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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
進歩の夏
30/65

ー弐拾陸ー「心安らぐ時間」

なんとか八月中に書けました。

しかしながら、何時も通りの取りとめもない御話です。

そろそろ展開を移したいんですがね…。



分からない登場人物は登場人物を参照。

葉月の十七日。


 朝、早く。と、言うには、朝食の手伝いをすると夜に言っていた夜明と外でシロと戯れているようなさえちゃんより遅くに起きた僕は、初日から其処に鎮座させている細紙の置物に手を合わせていた。

 彼の者が言った様に此処に書かれた歌はありがたい意味なんてないし、そもそもに嬉しい効能なんてありはしないんだろうって分かってるけど、初日に何気無くやった行為は今ではやらないと気分が悪くなった。


「…ぅん…んぁ~あ、あぁ…もう朝か。なんか最近朝が来んのが早ぇんだけど、気の所為か…?」


 のそりと、白菊さんがまだ寝ている横の布団から起き上がった白夜が欠伸をする。


「あ…白夜。おはよう。今日も眠そうだ、ね」


「向こうじゃ朝こんな眠いって事なかったんだけどな…」


「毎日頑張ってる…もんね」


「そんなもんか」


 此処には時計はないけれど、白夜が起きたのならそろそろかと僕が立ち上がると、続く欠伸を噛み殺して布団から這い出し、僕の背後にぴったり付く。まだ起きて頭が定まっていないんだろう。


「今日は何だろうな?」


「う~ん…よ、夜明も内緒って言ってたから、な~…」


「げ、夜明が作んのかよ。あいつ、ぜってぇゲテモノ作ってきそう…」


「びゃ、白夜の其の…ぎゃ、逆方向の信頼は如何な、の…?」


「全面的にあいつの所為だ」


 はっきり断言する白夜に空笑いして襖を開き、足を前に出すと、其の足に何かが当たった。

ん?と思って足元を見ると、今まさに倒れそうな木の板が。其の木の板の前にも縦に立った木の板があって、巻き込まれるように倒れて、また其の前にある木の板が倒れて。

あ、此れ分かった。


「〇タゴラ・スイッチ…?」


「多分ドミノ倒しだな」


 僕達がそう話している間にも、こつこつと倒れて進んでいくドミノ。しっかり作られたドミノ用の木の板と違い、其れとして作られていない板じゃあ、さぞ並べるのに苦労したろうとも思えて、邪魔するのを憚られて足を動かさず見ていた。此の限りだと、白夜も見入っているのだろう。

 ドミノは何処から調達してきたのか、階段状の置物の上を通り、頂点に到達してこつんと倒れて落ちたドミノ板によって、小さなざると紐を組み合わせた装置が動作、天井の方に流れが移動した。

 ざるが下に動いた事で止められていた、紐で括られた板がターザンをするように振れて、最も勢いの良い所で静止していた板に当たる。当たった板が連鎖して、そろそろ勢いが無くなった板が弱い力で其の先に用意されていた木の球に当たり、球は此れ又木でできたレールの上をゆっくりと進んで落ちる。

 落ちた球で傾いた飲みの器により、押されたまた別の大きめの球が少し速い速度で転がった。レールの端まで辿り着いた球は抛り出るように落ち、ドミノ板同様ざるで受け止められ、すっと下に下がって、


僕の真上を大きな何かが通った。



ゴイイ~~ン



 其の正体は半径十五センチより少し大きいかという金盥で、僕の頭すれすれを通っていた。でも、僕の頭の上からは白夜が顔を出していた、と、いう事は、


「~~~~~っ!!」


 真後ろを振り返ると白夜が頭部の前後を抑えて跪いていた。矢張りあの鐘を打ったような音は白夜の顔と盥が正面衝突した音だったらしい。序に、元々背の非常に高い白夜は出入りの際頭を下げてくぐらないといけない。なのに、僕が立ち止まった所為でくぐりきらないで中途半端に顔だけ覗かせた事で、衝突した拍子に後頭部をぶつけたみたいだ。

 金盥の高さといい、如何見たって白夜を狙っている。こんな事をするのは一人しかいない。


「うっぷぷ…くっ」


 耐え切れず笑いがこみ上げ、丸めた背中が曲がり角から顔を出していた。

僕と同じくらいの背丈の背丈の其の背中に顔を上げ、ぶつけた赤さも相まって鬼のような形相の白夜が怒声を上げた。


「よ゛あ゛け―――――――っっ!!!」


 僕を押しやり、出ていった白夜に夜明は直ぐに逃げたが、あれでは間もなく捕まるだろう。

何やってんの、と部屋の前で白猫と戯れていたさえちゃんが呆れるのに、僕はさぁ…とだけ言った。



                 ※      ※



 朝御飯を食べて部屋に戻る途中、たん瘤を頭に拵えて廊下に寝そべる夜明と大野さんに足を引き摺られる阿古辺さんを見かけた其の昼。


「夜明の野郎…しょうもねぇことしやがって…」


ある用事にて、城の外に出る、まだ腹の虫の収まらない白夜に付いて城正面の大通りを歩いていた。


「ま、まぁ…白夜、こ、懲らしめはした、んだし…許してあげ、たら?」


「あれで許したら、あいつ懲りずにまたやるからな」


あれで許しても懲りないと思う、と僕は考える。


「あいつもよくやるよなー。毎度毎度…よく飽きないもんだ」


「え…ほ、他にも?」


 僕が見た事があるのは、初日の悪漢の中に放り込まれた時とさっきだけだ。

夜明も忙しそうにしているから、愉快好きとはいえあれ以降何もしていないと思っていたけど。


「何されたっけな…ある時は夜明を追いかけてた女中共の囮にされて、城中駆けまわった事もあるし。唆された子供に水鉄砲を掛けられたのもあったな…あと、ただ城の外散歩してただけなのに、夜明が場外乱闘募集を五の隊に風聴した所為で、其の日一日五の隊に追っかけまわされた事もあるな。あん時は為にゃあなったけど、どんなに走り回っても追いかけてくるから勘弁して欲しかった」


「あ、じょ…女中さん、達のは耳にはしたよ、ような…。め、ずらしく白夜…なんだ、と思ったら、そ、そういう事、だったんだ…」


「あ~あと、普段庭から殿に上がる時に使ってる場所の板を柔らかい奴に差し替えられて、思いっ切り踏み抜いた事もあるわ」


「びゃ、白夜…だったら、今回の、こそ、怪しもう…よ」


「そりゃあ分かってるんだ。けどよ…今回こそは違うって思いたいじゃん」


白夜、其れは絶対来ないと僕は思うんだ。


「さってと…着いたな」


と、足を止めたのは、馴染みにもなった大五郎茶屋だ。僕は隊舎訪問に回った時以来に来た。

 今日は此処に白夜に用事があった。



                 ※      ※



「あ、白夜さん。来て下さったんですね!」


 白夜が中に入って一番、遅めに昼御飯を、若しくはちょっと間の軽食を食べに来た御客さんで賑わう店内で真っ先に声を掛けたのは店の看板娘たる琴ちゃんだった。

 琴ちゃんがとても花々しく笑顔を見せ、其れが看板娘としての枠を超えていたから、昼から夜迄入り浸る気満々の琴ちゃん大好きなおっさん達の視線が痛かった。

琴ちゃんが浮き出すような足取りで白夜の傍にやってくる。


「もしかして、引き受けて下さるんですか?」


「ああ、俺にとっても願ったり叶ったりだ」


「本当ですか!やった!白夜さんと一緒に御仕事出来るなんて夢みたいです!!」


 精一杯の喜びを乗せた彼女の周りだけ昼間だから明るいんだけど、なんか…更に明るい、眩しく見えて、彼女を頑として見ていたおっさん達も目をやられていた。


「親父さんは裏か?」


「はい!呼んできましょうか?」


「ん…いや、親父さん顔出したわ」


 白夜が顔を向けた店奥の暖簾からは小父ちゃんが顔を出していて、早く来い、という素振りだけしてまた戻っていった。

 小父ちゃんの其の行動に琴ちゃんは小さく笑いながら白夜と顔を合わせ、白夜も琴ちゃん目で合図して、店の真ん中を通り、暖簾の奥に姿を消した。

 僕も。声を掛けようとしたんだけど、琴ちゃんは別の、というより撃墜していたおっちゃん達に口直しか?というように呼ばれてしまい、背を向けて僕の声には気付かない。直ぐ傍にいたのにと落胆して、気を持ち直して少し遠目で料理を運んでいる小母ちゃんを呼ぼうとした僕の背中に重いものが伸し掛かった。

首に腕が回される。


「よぉ、久しぶりだな。ぼちぼちやってるか?」


「ゆ…夕山辺さん!」


                 ※      ※



「うまっ!へぇ…此れ白夜が作ったのか。あいつやるなぁ~」


「はっはい。白夜此れから…ちょ、ちょくちょくだっ大五郎、茶屋でアルバイト…をする、らしい…です」


「あるばいと?なんだそりゃ」


「あっ……ひっ暇な時間、を、此処のお、手伝いに費、やす…とか」


「ほぉ…あの大五郎が其れを許したのか…」


 便利な便利な外に置かれた長椅子に座り、無事夕山辺さんが琴ちゃんを呼んで僕はお汁粉、夕山辺さんは白夜の作った鯵の乗る冷やし饂飩を口にしていた。

僕が大五郎茶屋に来たのは、白夜の付き添い。其の帰りに何かしらを食べに来たからだ。

 事の発端は、前に此処を訪れた時。白夜に琴ちゃん及び小母ちゃんが抱き着いた後の事。普段は表に出ない事で名の知れている小父ちゃんが暖簾を潜って出てきたのだ。

出てきた小父ちゃんは何も言わず白夜を見ていたが、白夜は次第に驚きを大きくしていった。


「また手伝いに来て欲しい?俺に?」


 眼力はそう伝えていたらしいけど、遂に何も言わなかった小父ちゃんはまた奥に消えていった。其れをyesと受け取って、今日白夜は此処に来た。と、いうわけだ。


「あのって…お、小父ちゃんは、あまりて、つだいを欲しがらないん…ですか?」


「そう知ってるわけじゃないんだが…俺が知ってる侍をしていたあの人は、自分と合わせられる奴じゃないと隣には立たせない頑固者だったぜ」


「え…ささ、侍だったん…ですか!?」


「ああ。色々あって辞めちまったけどな」


「へぇ~…」


「だとすると、白夜は料理の方面で大五郎に認められたんだな。此の味をしてみれば、納得ものか」


 夕山辺さんは美味しそうに饂飩を口に入れた。

僕は勝手にも小父ちゃんが永らく、始めから此の茶屋をやっているもんだと思っていたけれど、今現在からの過去の推察は難しいもんだと、お汁粉をずずっと飲み込んだ。







 話は変わって、


「門、番の方の仕事は…如何なんです、か?」


「そりゃあ、俺が暇してるって言いたいのか?」


僕は慌てて首を振った。


「暇だっていうなら、俺こそ大五郎の所に御邪魔するだろうよ。…大五郎が許してくれないだろうけどさ。

けれども、門を見張ったところで、拍子抜けする位なんて事の無いのも事実だから笑えないんだよな。こっちは鬼の大襲来の晩から休みを切り上げて人員を増やしたっていうのに」


 あの日の比ではないけれど、鬼が普段よりも都に多く寄り付く時、次の三日間程度は数が少ない事はよくあるそうだ。

 しかし、僕達が都に来た晩の後、近場の鬼の数は減っているだろうという予想はついていたにしても、予想外にも其の後の襲撃する鬼の数は増えず、寧ろどんどん減っていく一方で、終いには山に出て鬼を追いかける四の隊でも誰も鬼を目撃しない日も出てきたという。

 其れはとても良い事の筈だけど、夕山辺さんの顔は晴れやかではなかった。


「俺も自分で言うにはなんだけどよ、侍として長いから其れ相応の勘には自信があるんだが、其の勘をして、此れから良くない事が起こるって告げている…ような気がするんだ。

兎も角、今は嵐の前の静けさって奴?嵐が来る迄幾らの日数かは知らないが、お前も静かで貴重な此の時間を大切にしろよ」





「やーやー、其処にいるのは友かい?隣の燈さんもお久しぶりです」


白の方角からの声に反応すると、先頭に夜明が、後ろにさえちゃんと白菊さんを伴って歩いてきた。


「よぉ、夜明だったか。あん時ぶりだな!後ろの御二人さんは新顔か?」


「始めまして!折霜 白菊です!こっちはさえちゃん!!」


「…就永……さえ…」


「俺は此の都で三の隊の隊長をやっている夕山辺 燈だ。宜しくな」


「……友と…燈…」


「あ!本当!名前似てる!ともともコンビって事ね!!」


「こんびってのはよく分からないが、確かに似てるなぁ」


 三人が話しているのとは別に、夜明は何処か他に向かうのではなくて、迷いなく大五郎茶屋に入ろうとした。


「よ…夜明、まさか…」


「ふふ。白夜の初アルバイト日だなんて知ったら、何が何でも来たいとは思わないかい?」


「あっ朝、白夜にやり…返されて、ゆ、床に沈められたの…に、まだ…や、やるの?」


「当たり前だよ!此れこそが僕の白夜に対する友愛表現だからね!!」


決め顔で言ってますけど、白夜さん、こいつ一切!!懲りてないです。更に付け足せば、白夜の夜明に対する願いは今後叶う事が無いんだろうな。


 僕では止められない夜明を中に見送ると、中からは白夜の盛大なる「帰れ!!」という声が届いた。純粋に白夜の作った料理を食べに来た白菊さんとさえちゃんも中に入り、中を覗けば、おちょくる気満々の夜明に裏から出てきた白夜が威嚇していて、其の姿に白菊さんが腹を抱えて笑っていて、さえちゃんも口元で微笑んでいた。

 其れが僕にとっての静かで貴重な時間だった。



                    ※      ※



ノーサイド


「春過ぎて…夏来に……とはよく聞くよなぁ。あんだっけ?百人一首だったか?あぁ、御前にゃあ分かんねぇよなぁ。

二番目にあんのよ、そうゆう歌。嫉妬しちゃうよなぁ、そんなに有名だと、さ。

春から夏に架けてってのは、新しいものが最も輝きを見せる方向に傾くから人が好むらしいんだよ。

んでもって、夏過ぎて秋来にはない。なくはないかもしれないが、俺は知らん。春夏に比べりゃどマイナーも良いとこだろうよ。あ、マイナー分かんねぇな。まいっか。

語幹がないと言っちまえば其処迄だが、夏の元気さが失われていく、ってだけだと微妙さも良い所だ。だったら、はっきりと移行を感じられる秋其のものか、完全な無に移行する秋冬の方がまだまし、っていうのが人間の志向なんだろうよ。知らねぇけど。

けど、俺は此の時間は好きだよ。どんどん秋に近付く此の時間が。そして、全てが老いに向かい始める秋となる。

良いねぇ…良いねぇ。とても風情がある。

そして、賑やかな人の時間が、次の瞬間にはお前達に衰退してゆく。其の姿を此の季節と重ね合わせられれば、どれだけ美しい事か。



なぁ、お前は如何思う?」


 夜、何処かの木の枝に座り、幹に背を預けた男が其の木の根元で自分に傅く存在に話しかけていた。顔を上げず、男を見ていない其の存在は男の言葉に耳を傾けるも一つとして返答をしなかった。其れを承知の上で男は一人語る。


 男は夏の太陽に倣って高く昇る端の削れた月を見ながら、にんまりと笑った。


「嵐は近い」


男の目は、黄色と緑が怪しく混ざって輝く玉虫色をしていた。


ノーサイド エンド

嵐は近い、と言いながらまだ遠いです。

いい加減早書き出来ればいいんですけど、長々書いたって上手く書けてるわけでもないのに。


次話では久しぶりに新しい歌を出します。


誤字脱字、文章的に可笑しな点はありますか?

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