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序章

ぎゅうぎゅうの満員電車に揺られながらいつものようになろう系のWeb漫画をスマホで見ていたら現場の最寄り駅に着いた。


「おはようございます」


上司「おはよう」


いつもと同じ朝。


いつもと同じ人。


いつもと同じ仕事。


それでいいと思った。


僕には取り柄なんてないから。


いつものようにパソコンの前に座ってCADソフトを立ち上げる。


書きかけの図面を呼び起こすと頭が重くなる。


しくじったら上司や職人の怒鳴り声が響くからだ。


上司「おう、図面のここな、構造のはりと水道の配管がガッツリぶつかってんだよ。干渉チェック通らねえから、配管のルート引き直しな」


「はいただいま」


またやり直しだ。


こんなのは日常茶飯事だ。


文句を言うわけにもいかないから黙って修正する。



カタカタカタカタ


時間はなかなか経たない。


まるで世界中で僕のまわりだけ時間が経つのが遅くなったようだ。


たばこは吸わないから休憩には立たない。


唯一人並なことは忍耐力くらいなものだろう。


ひたすらパソコンにかじりつくだけだ。


カタカタカタカタ


ほぼ完成している図面をいじっていると最近までやっていたロールプレイングゲームのラストダンジョンを思い出す。


雑魚敵が異様に強くて全然進まないし、倒してもこっちのレベルはカンスト目前だからレベルも全然上がらない。


ひたすら終わらない宿題に追われているよう。


カタカタカタカタ


上司「おい、終わったか?」


「はい、もうすぐです」


上司「おっ、なかなかいいな、現場行ってみて確認するか」


「はい」


上司「ああ、現場の確認は明日の朝イチの朝礼前でいいわ。今日はもう図面修正で遅くなったし、定時で上がっていいぞ」


「はい」


はあ、もう定時か。

時間の感覚がなくなっていた。


帰宅ラッシュに揺られながら、帰ったらいつものように趣味に没頭する。


狭いワンルームに帰宅。


趣味のものが多いだけにごちゃごちゃしている。


シャワーを浴びてコンビニ弁当を食べたらいつもの時間。


コンビニの惣菜を口に放り込みながら、本棚からボロボロの古地図や風水、陰陽道の学術書を引っ張り出す。


ふむふむ。


この辺の地盤はやはりこうなっているのか。


この辺の川が~年ごろ氾濫して・・・


中央線はかつての甲州街道であり、江戸城の裏鬼門を守る最大の龍脈だ。


現代の再開発は、そのエネルギーをせき止めないための現代の都市計画なんだ。


1人で納得していたらもう23時。

そろそろ寝るか。


翌朝、5時半。


アラームの音で目が覚めた。


あいにくの雨で外はどんよりと暗い。


……図面の確認のために僕はヘルメットを持って現場へと向かった。


どんよりと暗い早朝の再開発現場。


むき出しのコンクリート、冷たい鉄骨、そして足元を濡らす雨。


昨日修正した図面を見ながら梁と配管の隙間をチェックする。


「昨夜読んだ本にあった通り、このビルの真下はちょうど龍脈の通り道だ。なるほど、だから構造上ここに補強の梁が必要だったわけか……なんて、ただの妄想だけど」


職人「おい!そっちあぶねえぞ!」


「えっ?」


チェックに集中するあまり一歩踏み出した足元が濡れた足場板でツルッと滑る。


スローモーションになる視界。


アッと思った時には体が宙に浮いていて、暗い奈落の底へと真っ逆さまに落ちていく――。


痛みを注ぎ込まれる暇すらなかった。


僕の意識は完全に途絶えた。


次に目が覚めると……見知らぬ豪華な大広間。


目の前には偉そうな王様と冷たい目で見下ろす貴族たち。


鑑定の魔石か何かに手をかざしていて、判定係が声を張り上げる。


判定係「カエデ・ミナト! 固有スキル……『建築』『風水』レベル1! 役立たずの無能め、我が国に貴様のようなゴミを置く枠はない。スラムへ追放だ!」


「えっ?何?」


兵士たちに担ぎ上げられて城門まで連れていかれる。


「勝手に生きろ!」


兵士の一人に蹴りを入れられて僕は城門の前に投げ捨てられた。


状況が把握できない。


風水レベル1?


……は? 建築?風水?


おいおい冗談だろ。


昨日まで僕が研究してたことがこの世界じゃガチのスキルとして動いてるってことか?


レベル1?


そう言えば僕はあのとき・・・


確か雨が降っていて足を滑らせて転落したんだ。


そしてどうやらこの世界に転生したらしい。


ああ、それはいいんだけどこれからどうしよう。


城下町の人々が冷たい視線でカエデを見る。


くそう、人が冷たいのはあっちの世界も一緒か。


とりあえず食べ物と泊まるところを探さないと。


歩いているうちに建物のグレードがどんどん下がっていることに気づく。


あっちの方なら受け入れてくれるところがあるかもしれない。


僕は歩き出した。

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