表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『憧れの、その先へ。』  作者: 夜凪ロア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/16

第1話 入学式

春風に乗って桜の花びらが舞う。


 今日から、私立陽紡高校での新しい生活が始まる。


 新品の制服はまだ少し着慣れなくて、肩に掛けたスポーツバッグだけが、これから始まる高校生活への期待を膨らませてくれていた。


「ここが陽紡高校か……」


 校門をくぐると、多くの新入生が緊張した表情で歩いている。


 その中を歩きながら、橘花朝陽は胸の奥で静かに決意していた。


 ――高校でも、バスケットボールを続けよう。


 中学最後の大会では県大会に届かなかった。


 悔しさは今でも消えていない。


 だからこそ、この三年間は本気で挑戦すると決めていた。


 入学式を終えたあと、新入生たちは体育館前へ集まり、部活動紹介が始まる。


 野球部、サッカー部、吹奏楽部――。


 次々と紹介が続く中、朝陽の視線は自然と体育館の奥へ向いた。


 開け放たれた扉の向こう。


 女子バスケットボール部が練習をしていた。


 ボールが床を打つ音。


 シューズがコートを擦る音。


 その中で、一人だけ目を奪われる選手がいた。


 高い位置で結ばれた黒髪が、走るたびに揺れる。


 味方へ飛ばす正確なパス。


 迷いなくリングへ向かうドライブ。


 そして、一本のシュート。


 ネットだけを揺らす乾いた音が、体育館に響いた。


「ナイス!」


 仲間たちの声に笑顔で応えるその姿は、誰よりも輝いて見えた。


「あの人……」


 気づけば、朝陽は見入っていた。


 プレーだけじゃない。


 仲間へ声を掛ける姿も、転んだ後輩に手を差し伸べる姿も、すべてが自然だった。


 あんな選手になりたい。


 その気持ちは、憧れという言葉だけでは足りなかった。


「女子バスケ部キャプテンの硯先輩だよ」


 近くにいた男子生徒が友人へ話している声が耳に入る。


「今年も県大会上位候補らしい」


「やっぱり有名なんだ」


 朝陽は小さくつぶやく。


 硯葵。


 その名前を心の中でそっと繰り返した。


 すると、不意にコートの中の葵がこちらを向いた。


 一瞬だけ、目が合う。


 朝陽は反射的に視線を逸らしてしまった。


「……何やってるんだ、俺」


 情けなく笑う。


 それでも胸の鼓動は少しだけ速くなっていた。


 その日の帰り道。


 配られた部活動案内を何度も見返しながら、朝陽は迷うことなく男子バスケットボール部のページを開く。


「よし」


 小さく息を吐く。


「ここで頑張ろう」


 強くなるために。


 勝つために。


 そして――。


 ほんの少しだけ。


 あの先輩に、もう一度会うために。


 春の風が、制服の裾を優しく揺らした。


 朝陽はまだ知らない。


 この日、体育館で抱いた憧れが、自分の高校生活を大きく変える恋の始まりだったことを。


――――――


【葵 side】


「今年の一年生、多いね」


 ボールを片づけながら、常盤紬が笑う。


「そうだね。今年も賑やかになりそう」


 そう返事をしながら体育館の入口へ目を向けると、一人の新入生が慌てて目を逸らした。


 さっきから、ずっと練習を見ていた男の子。


 真っ直ぐな目が印象的だった。


「バスケ、好きなんだろうな」


 思わず口元が緩む。


 それだけ。


 本当に、それだけだった。


 この春、自分にとって最後の一年になる。


 その一年が、あんなにも大切な時間になるなんて、このときの私は、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ