14.決意
「助けるって……本気で言ってんのかよ!」
「ちょ! 何言ってんの?!」
優也と湊人は驚いて俺を見た。
だけど俺は本気だ。
「だって、もう一回成り代わりをすれば透花は戻って来れるってことだろ?」
俺がそう言うと、湊人はさっきの恐怖の表情を貼り付けたままで声を落とす。
「お前さ。里奈に会ったって言ってたよな? あいつがどうなったか見たよな?」
その言葉にドキリとした。
怯え、笑みを浮かべながら「混ざっちゃった」と泣いていたチグハグで異質な里奈の顔が浮かぶ。
「全員が……ああなるの?」
「そうじゃない……」
優也はそう言って手元にある番号のない一冊のノートを見た。
「おかしくなるのは、イリグチ様に連れていかれた人間だけだ。このノートによると……自分で入ってイリグチ様に触れられずに出てこれば、大丈夫らしい」
「自分で入って?」
「そう。神社にしめ縄がかかった大きな石があるだろ? あそこが入り口なんだ。昔は祭りの日の夜に神主がそこを通ってイリグチ様に会いに行ってたんだってさ」
神社には昔、肝試しだって言って昼間にみんなで入ったことがある。
鳥居の奥は、山の斜面の一部を大きな手が掬った跡のような窪地に続いている。
神社とは名ばかりで、そこには石の台座の上に作られた小さな木の祠しかない。祠の後ろには、しめ縄が巻かれた巨大な岩があるだけ。
あの岩が――
夜になると入り口になる。
そう言われると、岩の前にある台座とその上に建てられた祠が入り口の『ドア』に見えなくもない。
すると幹介が何かに気づいたように「え?」と声を上げて口を開いた。
「夜? 夜は神社に入っちゃダメなんじゃなかった?」
そうだった。
祭りの日だけじゃなく……
夏の間、夜は誰も入ってはいけない事になっている。
あの日も大人たちは神社の前にいた。
誰も中には入っていないはずだ。
優也のお父さんも神主の格好をしてその場にいたことを思い出す。
「昔は死者の世界で神主が祭事を行っていたのさ。死者の世界でなら、俺達にもイリグチ様を見ることができるらしい。だけどある年、訪れた神主にイリグチ様が触れてきたのさ。それで神主がおかしくなっちまったから、“繋がってない“昼間に儀式をやるようになったって書いてある。これも100年以上前の話だ」
「儀式って……何の儀式?」
「生贄にした事を謝って、お菓子をあげるんだってよ。イリグチ様を慰めるために」
優也は怖さを隠すように、淡々とした口調で語る。
死者の世界を作るために生贄にされたイリグチ様。
その子を慰めるためにお菓子を供え、大人たちは大勢でひたすら謝り続ける。
とても不気味で。
怖くて。
気持ちが悪い。
だけど――今イリグチ様になっているのが透花だと思うと、怖さが少し和らいだ。
優也は、決意を確かめるようにテーブルの上にグッと身を乗り出して俺を見る。
「大和、本当に透花を助けるつもりなのか?」
俺は迷わず、短い返事を返す。
「うん」
「じゃあ、この馬鹿に付き合って、他に行くやつは?」
優也はそう言って、鋭い視線を功太と幹介、そして美玖へと向けた。沈黙が、重たい空気となって蔵の二階を満たす。
「優也君、一緒に行ってくれるの……?」
「ああ。そもそも俺が湊人を誘ったのも悪かったんだよ。親から説明を受けることを避けたくせに、変に興味本意で首を突っ込んじまったから」
「優也のせいじゃねぇよ。でも俺も行くわ」
湊人は困ったように優也の言葉を否定して笑った。
次に口を開いたのは、先ほどまで青ざめていた幹介だった。
彼は震える声を押し殺しながら、ゆっくりと立ち上がる。
「俺も行くよ。だって……じゃないと透花がそのうち子供を攫いだすんだろ? そんなの、友達として見てられない」
こうして幹介も仲間に加わった。
透花が子供を攫い出す――幹介が発したその言葉。
信じたくないという気持ちが、押し寄せる波みたいに心によぎった。内気で優しい透花が、他人を欺いて連れ攫うなんて。どうしても、現実として受け入れたくなかった。
すると張り詰めた空気の中、美玖が「無理」と小さく響く声で呟いた。
「ごめん……透花のこと助けたいけど……私、無理。どうしても……怖くて」
「僕も……里奈のこと見たら……本当にごめん。ごめんなさい」
まるで自分たちの行動が仲間を裏切るすごく悪いことみたいに、謝罪の言葉を繰り返したのは美玖と功太。
優也は責めることなく、少しだけ笑みを浮かべながら「無理に来いとは大和も思ってねぇよ」と慰めるように二人の頭をポンと叩いた。
「とりあえず日が沈まないうちに、デクチの祠だけ見に行くか」
優也はそう言って立ち上がった。




