14.転職の心得
「やっと、真面目な相談にいらっしゃったんですね」感無量というように、ハロワのお姉さんは言った。
「いや、俺らずっと真面目やで」ソウタは反論したが、相手にはあまり響いていないようだった。
「こないだ、紹介してもろた異世界人と会うてんけど、あの人ら最初から強いやん。チートスキル持ってんから。あんま転職とか関係あれへん感じやってん。俺らその点、段階踏んでいかな強なれへんやん。せやからな、まず自分らのスタイルとか、ステータスとかで考えた時に、どのジョブに転職すべきか、ほんでその転職のために、何をどう鍛えていったらええか、相談乗って欲しいねん」
ハロワのお姉さんは、不意に両手で顔を覆った。そして次の瞬間には、嗚咽に肩を震わせはじめた。
「いや、ちょお、どないしてん。俺ら、これで結構真剣やねんて。泣かんといて」
「いえ……、こんなに……まともに相談して頂けることが、本当に……嬉しくて……」
聞けば、異世界から来る転移者はほとんど、いわゆるチート・スキルを持つために、転職神殿でジョブを変えていく必要のない者ばかりで、一方、元からこの世界にいる者も、高位の冒険者はほとんどそのコミュニティの中で情報を共有し、相談の必要もなく事務的に神殿を利用するものばかり、下位の冒険者は転職の前に冒険者という生業そのものを諦める。そのため、こうやって神殿の職員に真面目に相談に来る者は、極めて少ないのだそうである。
ハロワのお姉さんが、一度奥に下がり、鼻をかむ音がけたたましく聞こえた後で戻ってくると、イワオとソウタを交互に見据えて、真剣な表情で言った。
「すでにご存知とは思いますが、『ジョブ』とは、能力の成長を方向付けるパッケージです。『戦士』になれば『力』と『防御』が著しく成長し、『魔道士』になれば『魔力』が大きく向上します。
ですから、重要なのは『何のジョブに就いているか』ではなく、『そのジョブを通して何を得るか』です。
私は、チート・スキルを持たない貴方たちが、知恵と努力によって強くなろうとする、その姿勢に感動致しました。絶対後悔しない転職になるよう、全身全霊で支えて参ります」
「おお、心強いわ。やっぱ転職するなら『転職神殿』やな」イワオが転職サイトの売り文句のような調子で言うと、「なりたい『ワタシ』きっと見つかる」ソウタが転職サイトのキャッチコピーのような調子で言った。
「まずは、ステータスを見せて下さい」
お姉さんの指示で、イワオとソウタはステータスを開き、それを紙に書き出した。
タカマツ ソウタ Lv.26
【戦士Lv.10】
力 :82
技量:91
防御:50
回避:98
魔力:15
知力:54
ゴズ イワオ Lv.26
【白魔道士Lv.10】
力 :111
技量:16
防御:85
回避:17
魔力:106
知力:55
お姉さんはそれをじっくりと見た後、「なるほど……」とだけ呟いた。
「どうなん?」ソウタが訊ねる。
「いえ、悪くないステータスですよ。チート持ちの転移者と比べてしまえば、どうしたって見劣りしますけど、同じレベルの一般的な冒険者よりは総合的に強いですし、バランスが良いですね」
「いや、俺思てんけどな、もうちょい尖ってた方がええんちゃうかて」とソウタは言った。「『魔力』なら『魔力』に全振りみたいなステータスの方が、実用的にはええんちゃう?」
「確かに、最終的には何かに特化したステータスになるのが理想でしょう。戦闘を魔法で完結出来るなら、物理攻撃に使う『力』のステータスは要らないわけですから、その分を『魔力』に振れる方がいい。
けれども、今、スキルが無い状態で、レベルを上げる最中である貴方たちにとっては、基礎の戦闘力として、『魔力』が尽きても戦える『力』、『回避』に失敗しても耐え得る『防御』、こういう基礎の戦闘力がバランス良く備わっている方がいいでしょう」
「説得力が半端やないなあ」ソウタは唸る。
「長く戦って、経験値稼ぐこと考えたら、回復は外せんなあ。俺はやっぱりしばらく『白魔道士』か」
「そうですね。『戦士』と『白魔道士』のコンビは素晴らしいバランスだと思います。その上、イワオさんは前線でも戦えますし、ソウタさんは遠距離支援も出来る。2人パーティでは理想のコンビです。このバランスのまま、よりお2人の戦闘スタイルに合うジョブがあると思いますから、そういう方向で考えましょうか」
「お前魔力の伸びエグない?」イワオのステータスを見たソウタが目を見開いた。「ちょっと前まで60とかそんなもんやったやろ」
「ひょっとして、魔法使いの方と交流が? 魔力を上昇させるのに最も有効な手段は、高い魔力を持った人と接触することです」
「接触て、どの程度?」
「一概には言えないのですが。相性や、状況や、関係性など、様々な要素が影響するので……」
「仮に付き合うてたら?」
「それは、かなり影響を受けることになりますね」
「イワオお前、接触してもうてるやん」
「せやな。濃厚接触やわ」
「クソっ!」ソウタは吐き捨てた。
「修行してんねんて。結構エグいで」
「何が修行やねん。ちょっと派手に遊ぶこと『経験値』言うてる大学生か!」
「いやホンマやて。付き合うてるから、するやん。そういうこと。でな、男て回復まで時間かかるやん。それを白魔法で回復せえ言うねん。で、またするねん。で、また回復するねん。これ、一晩中やで。頭おかしなんで」
「おぉぅ……なんや、一瞬羨ましいけど後からキツいのが容易に想像出来てリアクションに窮するわ」
「それは……」とお姉さんは一度口ごもったが、言葉を選ぶように付け足した。「魔力を底上げする修行ですね。例えば、太陽の光を浴びると、実はお肌にちょっとずつダメージがあります。埃を吸うと喉の粘膜が傷つきますし、実は私たちは日頃生活しているだけで、ほんの少しずつ傷ついているのです。そういうダメージを、白魔法で回復し続けるのです。白魔道士に若い女性が多いのはそのためです。実年齢は結構……アレだったりするんですよ。」
「お前、言うてたやつやん」とソウタは歓声を上げた。白魔法を美容に応用するというやつだ。
「ホンマやな。実際効果を目の当たりにしてもうてるしな」とある魔女は千年を超えるお肌の老化を魔法でリカバリしている。『結構アレ』どころの話ではない。
「ただ、ダンジョンに入る前は、『魔力』が万全の状態で臨みましょう」
「いざという時に、回復使われへんいうて、肌ピチピチやったら腹立つしな」
「ところで、スキルは……」とお姉さんが確認すると、イワオはバツが悪そうに人差し指を立てた。
「1個だけ、出てもうたわ」
「出てもうたてなんやねん。めっちゃええやんけ。俺未だにゼロやで」
「いや……」
「何タメとんねん。スッと言えや」
「『絶倫Lv.1』……」
「おぉぅ……あー……、めっちゃええやんけ」
「いやお前、おべんちゃらにも程あるやろ。大体Lv.1て何やねん。なんで上がっていく前提やねん」
タカマツ ソウタ
【基本スキル】
なし
【個別スキル】
なし
ゴズ イワオ
【基本スキル】
なし
【個別スキル】
『絶倫Lv.1』
いつものように話は逸れたが、この後、ソウタは『剣士』に、イワオは『僧侶』に、無事転職した。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
今回のお話は、スキル『絶倫Lv.1』というのをやりたくて書きました。
『床上手』と迷ったのですが、感覚的に、ちょっと気持ち悪さが許容できるレベルを超えるような気がして、結果的に『絶倫』を採りました。語感も強そうだし。
ただ、実際こうして文章にしてみると、当初自分で思っていたほど面白くなかったような気もします。思いついた時は爆笑間違いなしだと思っていたのですが。
さて、私はFFタクティクスが好きで、ジョブがイジれそうだというのもあり、このお話では転職システムを採用しています。
ステータスとかジョブとかスキルとかいう、プログラム上の概念を、いかに生身の人間に落とし込むかというところが、この手の書き物の難しいところだと思います。
このお話は全編通してギャグでいきますが、この辺は逃げずにしっかり考えて書けたらいいなと思っています。
宜しければ、ご意見などお寄せ下さい。
今後とも宜しくお願い致します。




