:収容インフラの物理的崩壊、あるいは身体への直接登記
タナハシカメラでの激務を終え、帰路についた田所。駅の改札前で、彼はかつてない「静かな戦慄」に襲われました。
其の一:通信プロトコル(定期)の応答なし
「(……いけない。改札という名の『認証ゲート』を通過するためのICカード、および食費という名の『運用資金(財布)』、さらには自宅という名の『プライベート・サーバー』にアクセスするための物理キーが、現在私の所有権から完全に**ロスト(紛失)**している)」
田所は無表情のまま、スラックスの右ポケットに手を突っ込みました。しかし、そこにあるはずの底はなく、彼の指はそのまま太ももの皮膚に直接タッチ(同期)しました。
「(……全損だ。私の下半身という名の『物流拠点』において、ポケットという名の『収容インフラ』が物理的に崩壊している。これは構造上の致命的なバグであり、アセットが路面という名の『外部サーバー』へ不当にエクスポート(流出)されたことを意味する)」
其二:欠陥インフラの「緊急ホールド」
「ポケットという概念がロストした以上、これより私は**『身体そのものをストレージとして再定義』**するフェーズに移行します」
田所は駅のホームのベンチで、カバンの中に奇跡的に残留していた「業務用梱包用ラップ(予備)」と「強力な超幅広ガムテープ」を取り出しました。
彼は周囲の視線を「ノイズ」としてデリートし、穴の開いたポケットの上から、自らの腰回りと太ももをラップで**ガチガチにホールド(固定)**し始めました。
「これで物理的なセキュリティホールは塞がりました。今後は、拾い上げたアセット(小銭や鍵)を直接皮膚とラップの隙間にインサート(挿入)することで、**『個体識別情報と資産の完全同期』**を登記して参ります」
其 三:警察官という名の「外部監査員」
夜道、ラップで下半身をテラテラと光らせ、歩くたびに「カチャ……カチャ……」と脚の隙間から鍵と小銭の音を響かせて歩く田所。そこへ、パトロール中の警察官が音もなく接近してきました。
「……そこの君、ちょっといいかな? その……足元の光っているものは何かな?」
「警察官という名の外部監査員の方、静粛に。現在、私の誠実さが**『ロストした収容機能の暫定リカバリー』を執行中でございます。私は今、ポケットという名の脆弱なシステムを捨て、自分自身を『自立歩行型金庫』**へとアップデートいたしました」
「いや、金庫っていうか……君、財布とか鍵を直接ラップで足に貼り付けてるよね? 痛くないの?」
「痛みは『エラーメッセージ』に過ぎません。それよりも、資産が路面にデプロイ(落下)されるリスクをホールドすることの方が、管理員としての私の優先事項です。……監査員の方、ついでに私の自宅のドアという名の『ファイアウォール』を物理的に突破(解錠)するのを手伝っていただいてもよろしいでしょうか?」
其 四:貴島の「夜間緊急メンテナンス」
「不審者として登記される前に帰れバカ野郎!!」
闇の中から放たれた貴島(たまたま夜勤明けで通りかかった)の鋭い水平チョップが、田所の後頭部を捉えました。
「警察官の方、すみません! こいつ、ポケットに穴が開いたショックで脳内のOSがクラッシュしてるんです! 俺がこいつを『強制シャットダウン(自宅軟禁)』させておきますから!」
「貴島さん……。私はただ、失われたポケットという名の『虚無』を、ラップという名の『実体』で埋めようとしただけで……。現在、私の家の鍵は右太ももの裏側45度付近に確実にホールド中であります!」
「癒着する前に剥がせぇぇ!!」
今回のリザルト:衣類インフラおよび田所の社会的座標の全損
結局、田所は貴島にラップをビリビリに引き剥がされ(毛根が大量にロスト)、予備の買い物袋をポケット代わりにして帰宅。長谷川店長からは、翌日「お前は明日から、ポケットを全部溶接した『全裸に近いツナギ』で働け!」と、究極の紛失防止策を登記されました。
「長谷川店長……。再発防止のために、全人類の皮膚をカンガルーのように加工し、天然のストレージをホールドする『人体ポケット化計画』を――」
「お前の存在を今すぐブラックホールへ発送してやろうか!!」




