祝祭の熱源、あるいは生産効率の暴走
タナハシカメラの店頭に、文化祭の準備に浮き立つ高校生3人組がやってきました。彼らの目的は、模擬店で「伝説のたこ焼き」を焼くためのマシンを手に入れることです。
其の一:低密度の熱源に対する懸念
「すみません! 文化祭の露店でたこ焼きやるんですけど、安くて使いやすいたこ焼き器、どこにありますか?」
高校生たちの爽やかな問いかけに、田所は音もなく彼らの背後に直立し、眼鏡の奥で彼らの「事業計画」を冷徹にスキャンしました。
「(……いけない。文化祭という名の『期間限定・高負荷稼働プロジェクト』において、家庭用の安価な熱源ユニットを導入しようとしている。これは数時間後の熱暴走によるシステムダウン、あるいは生産停止という名の致命的なロストを招く瑕疵だ)」
其の二:謎の「高効率ユニット」の提示
「お客様、ご安心ください。露店という名の過酷な戦場において、数千円の家庭用ユニットでは、あなた方の熱意をホールドしきれません。現在、私が『不休の熱エネルギー供給源』を目下捜索中でございます。……これをご覧ください」
田所がバックヤードからガラガラと台車で運んできたのは、たこ焼き器とは似ても似つき切らぬ、無数のパイプとベルトコンベアが剥き出しになった謎の銀色の機械でした。
「お、お兄さん……これ、何? たこ焼き器なの?」
「いいえ。これは『全自動・超音速球体成形射出ユニット』です。投入口から生地とタコを流し込むだけで、内部の遠心分離加熱システムが完璧な球体を生成。1秒間に3粒のペースで、焼きたてのたこ焼きを射出します」
「……射出?」
其 三:システムの強制増強
田所は無表情のまま、機械の先端にある銃口のような穴を指差しました。
「お客様、静粛に。手で焼くという行為は、人件費という名のエネルギーをドブに捨てる行為に等しい。このユニットであれば、時速60キロで射出されるたこ焼きをお客様が直接口で受け止めるだけで、容器代と割り箸代という名の余剰コストを**完全ロスト(削減)**できます。さあ、文化祭を戦場へとアップデートしましょう」
「死人が出るよ! そもそも予算3,000円なんだよ!!」
高校生たちが悲鳴を上げたその時、死角から音速で振り抜かれた貴島のローキックが、田所の膝裏を正確に捉えました。
「お客様を殺すマシンを売るんじゃねえよこの管理マニアが!!」
「貴島さん……。私は彼らに、文化祭における『供給の覇権』を握らせようとしているだけです。このマシンこそが、行列という名の滞留リスクに対する誠実な回答――」
「黙れ! 高校生はのんびり焼いて焦がすのが楽しいんだよ! これ持っていけ!」
貴島が投げ渡したのは、何の変哲もない2,480円の家庭用たこ焼き器でした。
其 四:過剰な「バックアップ体制」
しかし、田所がそのまま引き下がるはずもありません。彼は高校生たちがレジに向かう直前、彼らのカゴに同じたこ焼き器をさらに5台、無言で叩き込みました。
「……お待たせしました。1台では紛失および故障という名のロストリスクが拭えません。よって、この5台を『予備アセット』として確保してください。なお、お支払いにはあなた方の『卒業までの全小遣い』という名の将来資産を充当させていただきます」
「だから、そんなに買えないってば!!」
「いいえ。射出ユニット(30万円)に比べれば、5台買ってもわずか1万2千円。これは実質、無料に等しい選択です。さあ、今すぐサインを」
今回のリザルト:教育的配慮および売上の全損
結局、田所は「高校生に謎の兵器を売りつけようとした不審者」として本部に報告され、長谷川店長から「お前が学校に行ったら即、警察にホールドされるわ! 表に出るな!」と激怒されました。
高校生たちは貴島の機転で無事に1台だけ購入できましたが、田所がこっそりサービスでカゴに混ぜた「時速100キロまで計測可能なスピードガン」の返品処理のために、翌日も店へ呼び出されることになりました。
「長谷川店長……。再発防止のために、全学生の財布にGPSを登記し、予算オーバーの買い物をしようとした瞬間に私のスマホが鳴る『健全管理システム』を構築してよろしいでしょうか……?」
「お前の存在を今すぐこの社会からロストさせてやろうか!!」




