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イリグチ様 ─逃げなかった子供だけが背負う呪い─  作者: 白波さめち


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15.デグチ

 

 陽が傾く中、俺達は静かに蔵から外に出た。

 全員、口をしっかりと手で閉じて優也の後を追いかける。


 母屋の裏手に回ると、草が生い茂った細い小道があった。

 その道を音を立てないようにゆっくりと下っていく。


 母屋が見えなくなった時点で、優也が息をふぅと吐いて口を開いた。


「今から行くところが、成り代わられた人間が出てくる出口らしい。透花が発見された所だな」


 坂を下り切ると、突然周囲の風景が途切れた。


 そこには、林を円形に切り開いた空間が広がっていた。

 中心に、神社にあった祠と瓜二つの祠が待ち構えるように置かれている。

 

 近づくと、ここだけ世界が違うみたいに空気が重く感じた。

 

 祠の周囲を囲う木の葉が生い茂って、ここだけ陽が当たらないようになっているから?

 それとも、除草剤でも撒いた後みたいに草が不自然に茶色く萎びているからだろうか。

 

 神主の家はここも定期的に管理しているそうだ。

 両開きの扉になっている木の格子。

 その隙間から祠の中を覗くと、小さな祭壇のようなものがあった。そこには、花と木札、両手をくっつけたくらいの大きさの少し黄ばんだ白い皿だけが置いてある。


 それは皿としてはあまりに厚く、妙に丸みを帯びた形状をしていた。ただの供え物を置くお皿にしては、不吉な静けさを漂わせている。


「……ここに『宝物』を置くんだってよ」


「宝物?」


「大切にしている物ってこと。それを成り代わられる人間が『死んだ人の世界』でこの皿の上に置くと、中身がイリグチ様と入れ替わっちまうらしい。心を東に、身体を西に置くとかなんとか書いてあったけど、難しくてよくわかんねぇ」


 優也は苦虫を噛み潰すような顔をして話を続けた。

 

「それに、これも数百年前に()()()()()()()が言ってた事らしいから、本当の事は分からねえし確かめることすら……誰もできてない」


 成り代わりに成功して身体を得たイリグチ様が、当時の最高責任者である神社の宮司に、成り代わりの方法を告げたそうだ。


「透花に聞けば?」


 いい事を思いついたとばかりに幹介が身を乗り出して、全員を見渡す。


「俺達には見えないけど、律が里奈や透花に会いにきていたみたいに、透花も見えないけどココにいるんじゃないのか? どうやって成り変わられたのか聞けばいい。里奈ならイリグチ様が見えるんだろ?」


「成り代わられたすぐ後は、こっちに出てこれないらしい。成り代わりの儀式が完了するまで7日かかるって書いてあったし、透花に聞くのは危ないだろ。こっちに現れるようになった時には“イリグチ様”になってるって事忘れんなよ」


 優也は首を緩く振った。

 そうだったとばかりに湊人も息を吐く。


 透花が見つかってから今はちょうど4日目。

 7日後ということなあと3日しかない。

 最後の7日目……その日はちょうど終業式だ。


「そもそも、透花は何をココに置いたんだ?」


 湊人が祠の中を覗き込んだ。

 白い皿の上の見えない何かを、目を凝らすように睨みつけるが「分からねぇな」と首を振る。

 

 その時「チャリ」と、腰に下げたキーホルダーの金具の音がした。

 視線をやると不細工な赤いキーホルダーがそこにはある。


 ――その瞬間、俺の頭の中に透花のスカートの横で揺れる、白のキーホルダーの姿が鮮明に蘇った。


「宝物は……キーホルダーだ」


 全員の視線が俺に突き刺さった。


「美玖があげたやつ。透花は毎日……それこそいなくなった日もつけてたのに、あれから見てない。無くしたって言ってたけど……」


 美玖が小さく息を呑んで「私があげたアレ?」と泣きそうな顔をした。


「死者の世界にあるってことか」


 白い皿を睨んでいた湊人が視線を外し息を吐く。


「たぶんそうだ。それでさ、今、透花の身体にいる律は自分の宝物をまた持ってるんじゃないか?」


「え? どうして?」


 俺の発言に美玖が首を傾げた。

 他のみんなも、不思議そうに俺を見る。


「だって、宝物を置いたら『成り変わる』んだ。そのまま宝物をそこに置いておくなんて……怖いだろ」


「確かにそうだ。ノートには書かれてなかったけど……交換するのかもしれない。宝物と役割、二つを入れ替える」


 優也が顎に手を当て、確信を得たように頷いた。


 教室にいる律のことを思い出す。

 何か持っていただろうか。

 なるべく見ないようにして過ごしていたから分からなかった。


「お前ら、学校で透花……いや、律か? そいつの宝物を後三日で探し出せるか?」


「やるしかないでしょ」

「それなら私も協力する」

「僕も」


 湊人の言葉に全員が頷く。

 

 僕たちは一先ず解散する事にした。

 太陽が西の空に沈みはじめて、空が夕焼け色になっている。


 急いで帰らなくては――夜になってしまう。


「続きは夜に電話で」


 そう言って優也は母屋の方に帰っていった。

 俺達は優也に言われ、東の祠から伸びるもう一つの小道を進んで村の方に帰る。

 

 村から東の祠に繋がる道があったことを、僕達は知らなかった。草が生い茂っていて道自体が今まで隠れていたようだ。


 ただ、最近誰かが通った事を示すように草は踏み締められていて、道を進むと村で唯一の商店の近くに出た。


「幹介、功太。またな」


 美玖と湊人と共に、少し小走りで家へと急ぐ。

 帰った時には陽が落ちるギリギリだったため、家の前で帰りを待っていた母さんに死ぬほど怒られた。


「暗くなる前に帰ってきなさいって言ってるでしょ!!」


 母さんの怒りは、透花がいなくなったあの日よりも凄まじい。

 その震える声と怯えた目が『イリグチ様の真実について全部知っている』証明だった。




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