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船降る星のストラグル  作者: あたりけんぽ
第一部 来し方より訪れし者たち

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23/63

跳躍:ずばり! 集中砲火です!

 ミダス体の数は確実に減っているはずなのだ。


 ルセリアの消耗は尋常ではなく、刃物を突き立てられるような頭痛に苛まされていた。


 生死という概念のないミダス体は、波状攻撃を続けている。しかも、〈氷刃壊花アイシクル・ブロッサム〉について学習したらしく、まばらに飛びかかってくる。


 ハンドガンは早々に撃ち尽くし、警備局から投げ渡されたアサルトライフルを使う。

 連射の衝撃はコンプレッションスーツが吸収する。繊維がきゅっと締まり、腕にかかる負荷を軽減してくれた。


 弾丸はミダス体の脳天を貫き、一時的な行動不能に陥らせる。

 その隙に、ルセリアは後退して銃弾を補給するつもりだった。


 だが、


《左方向から投擲攻撃!》

「ルセリア、逃げろ!」


 エメテルとヤシュカが発した警告に、ルセリアは振り向いた。


「うぇ」


 複数のミダス体が装甲車の残骸を持ち上げ、こちらに放り投げるところだった。

 ルセリアの周りにいる兵士たちもどよめきを上げ、敵に背中を向けて逃げる。


 ――あたしの力で!


 ルセリアはあくまで迎え撃とうとした。

 無謀なのは分かっていた。このシンギュラリティは水分を多く含む生物に対して絶大の威力を誇るが、反面、そうではない物体の破壊には向かない。


《ルーシーさん!》


 エメテルの呼びかけは、『逃げろ』という意味だとルセリアは思った。

 今から横っ飛びに身体を投げ出せば、自分は助かるかもしれない。


 ――でも、他の人はどうなるの?


 可能性があるなら足掻くべきだと考えたのだ。

 エメテルの指示は続いた。ただし、ルセリアが思っていたものとは、全く違う内容で。


《力を使わないで! ()()()()()!》

「え?」


 なんのことかと把握する間はなかった。


 空から、落雷じみた光の矢が落下してくる。

 かと思えば、地面に激突する寸前で、ぱっと消えた。


 ルセリアはその光を知っていた。


 空中に黒い人影が現れる。

 長身痩躯の外骨格。

 後頭部からは生やしたケーブル。

 体表面に浮かび上がる紋様。


 彼は残骸を真正面から受け止めた。無論、吹き飛ばされはしたが、ルセリアのそばに難なく着地してみせるのである。


「いいタイミングだったようだな」

「……イナミ!」


 ルセリアは心の底から歓喜の声を上げる。


「助かったわ。でも、どこから来たの? 上のほうはもう大丈夫なの?」


 頭上には輸送機など飛んでいない。

 まさか〈セントラルタワー〉の最上層から生身でダイブ――イナミならやりそうだ。

 疑うようにじっとりと見つめるルセリアに、彼は軽く答えた。


「ああ、片づいた。クオノにも会えたよ」


 最後の一言に、驚いて言葉を失う。

 それから数秒かけて、最上層で誰が待っていたのかを理解し、満面の笑みを浮かべる。


 二人は互いに視線を交わした後で、敵へと向き直った。


「思うに、あんたとの相性は最悪。あたしの力に巻き込んじゃうかも」

「考えがある。エメテル、ルセリアの視界をこっちに送れるか?」

《え? あ、はい!》

「お前がシンギュラリティを使うタイミングで、俺は敵から離れる。気にせず戦ってくれ」

「……言ってくれるじゃない。ほら、これ」


 ルセリアは彼にATP補給剤を放る。

 イナミはそれを腕に突き刺し、空になった注射器を捨てた。


「行くぞ」

「やるわよ!」


 その合図で、イナミがミダス体の群れに突っ込んだ。


 ミダス体の手が鋭利に尖り、古代のファランクス陣形さながらに迎え撃とうとする。


 だが、彼は両手で槍を押し広げ、その穂先に生体電流を放出する。強引に作った綻びから身体を捻じ込んで、向かい合った一体に頭突きを食らわせた。


 大雑把な戦い方は相変わらずだ。


 突進するイナミが目立ってくれるおかげで、彼を止めようとミダス体が集まる。

 絶好のチャンスだ。


 ルセリアは彼を信じて攻撃する。

 空間上に浮かべた二つの球体で、群れを押し潰すイメージ。


「〈細切れになりなさい〉!」


 二か所で発生した氷牙が、ミダス体の群れに食らいついた。


 ここが正念場と気合を入れてみたが、さすがにきついものがある。

 息を切らすルセリアに、隠れていたミダス体が襲いかかる。隙だらけと見たのだろう。


 エメテルはその動きを完全に捉え、すでに二人に知らせていた。


 逆立ちの態勢で空中に〈跳躍(ジョウント)〉してきたイナミが、ミダス体の頭を掴んだ。体重を利用して引っこ抜き、再び地面に叩きつける。

 舗装にクモの巣状のひびが走り、さらに追い打ちのスパークが迸った。


 一連の動きを、警備局の兵士たちは唖然と見守っている。

 そんな彼らを怒鳴りつけたのは、隊長のヤシュカだ。


「特務部を援護する! 警備局の意地を見せるよ!」


 我に返って「了解!」と答えた声は、雪崩のような歓声へと変わった。

 先頭に立つヤシュカは、部下の援護射撃を受けながら槍型ディスチャージャーを振るう。


 戦局は掃討戦へと移っていた。

 人類は生き延びるために技術を取り戻し、脳的、あるいは肉体的な進化を遂げた。

 ミダス体が不滅の思念体を持とうとも、個々を破壊することはできる。


 勝てる――

 と、この場の誰もが感じたときだった。


 残っていたミダス体が一か所に集まり、身長五メートルはあろうかという巨人と化す。

 皮を剥いで筋肉を露出したような身体から、過熱の白煙がもうもうと立ち昇った。


「でかくなったところで!」


 ルセリアは一気に屠ろうとイメージを膨らませた。


 その空間干渉を感知したか、巨人は腕を振るって空を薙ぐ。

 何本ものパイプが絡まったような手から、氷刃が無数に突き出た。

 その腕を、巨人はあっさりと切り離し、新たな手を生やす。


「う……」


 生体エネルギーの消耗を度外視した再生力で押し切るつもりらしい。


 イナミも振り回される腕をかいくぐり、脈打つ胸部に張りついて放電した。

 その破壊が体内に到達する前に、巨人はイナミを掴み、装甲車へと投げつける。


 なんとか〈跳躍(ジョウント)〉で衝突を避けたイナミは、ルセリアの横に出現して呻いた。


「もっと小さかったが、あれに似たのと〈ザトウ号〉で交戦したことがある」

「どうやって倒したの?」

「ライフルで滅多撃ちにして、再生中に逃げた」


 ルセリアは肩を落とした。


「アレの場合、削り切るのに何時間くらいかかると思う?」

「さあ」

「……オーケイ。他の手を考えましょ」


 と、タクティカルグラスの骨伝導装置が大きく震えた。


《ずばり! 集中砲火です!》


 エメテルの大声に、ルセリアは「いっ」と片目を細める。


「でも、今のを見てたでしょ?」

《敵は一瞬で再生するワケじゃありません。ルーシーさんと警備局のみなさんでミダス体の心臓部を露出させ、イナミさんがとどめを刺す。どうでしょう?》


 イナミは「ああ、やってみよう」と答えた。


 どんな無茶な作戦を伝えても、同じように実行しようとする気がする。ルセリアは、彼に頼もしさと感覚のずれを同時に感じた。


《警備局の隊長さんにもお伝えしました――って、前!》


 巨人はこちらの打ち合わせを呑気に待ってはくれない。図体の割に素早い動きで、こちらに突進してくる。


 ――足を止めないとやばい。


 そんなルセリアの意志に応えるように、警備局の装甲車が走り出す。

 まるでイノシシのように、鉄の塊は太い足へと突っ込んだ。


 運転席には誰も乗っていない。操作用ケーブルも接続されていない。

 遠隔操作。一体誰が――


 装甲車に残っていた燃料が引火し、爆発によって片足を吹き飛ばす。

 手をついて(ひざまず)く巨人を見て、エメテルが叫ぶ。


《い、今ですよっ》


 そのとおりだ。ルセリアは最初に攻撃をしかけた。

 巨人は片手を盾に凍結を防ぎ、先ほどと同様にあっさりと切り離す。


 その切断面を狙って、警備局が一斉射撃を始めた。

 マシンガンから放たれる銃弾とグレネードの爆発が傷口を押し広げ、再生を阻止する。


 ルセリアはもう一度、頭痛に苦しみながらも、巨人の胸部表面を凍てつかせる。


「仕上げよ、イナミ!」


 そう叫んだときには、もう、イナミは横にいなかった。

 手前に〈跳躍(ジョウント)〉した彼は、助走をつけて凍った胸に飛びかかる。

 鋭い跳び蹴りが一閃。粉砕された後の、肉の空洞に入り込む。


 しかし、最後の一撃が放たれるよりも先に、血管や筋繊維が空洞を塞いでしまった。


 大丈夫なのか。

 いや、いくら頑丈な外骨格に覆われていても、体内で潰されたら分からない。


 巨人が新しい足で立ち上がる。


 警備局の銃撃は、いつの間にか止まっていた。弾切れである。

 こうなったら自分が胸部を切開して助け出すしかない。


 そう判断するルセリアの目の前で、巨人は一歩、二歩とたたらを踏んだ。


 突如、ぎらつく眼球が血管を沸騰させて爆ぜる。

 筋肉も激しい痙攣を起こし、負荷に耐えられずぶちぶちと断ち切れる。


 巨人は何もない場所でつまずき、地響きを立てて倒れた。

 それきりぴくりとも動かない。


 一同が息を呑んで見守る中、巨人の背中を突き破って、二本の手が現れた。まるで水に溺れてもがいているようだった。


 這いずり出てきたのは、イナミである。


 彼のパルス光は乱れていたが、外の空気を吸ってすぐに元のリズムを取り戻す。

 背中から排熱の白煙が噴き出し、風に吹かれて身体に纏わりついた。


 エメテルが《ふー》と安堵の息をつく。


《ミダス体、活動停止を確認。残存敵勢力、ゼロ。みなさん、お疲れ様でした。各地の戦闘も収束しつつあります》


 異なる指揮系統から宣言を聞いた兵士たちが、一斉に勝利の雄叫びを上げ始めた。


 ルセリアはその場に座り込んでしまう。

 疲弊しきって、まともに頭が働かない。しばらくは動けそうにもなかった。

 未だかつて経験のない長時間戦闘である。


 夜が明け、空のデブリが輝き出す。


 まだおぼろげな陽光の下で、イナミが外骨格を解除していた。

 初めて会ったときに比べるとずっと晴れやかな、自信に満ち溢れた表情だ。


 それを見ていると、なぜかルセリアの胸に温かい感情が広がるのだった。


   〇


 イナミは全身にまみれた体液を焼いた。

 外骨格を解除すると、胸元から何かが落ちる。


 カザネの眼鏡――慌てて受け止めた手のひらには、片眼鏡が乗っていた。

 半分はまだインナーウェアの襟にぶら下がっている。ちょうどブリッジのところで、真っ二つに切れてしまったのだ。


 最上層での戦闘の際に、壊れてしまったのかもしれない。

 思わず呆然と見つめていたが、


「また直せばいいよな、カザネ」


 今はそんな軽い気分だった。


 ルセリアがこちらを見ている。疲労困憊(こんぱい)の様子だったが、目が合うと、穏やかな微笑を浮かべてくれる。

 そんな彼女に、イナミも笑みを返して――

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