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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
進歩の夏
24/65

ー弐拾ー「カメラ」

短めです。

文月の二十日。


初の任務(其の内容がお使いであったにしても)で城の敷地外に久し振りに出たとしても、此処の所の日常が崩れる事はなく、僕は庭にて、相も変らぬ修行の日々を続けていた。


其の庭で今日は、中々に興味を注がれるものを見つけた。

さっそく食堂で、夜明に其れを見せた。


「…カメラ?」


見た夜明は、其の物体の名前を口にし、僕は頷いた。

カメラ。

其れも誰もが手軽に扱える家庭用デジタルカメラ、が庭にポツンと落ちていたのだ。


此れはおかしい。夜明も思った事だろう。

都では電気は使っていないし、カメラなる存在もない。


夜明は其のカメラを手に取り、また驚いた。此のカメラ、中身がないのでは?という程軽い。

実際、電源のボタンを押しても、うんともすんとも動きはしない。

カメラ、というよりは、カメラの形をした箱だという方が妥当だろう。


「な、なんでカメラが…あるん、だろう…?」


此処は食堂。

夜明がふむふむ声を漏らしながらカメラを上から覗き込んでみたり、下から仰ぎ見ているのが気になったのか、此処で働く梓きょうだいの三男である弦作さんがやってきた。


「夜明殿の持っている其れは一体…?」


カメラ、射影機。其の文化のない弦作さんには馴染みには言っても、首を傾げるしかない。

ならば、と僕なりの言葉で深くも考えた事も無いカメラの構造を説いていくと、弦作さんの顔色はみるみる悪くなっていく。


「つまりっ其の道具で姿を写される度魂を奪われていく、という事ですねっ…」


待ってくれ。如何してそうなった。


迷信でしか聞いた事ない事を弦作さんは口にした。

そうではないのだと、誤解を解けるように言葉を募っても、


「記憶では消えていくばかりの思い出を、恒久に残す。其れ程の事を成し遂げるのならば、魂が代償であるのも納得です。

其の様なものが広まり、日常的に使われているとは…お二人の住む場所というのは、強かな者が沢山いるのですね」


誤解が解けるどころか、喉を鳴らし有らぬ方向の尊敬を受ける事になった。

此れは説明を重ねる毎に、弦作さんの脳内に存在するカメラの印象が益々恐ろしい方向に変化していくぞ、と次に出す言葉に悩んでいた所で、夜明が舐めるように観察していたカメラ、のレンズが弦作さんに向く。


さっ、と弦作さんは避けた。


別に真っ黒な画面を見ていなかった夜明は、観察していたカメラの先で避けた弦作さんを目撃し、二度瞬きをする。

今度は意図してレンズを弦作さんに向ける。


ささっ、と弦作さんは避けた。


其れを見て、夜明は人の悪い笑みを浮かべて、


「夜明殿!其の恐ろしい物体を此方に向けないで下さい!!友殿っお助けをっ!!」


夜明は楽しそうだ。

弦作さんをレンズ越しに追い回している。弦作さんは命からがらといった様子で逃げ、僕にも助けを求めているけど、僕は助けなかった。

あのカメラは電源が入っていないし、そもそも魂が取られる事実も無いので放っておいても問題ない。

見ている分には、弦作さんはカメラに映るのが恥ずかしくて逃げている人にしか見えない。たとえ本人は死に物狂いだとしても。




其の終わりは、夜明の手からカメラが落ちた事。


夜明はちゃんと握っていた。が、カメラがクッキーのように小さい欠片と大きな欠片に砕けるかの如く、少しを夜明の手の中に残してボロリ、机に落ちた。

三人の視線を引き付けたカメラは机に接触すると、機械特有の重く身の詰まった音も無しに、形を崩して光の粒となって霧散、消えていった。

夜明の手の中に残る小さい欠片は、砕けた其の部分を覗けば光の粒が所狭しと密集し、夜明が手を開くと其れも同じく光を散らして消えた。


「…。」


「…。」


「…な、なんだった、の?いっ今の」


三人で話し合う暇なく弦作さんが厨房にいる梓きょうだいの次男の緒さんに呼ばれて、「あ、では私はこれで失礼します」と行ってしまった。

其の代わり、二人して肩をがっしり掴まれる。


「あんた達、さっきは何やら愉快なものを持っていたね」


振り返れば、跳ねが残る艶のある髪の男性。阿古辺さんだ。

目の下の隈は薄い。まだ其処まで徹夜をしていない事は分かった。



                   ※       ※



「ああいう物が、あんた達の世界には有るわけか。ふ~ん…」


対面に座る阿古辺さんがお茶をあおる。ぷはっと息を吐いた。


「万さんや、嫁さんは如何したんですか?」


隣に座る夜明がちびちび飲みながら訊ねた。

訊ねられた阿古辺さんは少し恍惚と、少し妖艶に笑って頬をついた。


「おいおい、あんた達に必要な知識を与えるのだって僕の立派な嫁(仕事)だろう?大体、あんた達が異なる世界から来たって知ってるのは結構な少人数。多くは地続きの遠方からの来訪者という認知なのは知った事だろうさ。

中でも事情に聡い藤姫様は表に出られない。理知も羨ましいくらいの嫁を抱えている。よってお鉢が僕に回ってくるわけだ。

こんな嫁に出会える機会は少ないから、直ぐに僕の嫁勘が〈此処に嫁がいるっ!〉って伝えてくれたとも」


陶酔のままに、何もない所(おそらく仮想嫁)を抱きしめて、ちゅっちゅと唇を突き出す様をまざまざと見せつけられる。


ある程度満足感を得た阿古辺さんは、仮想嫁を手放し、再び真剣な顔で僕達と向き合う。


「あんた達の持っていた珍妙な物体。あれは帰ったんだ。何処にといえば、あんた達の世界に」


原成世界(僕達の世界)から歌奏世界に世界が判断した不要物が概念として流れるのが二つの世界間における理なのだが、世界とて完璧ではないようだ。

零れる概念の中には原成世界が流すつもりのなかったものが雑ざる事が稀に存在するらしい。

カメラのような、そういうものは迅速に回収されて原成世界に帰還する。其の現象がさっきの光だという。


間違ったものが流れてくる事が稀なのに少ししたら消える為、此の現象見る事も余りないのだそうだ。


「て…事は、僕達も…気付いたら、む…向こうに戻ってる…て事?」


「いや、其れはないな」


「既にこんなに日数が経ってるんだ。僕等が此の世界に来た状況を含めても、偶然はないと思う。

もし…戻る為の条件をクリアしたとしたら、其の時は僕も如何戻る事になるのかは分からない。大きい確率でも気付いたら帰っている事になるんじゃないかな」


此れを踏まえて僕に理解出来るのは、来る筈のない物体には帰る手段が存在しているという事。

では、原成世界は探し物の為に僕達を送ってはいない?とするには、夜明は首を横に振った。


「原成世界が歌奏世界に干渉するのは、世界の関係上から考え辛い。

であれば、あるのは僕達の世界の落とし物。中でも飛び切りに理由を持って戻れない物。そう仮定したいんだ」


其の言葉を受けて、阿古辺さんは何か含みをした顔で指を一本立てた。


「なら、探すべきは〈弁〉だな」


〈弁〉。初めて聞く言葉だ。

だが、阿古辺さんもよく知らないらしい。


分かっているのは、弁が原成世界から歌奏世界に概念を流し、カメラのような間違って流れたものを原成世界に戻すという事。一見すれば神のような、しかし淡々と一定の行動しか行わないシステムなんだそうだ。

弁は確かに二つの世界の何処かに形を持って存在していて、其の在り様から高い確率で歌奏世界にあるとされているが、阿古辺さんは其の姿を見た事がなく、形は不明である。


「戻る筈のものが戻らないのなら、弁自体に不具合が発生したのかもしれない。

其の不具合をどーにかこーにか治せたなら、自ずと原成世界に戻るだろうさ」


「な、んか…は、排水口掃除…みたい」


「強ち間違ってないかもね」


頭の中で赤帽子のオジサンがフッフー!言いながら茶色いキノコのような生物を踏んで走り回った。

慌てて、頭の中から消す。

あの人は配管工であって、間違っても排水口掃除をする人ではない。字ずらは似ているが。

其れはそうとしても、あの人は何時配管工の仕事をしているんだろう。



此の話し合いで、ものを探す基本方針は変えないものの、探し物そのものではなくて弁を探す事になった。

分からない事の多い探しものよりも弁の方が形以外はまぁ…其れなりに分かったからだ。

勿論、探しているものが普通に見つかっても其れは其れで御の字だ。


「まーこんなもんだな。良い嫁さんだった。じゃあ僕はまた嫁探しの旅に出てくる」


阿古辺さんは立ち上がり、食堂を出た。

出たと思ったら、頭だけ覗いて食堂に戻ってきた。


「そういえば、理知が前にこんな事を言っていたな。


〈世界は傲慢だ〉      …とか。


案外あんた達に関係していたりしてね」

此の話を作っている間、本気で赤い帽子の配管工さんの仕事を勘違いしてました。

でもゲームによっては地下の汚れを綺麗にしているから、案外間違っていない……?


元々人が多い上に、数話ぶりの登場は此れからどんどんよくある事になりそうなので、人物を忘れた場合は登場人物紹介を見て貰えるとありがたいです。

登場人物も追々新しい人を追加していこうと思います。


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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