぼろ色んな理由でばれてったけど。


 僕は撤回するつもりは更々無かった。


「僕達にはさえちゃんがいる。其れに薬師寺さんもいる。罅くらいどうって事無いよ。

ね、さえちゃん」


 僕がさえちゃんを見ると、さえちゃんは目を合わせてくれない。


「…うん…友は……元気…だよ……気持ちは…」


「如何考えてもこいつが無理してるだけじゃねぇかよ…」


白夜は額に手を当てた。


 周りの人はというと、さえちゃんはそっぽ向いた儘だし、其の横では「友が白夜に強気に出るなんて…やっぱ、口調が変わったからかしら…」とか呟いていて、豊国さんは何か思案して俯いている。


 ねちっこい事に白夜はまだ僕を諦めさせる事を諦めてくれない。僕も諦めたくないから、此の儘堂々巡りといくかと思ったけど、収束させたのは、したり顔で立ち上がった夜明であった。


「よーし、分かった。では、心配性な白夜君の為に一つ、安心要素を付け加えようじゃないか!其れは…」



                  ※        ※



 時は戻って、


「どっこが安心要素だ!?不安しかないわっ此の戦闘音痴がっっ!」


白夜はまだあの時の事を引きづっている。


 僕も行く。

ドヤ顔で、握った手に立てた指を自分に向けて夜明が宣言した時の白夜の顔は言い表せない程凄かった。其処からは、あれよあれよという内に僕と夜明の同行が決まったのだけど、白夜は納得いってなかった。


「白夜も知ってるんだね。夜明が根っからの戦い下手な事」


「私も未だに想像付かないわね。夜明が刀振り回してる姿とか」


 勿論、夜明は鬼と出会って対処する術を持っていない。ので、豊国さんが話を通してくれて、今は三井寺、さんの所にいる初雁さんが夜明に付いてくれる事になっている。

余計な仕事を増やしてしまったと、申し訳無く思ったが、彼は笑って快諾してくれた。


「友はもう…本当に平気なの?」


「…白夜もそうだけど、白菊さんも大概に心配性だよね。平気平気。

昨日は一日中さえちゃんに付きっきりで歌を使ってもらっちゃったからね」


「そうなの…。だから朝あんなにぐっすりと眠っていたのね」


 朝が早かった僕達と異なり、さえちゃんは綺麗な寝姿で深く眠っていた。

矢張り一日中は、無理させ過ぎちゃったんだろうと目線が下がる。

 

「相手が沢山いるなら、其れこそ僕の歌の出番じゃないか!

白夜、今に見てろよ。驚き過ぎて、顎を外して、口を閉じないようにしてやる」


前の方では、夜明が白夜を指差して、物騒にも予告していた。












「む…。如何やら向こうにも気付かれたようだ。視線を感じる」


 三井寺、さんが足を止める。春苑さんも感じたんだろう。腰に差した木刀に手を添えて腰を落とした。

空気も緊張が高まる。


「作戦は先に話した通りだ。拙者と三井寺の率いる小隊によって慧鬼を葬る。以外の者は慧鬼によって集められた、大量にいるとされる鬼の殲滅を行ってもらう。

基本を二から三人で纏って行動しろ。個人行動は死に繋がると思え。対処し切れない量の鬼と会い塗れた場合には無理に戦うな。

また、此の森の中で何処に慧鬼がいるか、分かっていない。万が一にも出会った場合には、先に渡した合図を使い、拙者達を待て。徹頭徹尾、引きを重視しろ」


「「「「「「「「「「「「おう」」」」」」」」」」」」


 紅さんの作戦の確認に低い静かな声が多数帰ってくる。柄に触れる音。鯉口が切られる音も微かに聞こえる。


「ところで、だ」


「「「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」」」


 其の後で三井寺、さんも口を開く。重要な事を聞き逃さないように皆神経を尖らせた。

だが、


「何故…十のと十二のが此処に居る?」


「「「「「「「「「「「「…今、其れ言う!?」」」」」」」」」」」」


「あちゃ~」 「ばれちった!」


 列の真ん中の方に首に狐を巻いた体中包帯だらけの侍がいて、後ろ姿だけでも守さんと五月雨さんだって分かったけど、てっきり三井寺、さん達が応援で呼んだものだと思ったらそうじゃなかったようだ。

緊張が飛んで、全体一帯ざわついた。


「何を暢気な事を!?今から大分気合入れて大仕事をしなけりゃいけない事理解してますっ!?」


「安心しろ。其処の木の辺りを超えん限りは手は出されない」


「感じた視線だけで其処迄分かります!?」


「気づいた。気になった。だから聞いた。其れだけだ」


 主に直接の隊員である五の隊の方々が、マイペースというか、緊張の文字から百キロは遠いような隊長に率先して突っ込みを入れていた。

じゃない隊員達は緊張が途切れて、戸惑いに支配されている。緊張が解けたのは、良い事…なのか?


あっはっは、と口を開けて笑う初雁さんの声が響く。


「本当に…何でいるんですか?守さんに五月雨さん。

自分の隊は如何したんですか?」


(まな)の常々言ってる事の真似になっちゃうけど、二日、三日位隊から離れたって問題無く回るから大丈夫だよ!ちゃんと隊員には伝えたし。

都で隊長やってると、鬼と戦う事減るから体が鈍るんだよねぇ…だから、来ちゃったっ!」


「来ちゃった~」


 此の隊長さん達は…と呆れながら、目線を動かした時に僕は其れを見た。

 此の緩んだ空間で一人、春苑さんは敵でも見るような目を三井寺、さんに向けている。

噴火しそうなマグマのような目は、春苑さんが眼を逸らして閉じ、開いた時には冷静となっており、春苑さんは木刀から離した手を前で組んだ。


「拙者達としては、貴公達程の戦力が加わる事は還って有難い。其れが、本来の役割を全うしてなくともだ。

若干の特異はあったが、やる事は変わらぬ。皆のもの、各々のすべき事を成し、完全に慧鬼を討ち滅ぼそうぞ!!」


多少の混乱は、春苑さんの一喝により納まり、纏った返事で気合を入れた。



                     ※       ※



ノーサイド


「ねぇ…ちょっと僕の作戦に協力してもらえないかな?」










「夜明のばっきゃろうっ!」


 走りながら、白夜は唾と一緒に吐き出す。

だからって足を止める理由にもならない。隣を走る友も草を踏みつけ、根を跳び、木を蹴って、足を休ませない。

止まれないのは、後ろから追われているからだ。


〈キッ〉    〈キッ〉

     〈キッ〉

  〈キキッ〉  〈キキキ〉

〈キシッ〉


 鵲の 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける。

此の白夜の歌は、使い様によっては鬼を引き付ける事が出来る。其の効果も相まって、二人を三十は軽く超える量の鬼が二人を追っていた。

こうなっては二人の手には負えない。中には大鬼らしき姿が二体。四つ足の形のものと鳥の姿で飛んでいるものがいた。


「友、大鬼もいるんだが!?」


「慧鬼って大鬼も従えられるのっ!?…無理!僕が戦ったのは人型だから他はよく分かんないっ!」


 そもそも今、友と白夜は鬼を相手にするなと言われていた。

其れを言ったのは夜明だった。


ノーサイド エンド



                   ※        ※



ノーサイド


「では此れから、鬼ごっこを始めたいと思います」


「「「は?」」」


「は~い」


「何々?面白そう!」


 夜明の言葉に対して、呆れた声を返したのは友、白夜、白菊。純粋に、暢気に返事を返したのは大河。大きな目を輝かせたのは守である。

声には出さなかったものの、玉梓も楽し気であった。


 此の世界に来てから共に昼夜を過ごす事の多い三人は、こういう時の夜明の提案に嫌な予感を感じていた。


「オニを担当しますのは鬼です。鬼がオニをします。逃げる側は当然逃げる以外の事はしてはしけないので攻撃もしてはいけません。

決まりは以上です。

オニに追いつかれても、身の安全は保障しませんので御了承お願いします。分かりましたか?はい返事!」


「「は~い!」」


 隊長の二人はノリ良く、アクションヒーロー系のショーの子供紛いに返事をする。物騒に語る割に緊張の欠片も無い。


「夜明…其れをする理由は何だ?」


白夜はノリに乗らない。


「多いとされる鬼を各個撃破するのは効率が悪い、何より面倒臭い。出来る事なら、一気にやっつけたいところだよね。

だから、やるべきは鬼を集める事。

鬼が嬉々として追いかける得物の条件は、無抵抗の弱者。だから逃げる。逃げるといったら鬼ごっこ。でしょ?」


 可愛げに首を傾げて言う夜明に、僕の横には幾つもの言葉を噛み砕いている白夜がいる。米神のあたりがぴくぴくと動いているのが見えたのは多分僕だけだ。


「でしょって、てめぇ………分かった。集めてやる。てめぇの提案に乗ってやる。

で、集めた鬼は如何するってんだ。

ある程度は捌けるっつったって、数が多けりゃ潰されんのは俺達の方だぜ?」


 白夜はある程度の私情を飲み込み、真剣に夜明を見た。夜明も笑うのを止めて、真摯に其の視線を受け止める。


「だから、僕が言うんだ。僕に任せて。

白夜は友と。白夜は歌を詠って、友は針で鬼の気を引いて欲しい。白菊は守さんと。斧は歌無しでお願い。守さんも挑発してもらえると助かります。

五月雨さんは一人になりますが、平気ですか?」


「だ~いじょーぶ~。まーかせて~」


「よし。僕は戦えないから、玉梓さんと隠れてる。そして…十二分だ(・・・)。十二分経ったら、こっちから合図を出す。其れまでは、お願い」


ノーサイド エンド


                   ※        ※



ノーサイド


 合図の後は、山を下った先にある見晴らしの良い原っぱへ。


「…っては言われたけどよ。あれって、夜明が歌を使うって事だよな。あいつの歌って友は知っているのか?」


「明けぬれば 暮るるものとは 知りながら  なほうらめしき 朝ぼらけかな。

歌意は〈再昇〉って聞いてるけど、其れ以上は僕も知らない」


 ふーん…と考えた様子の白夜は、枝を避ける。


「〈再昇〉ねぇ…。あの口振りは、相当に自信があるものみてぇだな」


「如何だろ?夜明は、面白くないって叫んでたけど」


「叫んでたのか」


 後ろの存在も忘れかけながら、並走する白夜と友が話していると、




ドーン



と音がして、空で爆発の後に残る煙の塊が解け始めた。近くには二人の位置からでもアホな顔が見て分かる雁が飛んでいた。


「初雁さんの…!白夜、下に降りるよ!」   「ああっ!」


 友と白夜は視線を交わすと、方向を転換。見晴らしの良い原っぱへと向かう。

後ろの鬼達も此れに追従した。


 森の中を駆けた二人は、短く柔らかい草原を踏みつける。

二人は開かれた視界の左向こうに白菊と狐姿の守、右向こうに大河がいるのを確認した。


「こっから、どうすんの…?」


原っぱに出て、其れから如何するのか。というのは、話に出なかった。真ん中に集めるにしたって、其の方法迄夜明は話さなかった。想像が出来なかったのだ。


「知らん、兎に角走るぞ!」


 悩んだって、矢張り走っているしかない。追われているんだから。

三つの組はそれぞれ真ん中を目指していた。

近付いていくと、友と白夜は二組から送られる視線に気付く。二人は其の意味を理解した。


「友っ!」 「うん!」


 友が返事をすると、白夜は歌に変化を加える。すなわち、「二人のターゲット」としていたものを友に注意がいくように。鬼は白夜を狙わなくなった。

此れを白菊にも反映した。


 白菊も「心あてに 折らばや折らむ 初霜の  置きまどはせる 白菊の花」と詠い、斧を黒い金属製に変化させ、地面に叩きつける。

威嚇的行為に、白夜の歌の力も付属して、「狩りにくい」対象と鬼に見られた白菊を大体の鬼は追いかけなかった。二、三の鬼が白菊に襲い掛かったが、一振りされた斧の前に無惨に消え去った。

こうして白夜と白菊は先に離脱する。



 残った三人は、原っぱの中心に幾ばくも無く、もう少しでぶつかりそうだってところで、大河のみ走る速度を上げて先に走り抜けた。大河の後ろの鬼も走り抜けようとしたが、其処に友と守は突っ込んだ。

 自分から向かってきた得物を目にした鬼は、大河を追うのを止めて、代わりに友と守に突き立てる為の牙と爪を向けて襲い掛かった。


「やっ」

 

が、守は一番近い鬼を踏みつけて飛び上がる。


友も倣って鬼を踏み台に跳ね上がるが、高さがいまいちだったので更に空中を踏みつけて高く上がった。


 鬼達を見下ろして「《解》っ」と人の姿に戻った守は浮いているタイプの、友と白夜を追いかけていた鳥型の大鬼を。友は白菊と守の後ろにいた魚型の大鬼の頭を体重を乗せて踏みつけた。

踏みつけられた大鬼は、飛んでもいられなくなって墜落する。大量の鬼の中に。


 離れた所にいる白夜の操作によって、鬼にとっての友と守の印象が薄れる。着地した友と守、そしてまだ離れていなかった大河によって何かが投げ込まれ、三人もまた其の場を後にする。


 友と守を見失った、其れ処か何を追いかけていたのかも知らぬ内に忘れ掛けている鬼達に混乱が広がる。後から来た鬼もぶつかってきて、鬼の団子が出来上がった。


 其処に、


パンッパパンッ


夜明に持たされた、何時作ったのか分からぬ癇癪玉が鬼にぶつかって軽い音を立てて破裂する。よく分からぬ衝撃、唐突に耳にした音は鬼達をより混乱させた。


また、此の音は夜明に対する合図でもあった。



ノーサイド エンド



                     ※        ※



ノーサイド


 隠れていた草木の間から、玉梓は顔を出す。


「癇癪玉が三つ鳴った。日暮君、準備は良いかい?」


後から夜明も顔を出す。

玉梓は戻ってきた雁を腕に乗せると、緊張の面持ちを隠せていない夜明に目線を移した。


「平気…ですよ。此処で怖気づいてしまえば、白夜にどんな雷を落とされるものか。其方の方が怖いですね」


 余裕をかます夜明だが、彼の額から頬に一筋、汗が流れた。

自分が行動を移さなければ、今眼下に存在する、作ってくれた鬼の団子がばらけてしまう。


 胸を二回叩いた手を前に伸ばした夜明。其の表情を見て、玉梓は肩の力を抜いて腕の上の雁の頭を撫でた。





「……座標指定開始…完了。範囲指定開始…完了…固定する。現時点で想定されるイレギュラーを思考、割り出した結果を反映し再試行…問題なし」



 伸ばした手を基準に、失敗を無くす為の必要な事柄を自分の中で埋め込んでいく。イレギュラーも考えられるだけ考え、不備を消していった。



「自己による歌仕様に於ける項目を確認…オールクリア」



夜明は自分が歌を使う上で決めていた確認事項を反芻した。何度も確認して、問題ないと思えるようになれば、少し気持ちが軽くなった。



「今一度歌の発動における全確認事項を見直し、問題なしと判断、歌を発動する事、此れを是とする」



と、夜明は言うと、すっと息を整えて、目標に視界を固定する。そして、







「いきます。

『明けぬれば 暮るるものとは 知りながら   なほうらめしき 朝ぼらけかな』


……歌意《再昇(ひはまたのぼる)》発動っ!来い、光よっ!!」



夜明は強く宣言する。

すると、彼の背後の空が強く光り、玉梓はあまりの眩しさに目を閉じた。


ノーサイド エンド



                 ※        ※



ノーサイド









 夜明が叫んだ時、空の彼方が光った。そう思った頃には、既に光は線となって、地上に届いている事だろう。

 光はいわば太陽のエネルギー、其れを凝縮したもの。其の破壊力は計り知れない。

地上に到達した光は、其処にいたもの…即ち集められた鬼達を跡形も無く消し飛ばした。消し飛んだものは、自分が消えた事にも気付いていないだろう。其れ程のものだった。


 有り余るエネルギーは鬼を消滅させるに留まらず、地面すら消し飛ばす勢いがあった。即ち、地面は大きく抉れ、幾つも地割れを起こし、奥底の土から抉り上げた。

そして巻き起こった風圧が更なる被害を呼ぶ。即ち、生い茂る木を根っこから掘り上げて空に舞いあげた。


 強大な力の塊である事をひけらかした太陽エネルギーの光線であったが、五秒を過ぎた頃には線は細くなり、最後には細々とした糸となって静かに消えた。







 後に残ったのは、其処が溶けて煮え滾る、大きな大きな…大穴だけ。







 此処迄起きた事を最後迄見届けた、引き起こした当の本人、夜明は吹き抜けた強い風に髪をたなびかせて、少し呆然とした様子を残して、唇を震わせてガッツポーズをする。


「ど…どうだ、僕の歌は!?

半径十メートルの大き過ぎて使い所の無い射程範囲!

十二分という直ぐに使わせてくれない待機時間!

にも拘らず十分という限り無く短い歌使用可能の制限時間!

しかも、発射の為にもう一度詠わなきゃならない!

発射時間五秒!

でも加減のきいてくれない破壊力!

また其れに伴って引き起こされる、全くもって環境に優しくない被害の大きさっ!!」





 誇っている?自慢気である?…違う。

此れは、いざ実際に使ってみて、そして出来ちゃった大穴と其の他被害を俯瞰した上で、崩れ落ちそうになっている自分を奮い立たせようという、小動物的な虚勢である。





「ほんっと……面白くないっっっ!」


 夜明は泣けるんなら泣きたかった。


ノーサイド エンド

ファイア

フォール

発射

落ちろ

来たれ


…。

夜明になんと言わせて歌意を発動させるか悩みましたが、大分シンプルな着地点に落ち着いたかと思います。やはりシンプルイズベストです。


【初出の歌】

明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな


             『小倉百人一首』 五十二首 藤原道信朝臣



誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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