10話 同時開催 第二回イベント
「蓮にぃ、遅い」
そう文句を垂らす、まやは、現実世界のような肩に掛かる程の黒髪ではなく、桃色の髪はツインテールに纏められ、脚部まで伸びており、動く度に大きく揺れる。
「待ちくたびれちゃったわよ」
対して、現実でも長髪の天姉は、違いと言えば黒が青に変更されているくらいだ。
「お二人の食べ始めが早かったんですよ。さらに加えれば、僕はスープを三杯飲む羽目になったんですけど?」
そして僕であるが、はっきり言って現実の容姿と大差ない。髪の色さえ変更してないくらい、ありのままである。
「そんなことより──」
「そんなこと、ですか。兄としての扱いを受けたことがないように思えるのは、気のせいでしょうか」
無情に耳朶を震わせた、まやの声に、異議を唱えるが、それはおかしいと何故か天姉から抗議される。
「私は弟としてだけど、ちゃんとした扱いをしている筈なのだけれど? 不満足?」
「弟……うーん。どうなんでしょうね。いくつか疑問ですが」
つい先ほどの扱いを加味すると、弟というより、幼き子を相手しているようなものだったと思いますがね。
「イベント。もうすぐ」
「そうね。れんれんは、ちゃんと内容読んできたのかしら」
「話を聞いてもらえないのは、決定事項なんですか? 内容は読んでませんよ」
「蓮にぃ、やる気ないの?」
「この休みに入る前、テストだったの忘れてないですよね? お二人みたいな学力は持ち合わせてないんですから、勉強に集中しないと点数稼げないんですよ?」
「あら、これだってゲーマーという職業に対する点数稼ぎにはなるんじゃないかしら?」
「いくらゲーム好きでもその職業は遠慮します。個人的な意見ですが、純粋に楽しめなくなりそうですので」
「それに蓮にぃは弱そう」
「なんですかその偏見。それなりに得意分野なんですから、弱くはな──」
不満を漏らしていると、邪魔をするようにアナウンスが鳴った。
『諸君。よくぞ集まってくれた。私はGM、及び今回のイベントの進行役を務めさせて頂く、《 Facilitator 》、通称ファターと呼ばれている者である。気軽にファターさんや、ファター様と呼んでくれ』
街に設けられたら会場のステージの上に、一人のGMが唐突に現れる。透き通るような白髪と細身の体躯。更に長身。
「……あれがイケメン補正ですか」
「無駄に多い気もするわね、特にNPCは」
「キャラクターは現実世界の自分をベースに、ある程度の修正しかできませんからね。その点運営サイドは好き放題で、イケメン揃い、美少女揃いの現実です」
このゲームは、運営の扱うキャラ、またはNPCが容姿に優れている──特にイケメンが多い為か、女性プレイヤーもそこそこ居着いている、珍しいゲームだ。
加えて三次元的……運営のキャラに恋する人まで出ているというのだから恐ろしい。
「蓮にぃ、格好いいと思うよ? あれに比べたら────元気出してとしか言えないけど」
「最後の言葉さえなければ、素直に喜べたのですが」
「れんれん、男は顔じゃないと思うわよ?」
「それって仮想現実でも通用するんですかね? 恋愛する為のゲームじゃないんですよ、これは」
それでも恋愛感情を抱く人がいると聞いた事がありますが。
「蓮にぃ卑屈。もし彼女が一生できないようだったら、あたしが娶ってあげる」
「申し出は有り難いですが、娶るって女性側の使う言葉じゃないですよ……」
「れんれんとなら同姓結婚でも大丈夫よ?」
「なんでお二人して僕を女性にしようとするんですかね?」
訳も分からないまま、お二人の妄想の中では女性化させられていた僕。どうすれば女性化する話になるのか、検討もつきませんね。
『さて、前置きもこれぐらいにして本題へと移ろう』
「天姉、説明始まる」
「聞き逃せないわね」
「……」
僕達が会話をしている間にも、長い前置きを披露していたGMであったが、本題に入るや否や、例によって遮断される会話に、もはや諦めるしかないと割り切る。
『初回、及び同時開催中のイベント『ボスラッシュ』では、ただ単に決められたボスを倒していくだけの。個人的には退屈なイベントとなってしまった』
いきなりの、イベント批判。彼がイベント開発に携わっているかは不明だが、開発部から怒られたりしないのだろうか……。
「GMが自分のゲームの悪口言っちゃいましたね」
「私的には楽しかったのだけれども」
「あたしも、それなりに」
「簡単な難易度だったとはいえ、あれ十六人同時攻略クエストですからね。いきなり縛りプレーって楽しくない訳がないですよ」
「確かに十六人だとすぐ終わりそうだから、退屈だって言うのは分からなくもないけれど」
僕達間では好評だったイベントだが、それは縛りプレー前提な為、他のプレイヤー達のように普通に攻略したのではどうも物足りなかったらしい。
『そこで今回は趣を変えた形で、ボス討伐に励んでもらいたいと思う。今回のテーマは────探索だ』
嬉々として、自信満々と、彼は凄んだ。
「歩くイベントですか? VRならではって感じはしますけど」
「バーチャル散歩かしら?」
『参加者のみ、今イベント用に用意した、特製のマップに転移してもらう。そこには、限定アイテム、スキルの数々をあらゆる場所に配置してある。そしてそれらを守るのは、守護者と呼ばれるボスだ』
「要約するとつまり、レア装備が欲しければ、ボスを探して倒せ、と」
前回のイベントに、移動とレア装備が追加されただけのような気もしますが。
『このボスだが、討伐に参加できる人数は無制限だ。参加者の全プレイヤーが一斉に仕掛けて、ボスを瞬殺、なんて事もできる』
「……初回イベントの方が難しい?」
「でも簡単にいくかしら?」
『もちろんその場合は仕様通り、報酬は参加者に自動均等割りの為、大した報酬も得られないだろうが』
「少人数で倒した方が、報酬はおいしい、という訳ですね」
『ここで一つ、大事なルールを設定する』
GMの故意に整わせた顔の造形が、笑みに歪む。
『フレンドリーファイア──つまり、パーティー内外問わず、同士討ちを有効とする』
「──はい?」
『同士討ちのメリットだが、相手にトドメを差す事ができれば、相手が今イベント中に獲得した物全てを、奪う事ができる。デメリットはその逆、負ければ獲得したアイテムは奪われる、という訳だ』
「……遺恨しか残らないような気がするけど」
こんなルールではボス攻略より、プレイヤー達による殺伐とした殺し合いにしかならない。パーティーなど以ての外。何時裏切られるかの不安要素を抱えるだけじゃないか。
『うむ。確かにこれでは、今後の運営に支障を来してしまう。プレイヤー同士のいざこざが目に見えるようだ。そこで条件として、対戦する双方の同意をもって、このルールを有効とするものとする、という結論に達した』
だが当然、運営側も対策を取ってあるようで。
『つまりイベント開始前に、プレイヤー同士の戦闘を有効とするか、無効とするかを決められる、という事だ。仕掛ける側が有効でも、仕掛けられた方が無効にしているのなら、攻撃は通用しない』
なるほど。それならば自己責任という形で収束させられる。他のプレイヤーに負けて、アイテムを奪われたとしても、そもそも対戦を有効にしなければ起こらなかった事ではないか。自らの意志で行った事ではないか、と。
『これを有効とするか、無効とするかはプレイヤー諸君、君達次第だ。一獲千金を狙うか、地道にコツコツと貯めるか──その他細かいルール等は、開始時に配布されるイベント概要書に目を通しておいてくれたまえ。では、選択した者から転送を開始しよう────健闘を祈る』
そう言葉を残し、一瞬にしてその場から消えたGMを見送りながら。
心の内から湧き出る高揚感そのままに、口元に微笑を刻む。




