表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
進歩の夏
23/65

ー拾玖ー「都巡りの珍道中 其の参」

 此れは閑話(其の一)である。


 僕達は燈さん(守が名前で呼ばれてんだったら俺も、と)と別れて、守さんを首に巻いたまま十の隊に挨拶をした後来たのは、十五の隊の隊舎。

其の隊舎は閑散として、人の気配が薄い。


 《夜烏》と通称して呼ばれる十五の隊は、夜に活動し、所属する隊員全員が夜に目立たない黒い装束を着るのに由来するという。よって、夜に眠気を持ち出さないように昼は一切の活動をせず、家もしくは隊舎内で寝ているらしい。他では賑やかな隊舎が静かなのはそういう事だそうだ。

では、今訪問しても隊長にも隊員にも会えないのでは、とも思うが、こういう時は起きてもらっていると初雁さんは言う。


 空いていない引き戸の前で中に声を掛けるが、反応はない。

仕方なく返事を待たずに戸を開ければ、此れがまた火事程ではないが酷い惨状になっていた。

他の隊舎と同じ、一段上がった所に机と畳が敷き詰められて、普段なら訪問者の受け答えや文書作成の作業場になっている隊舎の玄関口である其処は、机が引っ繰り返され畳はひっぺがえされ何らかの紙が其処等に散乱して、木の天井も壁も所々刀で切られた跡が残りボロボロになっていた。


「此れは……!?悪漢にでも襲撃されたか…!?」


 初雁さんが顔を険しくする傍ら、僕の首回りを占領していた守さん(狐)が耳をピクリピクリ揺らして顔を上げ、僕の肩から飛び降りた。そして、着地するなり奥へ。僕達も守さんを追っかけた。

廊下を走って守さんを追うと、奥から声がしてきた。


 廊下の奥へ進み辿り着いた、隊舎にある稽古場にいたのは、いずれも十五の隊と分かる烏のような黒い服を着た四人の侍。

一人は僕達に後ろ向きで腕を組んで、残り三人に対し仁王立ちをしており。


「サーセン……ホントニサーセンデシタ…………」←右

「………マコトニモウシワケアリマセン…………」←左

「……………………ナンデ…オレマデ…」←真ん中


 三人の人は、綺麗な正座で其の人に許しを乞うていた。何処かで見た事のある真ん中の人は泣いている。目は三人とも死に掛けていた。


「……あぁ」


 僕の後に中を見て、初雁さんが何かを察した。

正座をした三人は其れ処でなく気付いていないが、流石に立っている一人は気付いて振り向いた。

π(パイ)が大きかった。

組んだ腕から零れ落ちて、あぁ此の腕は腕の行き場がない末に組まれたのではなく、胸を支える為に組まれたんだなと思える程度には。

 侍をしている女性の中には直ぐに女性だって見分けの付かない人がいる。時雨さんが良い例だ。

此の人も後ろ姿は分からなかった。腰まである波立った黒髪は此の世界の男性でも同じ長さの人を偶に見るし、がたいも良い。背も時雨さんも女性にしては高かったが、其れを優に超えていた。

でも表を見れば一目瞭然だった。だってπがデカいんだもの、直ぐ分かる。

帆風さんの話には赤面しようとも、女性の其処に目がいってしまうのもしょうがない。僕だって男だから。


「あんた達、今月の使い達かい?なら悪いけど、今渡す事は出来ないよ。文句なら此の三人に言いな」


 其の女性はダルそうに親指で正座する三人を指した。三人は肩をビクッとさせた。


聞くと、三人は昨夜、あと少しで終わりの文書作成を他の隊員と共にやっていたらしい。女性は其れとは別に外に出て都内の警備をしていたそうだ。

そして、正座する内の右と左が大層仲が悪いらしく、其の仲の悪さは三日に二日は喧嘩する程。殆ど毎日だ。

で、あと数時間で渡さなければならないという切羽詰まった昨夜も二人は喧嘩した。何時もの事で昨夜に関しては構ってはいられないので周りは放っておいたら何時も以上に大白熱。刀を持ち出す程になってしまった。積んだ紙束は舞うわ、机も畳も引っ繰り返されるわで誰も止められなくなり、中で作業をしていた隊員は一人を除いて外に逃げた。

 唯一人というのが、真ん中で正座する十五の隊の隊長さん。逃げたら仕事が進まなくなり間に合わないからと逃げるに逃げられなかったらしい。

逃げた隊員に呼ばれて女性が見に来た時には、中はあの惨状だったという。逃げなかった隊長さんは飛んだ机の下で伸びていた。彼のやり遂げようとしていた文書も言わずもがなの状態だ。そんな訳で、其の時間から今までずっと正座で反省なんだとか。


「…俺、何もやってない……」


 真ん中で正座をする隊長さんが小さな声で言っている。

全く其の通りだけど、部外者なので口出ししない。


〈真ん中が十五の隊の隊長の国原 印南(くにはら いなみ)。右の少しだけ髪を上げて結んでいるのが香具山 楮(かぐやま こうぞ)。左の髪だけを刈り上げて恰好つけてるみたいなのが耳成 思色(みみなり ことしき)。で姐さんが国原 南(くにはら みなみ)。いなみん(印南さんの仇名らしい)のお姉さんだよ!一応知っておいてね!!〉


「う、うん…ご丁寧に、どうも…」


如何でも良い事だけど、僕が心の中で黒装いの男と呼んでいた隊長さんのフルネームを知った瞬間である。



                   ※        ※



 舞台の上には女性が一人。

舞台の中央で首を垂れて、両手で柄を持たない剥き出しの刃を掲げ正座をしている。

楽師が篠笛を吹くと共に、音が大きくなるのに合わせて徐に頭を上げずに立ち上がり、立ち上がりきった後、彼女は顔を上げ、夕焼けを映したような橙の目を露わにした。


 ハッという大太鼓の楽師で、大太鼓の地に響く低い音と太鼓の軽快にリズムを刻む音が厳かさを激しさに塗り替え、女性のゆっくりとした動きも烈しいものに豹変した。

太鼓の音に合わせて足を動かし、舞台を縦横無尽に舞い踊る。回る女性は右手に左手に二枚の板で挟んで刃を持ち、舞に沿って振り回す。荒々しさはなく、女性は刃を己の手のように。

時には背中で刃を投げて、刃が一回転している間に女性も回った。

時には姿勢を低くして刀を突き出し、自分の周りの空を切り伏せた。

燃えるピンク色の二つ結びの髪とゆったりとした袖が彼女に合わせて舞う。


 女性は刃を大きく投げた。刀は天高く飛び上がり何度も回転して、吸い込まれているかのように女性の右手の中に戻っていき、橙の目で前を鋭く見つめて、手の中の刃を何もない前の空間に振り下ろした。


 拍子が変わり、始まったのは美しい舞ではなく、戦乙女もかくやな勇ましい剣舞。振られる刃は先までの儀式さを消して、相対する仮想の敵を討たんとする本来の武器と化した。

たった一人でありながら、もう一人がいるかの如く、刀と刀が打ち合う高い音を幻聴させるように、女性は立ち回った。


一際大きい大太鼓の音が響く。


 全ての音が無くなり、舞台の中央で刃を下から上に切り上げた女性は、其の静かな中で片手で持っていた刃を両手で捧げるように持ち替え座り、最初と同じ姿になった。

そして女性は両手で丁寧に刃を置き、其の刃に対して礼をし、


 女性による儀は終わりを告げた。

顔を上げた女性を迎えるのは、溢れんばかりの歓声。大体野太い、茶色い声だ。


「幸たーん!今日も綺麗だったよ―――!!!」

「愛してる――――――――!!」


 特に大きな声を上げているのは、赤い扇子を頭の上で振り回す男の集団。殆どが侍、此の地域を守る十一の隊の隊員達だ。


「今日も見に来てくれてありがとぉ―――!アタシもみっんなの事大好きだよ――――――――――――!!!」


舞台上の女性もあどけない笑顔で手を振り叫ぶ男達に答え、歓声は一層に増した。


「…何此れ?一昔前のアイドルのコンサート?」


「彼女は侍になる前は踊り子をしていてね。周囲からは舞姫と言われる程の実力者だったんだ。

だから侍になった今でも月に一回舞を踊って住民を活気付けたり、侍達を鼓舞して連帯を高めているのさ」


 舞台上で舞を披露した女性は言撫 幸(ことなで さち)、十一の隊隊長だ。しんえいt…十一の隊隊員からは〈幸たん〉の愛称で親しまれている。

彼女を親しむ人…ようはファンは皆、赤い扇子を振って応援するんだそうだ。其の赤い扇子の量を見れば、今までの隊長同様に彼女がどれだけ親しまれているのかよく分かる。

歌手が曲と曲の合間にするトークのような事をする言撫さんと観衆を眺め、また首元に居座っている守さん(狐)に訊く。


「此れが…ま…守さん、の…言った、楽しい事、って…此れ、ですか?」


〈うんにゃ。琴ちゃんの舞は幾らでも見られるけど、楽しいのは此の後直ぐ!だよ!〉


 柔らかな毛が首を撫でる。

彼の声に呼応するように、舞台の後ろで演奏していた楽師が下りるのと入れ替わりに舞台に上る者がいる。


「相変わらず騒がしいな、十一の」


「もー、春人ったら勝手に上がってこないの!ちゃんと合図するつもりだったんだから」


 言撫さんは其の人が上がってきた事に驚かず、膨れっ面で対応した。

隣の白夜も目を丸くして「春人さん…!?」と呼ぶ通り、三井寺、さんが普段と変わらぬ、おすました表情で木製の大きな刀を背負って立っていた。


「何時もはもう終わりなんだけどー、今日は特別に五の隊隊長の隊長の春人と模擬戦をしまーす!みんなー!アタシの事応援してね――!!」


 三井寺、さんの登場で混乱していた観衆(ほぼファン達)も言撫さんの言葉を聞いて、一気に応援で盛り上がる。

「幸たん頑張れ――!」「勝ってくれー」という声があれば、「幸たんと一緒に舞台上とか許せねぇ!隙をついて三井寺の〈ピー〉抉っちまえ―――!!!」「其の余裕ぶった顔崩れろ―――――!」という声も紛れてる。

舞台に一緒に立っているだけで後者の言い分だ。此れが熱狂的ファンという奴か。


 楽師をしていた一人に刃を預け、代わりに同じ形の木製の刃を受け取った言撫さんに対して、三井寺、さんは人によっては挑発に取られる笑みを浮かべる。


「十一の一人でか?此の身も、如何やら甘く見積もられたようだ」


 彼の言葉に言撫さんの信者はブーイングを贈るが、当の本人は観衆に向けてた顔と異なる強気な顔で三井寺、さんに相対した。


「アタシだって、一人で春人と剣を交えて戦いになるとは思ってないわ。だから……守君!!」


〈うん!〉


 言撫さんに呼ばれて元気に返事をし、僕の肩から跳び立って守さんが狐のままで舞台上に降り立った。三井寺、さんは「…十のと手を組んだのか」と直ぐ合点いっていた。

見ている側も段々と理解が追いついてきて、「「「「「「あの狐野郎―――――――――――――!!!!」」」」」」と怒りの矛先の向きを守さんに変えていた。

やはり同じ舞台に立つにしても、敵役より言撫さんの味方を出来る方が羨ましいみたいだ。


「勝負の決するは一つ、相手に負けを認めさせる事。侍たるもの、自分の引き際を見誤るわけないものね」


「あぁ、構わん」


 言撫さんと守さんは構えた。


「アンタに勝った事なんてないけど、今日こそはコテンパンにしてやるんだから!」


〈ぼく等二人を相手にして、役不足なんて言わせないからね!!〉


彼・彼女等が準備万端になったのを見届けた三井寺、さんは背中から大きな木刀を下ろし片手で持って、


「来い」


と。

其の短い一言が戦いの合図だった。


                    ※       ※



 始めに舞台を蹴ったのは言撫さん。数歩で距離を詰めて、背中に両手で持っていた木刀の左手を外して右から三井寺、さんに斬りかかった。

三井寺、さんはきっと重いだろう木刀を身軽に振って、無難に防いだ。

鍔迫り合いの暇も与えず、後ろに回って襲い掛かったのは狐、守さんは空いた背中を隙として後ろ足で飛び掛かり襲った。まだ迫り合おうとする言撫さんを弾き飛ばて振り返り、守さんを弾いた。

其の背後で立て直した言撫さんが迫る。


 二人は交互に三井寺、さんが一番剣を振りにくい所を攻めるのを三井寺、さんが守る。其の展開が続く。

状況の動きに硬直しているが、三井寺、さんは一度も攻撃に転じず守りに徹している。外野からは二人の方が優勢に見えた。





「隙を潰し、優位に置いて決め手を探す。片やが攻めたら直ぐにもう方やが攻めるのはとても単純で、其の手である事も春人は気付いているだろう。崩すのは簡単だ。だから其の戦法を選んだ二人の技量が試される」


 戦う三人に乗せられて熱を帯びる声援の中に紛れて聞こえる舞台を踏みしめる音。


タンッタタンッタッタッタンッタッタンッタタンッタッタッタンッタッタン


まだ彼女の舞が終わってないみたいに規則正しい音の羅列が言撫さんと守さんの足の音で奏でられる。


「言撫さんがリズムを作り先導し、攻撃を合わせていく。三井寺さんも崩しに掛かっているけど、ある程度なら動きが身軽で速い守君がカバーして流れを引き戻している。

役割をはっきり分けて、十全に発揮出来るようにしている。

鮮麗された規則ある戦法まで行くと、寧ろ隙を見つけるのも難しいんだね。あの二人は本気で三井寺さんに勝つ為に策を練ってきたみたいだね」


                  ※        ※



ノーサイド


 幸が側転で近づき下から切り上げたものを上から押さえつけられ、潰される前に離脱し春人の上から守が狙う。

避けられて掠る事の無かった守は床に前足が着くと直ぐに後退し、体をひねって勢いづいた木刀を向けた幸と交代した。


木刀は春人に当たる事無く大きな木刀に遮られ、遠くに其の身を吹き飛ばされ。


 傍からは幸・守両名が優勢に見えた。

しかし、春人に弾かれ、舞台に立てた木刀を軸に体勢を立て直した幸は、此の世界のアイドル(?)としては印象の悪くなりそうな舌打ちを仕掛けて持ち堪えた。


春人を境に向こうで春人に一撃を入れようとしている守も幸と思っている事は一緒だった。


((攻撃が出来ないっ!!))


 二人が春人の攻撃のチャンスを消している間、春人も守りを固くして二人が攻撃する隙を見事に消していた。


二人はまだ勝負を決める決定打どころか、有効打を一撃も入れていない。

気持ちは焦るが、拍子が崩れれば負けるのは此方である事を二人とも分かっていた。攻める隙を与えず、流れは此方にある筈なのに気を抜けばやられる。



 守と入れ替わりで左手で木刀を持って斬り掛かった幸が目に入れた春人の目は、今か今かと狙い目を待つ鷹のようだった。

喰われる、そう思わせるだけの技量の差が二人と春人の間にある事は分かっていた。

だからこそ、春人が攻撃出来ないように戦う此のやり方で勝負を挑んだ。


 凌がれた守が離れるのと同時に春人の首を狙い木刀を突き出しても木刀の真ん中で止められた。無理に押し通そうにもリズムを崩せば二人のペースを崩し、身を滅ぼす結果になる。

幸は深く追わず後退した。


 未だに春人は攻撃をさせていない。何処かで攻め時を見つけて一気に叩き込めば勝てる筈だと心の内で安心しようとした幸の耳に低い声が聞こえた。


「埒が明かないな」


ノーサイド エンド


                   ※        ※



友サイド


ドンッ


 言撫さんと守さんの足踏みで生まれていた旋律を崩す大きく鈍い音が舞台を揺らした。


「春人さんが仕掛けたっ」


 白夜の言うように三井寺、さんが守さんの飛び掛かる一瞬の、剣を振って身を護る時間はあれど攻撃のしようがない、程度の時間を使ってやった、一歩の体重を乗せた足踏み。


 守さんが動きを止めたのは秒にも満たない僅かな間だったが、其れも立派な隙で、はっと気付いた守さんの目の前には木刀が既に迫っていて。

守さんは空中で身を翻して迫る木の刃を後ろ足で受け止めて、後方に跳んだ。


流れが変わったのを感じた。


 三井寺、さんは守さんを追撃しようと足に力を入れるが、瞬間の判断で振り向き、守さんの攻撃が失敗したにも関わらず変わらず背後に強襲した、此処までで一番雑に早く振られた言撫さんの木刀を振り返る勢いのまま、言撫さんが何度もやっている回転切りの容量で真っ向からぶち当てて、言撫さんは鍔で迫り合って抑える事も出来ずに弾かれた。

言撫さんは踏み止まれたが、勢いに負けた木刀は手の中の木刀を挟んでいた二枚板から外れてしまい言撫さんの背後に吹き飛んでしまった。


 其の行方を目で追ってしまった束の間、三井寺、さんの木刀はまだ動きを止めておらず、武器を無くし無防備な状態の言撫さんに突き下ろすように木刀が持ち方を変えて落とされた。

寸前の所で体の向きを変えて避けた言撫さんは二度後ろに跳んで距離を取って、辛うじて舞台から落ちていなかった木刀を足元で拾う。


 拾って直ぐ言撫さんは右の広い場所に逃げた。三井寺、さんが追撃をやめなかったのだ。

元居た場所に迫って避けられた木刀を直ぐ持ち直した彼は言撫さんを追いかけた。距離を取った有利はほぼ消えていた。


だが、距離を詰められる短い時間で来るだろう斬撃に出来るだけ備えた言撫さんの目は諦めていなかった。

流れを、自分達の戦いのリズムを取り戻せる機を探していた。


しかし、機を潰したのは敵ではなく、


〈幸ちゃんっっ〉


三井寺、さんの追撃を止めようとした味方。


「っ馬鹿!!」


 言撫さんが声を荒げても、もう遅い。飛び掛かった守さんが止まる事が出来ず、守さんを見た三井寺、さんに目を開くしかなかった。

言撫さんへの追撃の振り(・・)を止めた三井寺、さんはひらりと最低限の動きで守さんを避け、其の無防備な背中に木刀を打ち当てて、言撫さんに向けて吹っ飛ばした。

飛んできた守さんを避けられず、諸共に後方に倒れた。


「勝敗は決したよ。もうあの二人は勝てない」


舞台上の二人はまだ諦めていなかったが、初雁さんの言う通り其処からは三井寺、さんの一方的な戦いになり、幾ばくもせずに、


「…侍たるもの、引き際は見誤らないのではなかったか?」


「……っ!!あー!も――!!降参よ!降参!!参りました――――!!!」


 目を回して倒れる守さんの横で、膝をついて汗を流す言撫さんが負けを認めて、此の勝負は一切息を切らしていない三井寺、さんの勝利で幕を閉じた。



                  ※       ※



「あ――――!くーやーしーい―――――!なんであんなデカい木刀簡単かつ早く振り回せんのよ―――――――!!」


「其の身のように回る事は出来ん」


「回ってこその踊り子よ!其れ位出来ないわけにはいかないわよ!!」


いや、今の貴方は侍でしょう?

 

 観衆は散り、休息の時間を満喫したファンもとい隊員が仕事に戻り、広くなった広場の舞台に腰を掛けて足を放り出した言撫さんは両手を空に伸ばして、舞台の上に寝っ転がった。

伸ばしたままの手が倒れた先では、舞台上に寝そべった、人の姿に戻った守さんに触れた。


「春人の攻撃の手を消すのは良い線だったと思う。けど様子を見過ぎたね。

双方にとって場合によっては己に負をもたらす賭けだから様子見をするのは良いけれど、自分達が作った流れを危険性を冒してでも壊して流れを変えなければいけなかった。

そして、賭けは春人によってされて、見事に引き寄せた」


「其れは流れが此の身に向いたのみであり、真に全を定めたは十の、の所為に他あるまい。

此の身を沈める策を有していたにも拘らず、焦り見誤り自ら崩し去った。

十一のが奪われた流れを引き戻そうと、引き戻し仕切り直せたというのに後に戻れぬところに足を付けた」


 初雁さんと三井寺、さん共同のダメ出しに主に守さんが耳を塞ぐ。「分かってるよー!でも幸ちゃんばっか攻められたら援護しないとっても思うじゃん――――!」と耳を塞いでなお器用にバタバタする守さんの言い分を聞いていた幸さんは「馬ぁ鹿ぁー!春人が相手なのよ!?全ての行動に裏がある程度は考えときなさいよぉ―――――!!!」と微妙に届いている手で叩いて?ぶって?いた。


そんな二人の戯れに目もくれずに背を向けるのは三井寺、さん。


「用は済んだ。此の身は此の身の場に戻る」


 誰に対しての許しを求めているわけではないので、彼はさっさと退散する。

其の背中に初雁さんは笑って口添えをする。


「道中で真継さんが言っていた様に隊長は統率力…とでも言えばいいかな、を基準に選んでいるんだ。まぁ、統率するに力が付随するにはするから、どの隊の隊長も弱くはない。

でも、五の隊は別さ。五の隊の隊長は都で最も強き者が成る(・・・・・・・・・・)


「え、そ、其れって……」


 僕は再度「次はコテンパンにしてやるんだから――!」「だからー!」と起き上がった言撫さんと守さんに叫ばれようと振り向かない背中を見た。


「他の隊の隊長格が二人徒党を組んで挑もうと息の一つ切らさない存在。あれが…春の都最強の男、五の隊隊長、三井寺 春人だよ」


僕が初雁さんの言葉を飲み込んでいる横で、白夜は三井寺、さんの去る姿をじっと眺めてから自分の隠した右手を目にして、動く左手を握って思いの限り力を込めていた。











「次で最後だね。そしたら城に戻る、と。次は…十三だっけ」


「げ…アンタ達汗男ん所行くの?」


 夜明が確認を口にすると、反応したのは何故か言撫さん。しかも、何だか道の端に蟻の集合体を見たような嫌そうな顔だ。

肯定を返すと、言撫さんは顰め極度に顰めた顔で悩んだ後、


「分かったわ。あたしも十三の所に付いて行く。あんな汗男はアタシが退治するからアンタ達は安心しなさい!」


と、物凄い決意の表情で答えを出した。



                   ※        ※



此れは閑話(其の二)である。


 狐になった守さんを首に巻き付けて、幸さん(名前で呼べと(省略))を連れた僕達一行は次の十三の隊舎…ではなく、別の場所を目指していた。

なんでも、僕達三人以外の帆風さんも含めて「「「〈あいつ(/アイツ)(/彼)が隊舎にいるわけが無い〉」」」と口を揃えて言うのだ。


 そうしてやってきたのは十三の隊の地域にある都で一番大きな鍛冶工房。

内部の至る所に炉があり、何処からもカンコンと金属のぶつかる音がする。中に一歩入っただけでムワッとした熱気が襲ってきた。


「此処は都の殆どの金物を作っているんだよ。侍の刀も此処で出来るのさ」


 熱さで舌を出す守さん(狐)に人に戻ればいいのにという思いを抱きながら職人達の合間を縫って進むと、何故か目立つ二三さんよりも歳をとった厳つい御爺さんともっさりとボリュームのある金髪をバンダナ状の物で後ろに流した汗だくの男を見つける。

初雁さんは確実にそっちに移動していた。







「「友よ―――――――――!!!」」


「暑苦しいのよ!此の変態共!!」


 彼等が叫ぶのは僕の名前ではない。紛らわしい。

汗がしっかり沁み込んだ侍の格好だろうとだらしなく着込んだ男と汚れの目立つ着古した着物を着た帆風さんのハグは見た目だけで既に暑い工房の温度を上げたような気がして、幸さんは持ち込んでいた木刀を男に当たるように投げて、命中させた。男の顔にぶつかった木刀はそして近くの炉の中にダイブ。


「あぁぁぁぁぁ!アタシの木刀―――!ちょっと汗男!アンタの所為よ!!」


「えっ俺!?そりゃねーよぉ~、幸た~ん」


「近づかないで!!此の汗男の、変態野郎っっ!」


 十三の隊隊長、佐野 渡(さの わたる)

シッシと虫を払う様にあしらわれようと幸さんに距離を詰める男がそうだ。一定距離を保ちながらじりじり移動している。

お巡りさん、此方です。


〈わたちゃんは此処が好きだからね~。隊舎より此処に居る事の方が多いよ!〉


ついでに、帆風さんの類友で帆風さんより男だろうと食い散らかす節操無し(若干幸さんの偏見有り?)だからというのが幸さんのついてきた理由だ。卑猥発言は帆風さんの方が多い。





 何をやらかしたのか、頭を守さん(狐)に噛まれたまま初雁さんと話す佐野さんを見ながら、文書等のある隊舎に移動するのを待っていると、僕達の前に佐野さんと話していた厳つい御爺さんに話しかけられた。


「お前か?二三を師事しているという小僧は」


そうですと答えたら、納得した顔で「目立ち辛い小僧とは聞いていたが、全く其の通りじゃな」と。

自覚しきった事だけど、こうも真正面に言われると改めて凹む。

気持ちの沈んだ僕を余所に御爺さんは話を続けた。


「儂は此の鍛冶場の長をやっておる者じゃ。火事場の小僧共からは翁と呼ばれておる。御前の事は二三の奴から聞いておる。消耗が激しく、急所以外には効果の薄い針を良しとして使う好き者だとの」


「………(汗)」


「ちょっと御前の今使っている針を見せてみろ」


 携帯している銀色の針を翁に渡せば、上から下から横から針を舐めるように見て僕を偶に目にしてまた針に視線を移す。


「…此の針は御前には合っておらん。所詮は汎用の造り、個人には合わん、か。

分かった。御前の針は御前の針として作ろう。

合わぬ武器に無理に合わせて、扱う御前の腕を腐らせるのは、武器を作る者として忍びない」


其の代わり、御前には此処に通い詰めてもらう必要があるがな。

針を持つ腕を下ろしてフンと鼻から息を噴き出す翁の勝手で、僕専用の針が出来るっぽいです。

嬉しいには、嬉しいんだが、開いた口が閉じないからから「ありがとうございます」と言えない。


「あと、あぁそうじゃ。二三の奴が生意気にも物言いしてきよったからに、儂なりに良いもんを二三の奴に渡した。御前を見て分かったよ。あれは御前の物じゃ。

二三の奴も其のつもりだろうて。精々頑張りな。機を見て、御前の手に渡るじゃろう」


 一人で話を終わらして、けっけと顎に手をついて笑う翁の〈あれ〉というのにはよく分からなかったが、ともあれ、僕達の初任務は何だかんだ終わったのだった。

最後がトンボのしっぽ切り気味ですが、友達の初任務という名の顔合わせは此れにて終了です。思ったより長かった。人も此の三話で大分増えました。覚えられなくても大丈夫です。


戦闘シーンみたいのを作ってみましたが、もう少し長くできればなと思ったのが感想です。


補足としては、

幸は舞うように縦にも横にも回って其の勢いで切る、常時回転切り。

守は噛みつきや切り裂きがありますが、今回は模擬試合だったので狐アタック(体当たり)が主でした。

春人は普通に木刀を振り回してます。


新しい人も気が向き次第、人物紹介に載せていこうと思います。


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ